神様と11人の私(8)

8「八人目の優等生」


私はいつから、大事なものを嘘で作るようになったのだろう。


先生は優しかった。私が賢いから。

親は可愛がってくれた。私が可愛いから。

友達はわからない。私のことを知らないから。

それでも、それ以上に私は愛されたかった。傷つきたくなかった。


私が最初好きだと思ったシン君は、誰にでも優しかったし、みんなが好きだった。だから好きになるのが、とても楽だった。

合宿の時。その優しさが特定の、自分ではない誰かに強く向いていたと知ったとき、逃げて、逃げて、結果私はキリを作り出した。

私を傷つけない、大事な人を。


考えたくなかったこと。

夢の中のキリは、ヒナノにフラれたシン君に似ていた。

告白されたら楽だなんて、ヒナノは嘘をついた。

いや、あの日のヒナノが嘘だったのか。

なんで忘れてたんだろう。

「…ぁあ、最低だなぁ、私」


キリの存在は、あやふやでいつ消えてしまうかわからない。

今すぐにでも、メッセージを打ちたい。でも、何を言えば良いかもうわからない。


流れで、「好きだよ」も「演奏聞いてね」も言ってしまった。カードを切ってしまった今、取り留めもない会話にキリを感じられなくなるのが怖い。予想できないことを言って欲しいけど、キリは私を傷つけることは言わないだろう。


スタンプを送る。

《こん》

言葉がでない。

おやすみと言えば、会話は終わる。

《将来の夢は》まで打って止める。前にした会話だ。

《新しいともだ》まで打って止める。私の本音が引き出される。


よし、決めた。

《ねぇ、キリ。私は幸せになれるかな》


《ユウ次第だけど》返信は早い。

《俺は、幸せになって欲しい》

空想でも、その言葉で私は頑張れる。

おやすみは、言わなかった。


大丈夫だよ。

最近、学校を休むこともない。

私をブロックした知らない配信者の名前がニュースにのっても、怯えない。


だけどね。何かが、足りないんだ。

不幸じゃなくなってきてる。それだけじゃ足りないんだ。

それをきみで満たすのは、良くないことなんだろうね。それでも、寂しいよ。


大丈夫だよ。私、元々優等生だから。

ちょうど動画のエンコードも、もうすぐ終わる。締め切りに間に合ったでしょ。

明日、どうでもいい演奏会がある。それは本当。

ついでに私の、オンステージも。


ねえ神様。

本当に私はヒナノと仲直りできますか?

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神様と11人の私 @rawa

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