第3話「トリエル(空飛ぶ地獄絵図製造機)、コンビニへ行く!」

ここは夢の中です。

白い壁、目の前には女性のシルエット。


服装まではわからず、ただ「女性である」と分かるだけ。

けれども、その女性からはとても温かいものを感じます。


「……み……み……今日は、あなたが好きな……」


ここで夢は終わり、視界が白くなります。



――――



ピピピ……ピピピ……ピピピ。


時刻は朝6時。今日は土曜日で仕事はお休み。

ですが、あなたは眠り癖をつけないよう、普段通りアラームを設定しています。


捻りのない電子音が部屋に響き、あなたの覚醒を促します。


「う……ん」あなたは枕元を探り、スマートフォンを取ると「ストップ」を押し、アラームを停止させます。


部屋はしん...と静まり返り、外では「ちゅんちゅん」という雀の鳴き声、

室内では「チッチッチ……」という壁時計のクォーツ音が聴こえます。


「おはようございます」

ここで聞き慣れない女性の声が聞こえます。

風鈴のように高音で、透き通った声があなたの聴覚を刺激します。


あなたは脳内で一瞬二瞬考え、「ああ……ピピか」と、その声の主を特定すると

「ああ……おはよう」と返事を返します。


――が……


「うわっ!?」


次の瞬間、そこ、眼前にあったのはワンピース少女姿のピピ。


ピピは普段は恥ずかしいのか、シーツおばけ姿ですが、たまにこうして、

おそらく生前の姿であろう、ワンピース少女の姿をとるのです。


しかし、ここに問題があり、ありていに言えばその姿は「美少女」である……と、いうことです。

しかも相当な。


霊体らしく、その肌は雪のように白く、その上髪はまるで大自然の泉の様に青く透き通っています。


そんなものが、年頃の男性の眼前にあるわけ、しかも寝起きまなこにあるのですから、

驚きとともに反射的に避けようとするわけで……


グキッ!


「痛っ!!?」


とまあ、このように腰も痛めます。


「痛ー……」

「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」


ピピは慌ててあなたに飛び寄り、スッと身体をすり抜けて、背中を擦ります。


「いきなりはビックリするって……」


「すみません……なにぶん生前の記憶などほとんどなくて、

霊体経験が長いものですから……生者さんの感覚が思い出せなくて」


「あはは……」

幽霊あるあるなのでしょうか、そんな彼女の言葉に、あなたは乾いた笑いを漏らします。


冷たい感覚があなたの背中に伝わると、痛みが和らぎます。

しかし、ここであなたはある素朴な疑問を覚えます。


「なあ、ピピって霊体なんだよな?」

「はい、そうですが……」

「じゃあ何で触れるの? さっきはすり抜けたじゃん」


あなたの疑問はもっともで、彼女は「ああ」と合点がいったように声を出し


「エネルギー……といえばいいのでしょうか、霊気を使えばある程度、実体化出来るので」と説明します。


「なるほど、だから普段はただの霊体で抑えているのか」

あなたはそう納得し、「もう大丈夫だよ。ありがとう、ピピ」と彼女を気遣います。


「いえ……」

あなたの背後に控えめなピピの声が響き、少し甘い空気が漂います。


やはり、その声は心地よい風鈴のようにあなたの耳を捉え、

心なしか、少しピピの声のトーンが緊張しているように感じます。


「ああ……ピピが生きてる少女なら」と、先日の様な事を思っていた時でした。


「よ! お二人さん!」

「熱いねー! このこのー!」

「身体は寒いけど、想いは熱いってかー!」

「ヒューヒュー!」


そうです。今やあなたの部屋は7畳のおばけ動物園だったのです。

どこからともなく現れたオタマジャクシおばけ達。


口笛を吹くもの、手を叩くもの、おばけ同士抱き合い茶化すもの、

ハンカチを銜え悔しがるものまで、そのパターンは千差万別です。


この人を小馬鹿にした態度さえなければ、彼らは良い家族となりえたでしょう。

これさえなければ。


「ああ……そうだった……コイツらを除霊しまつしないと……」


思い出されるのは昨夜の件。

イルカおばけによるお風呂場でのショー、顔面アタック。


その後、ワンピースピピに介抱されたのはちょっと嬉しかったけど、

このままではあなたの生活はこのオタマジャクシおばけ達に蹂躙されてしまいます。


「ケケケケケケ」とおばけ達は相変わらずあなたを小馬鹿にした態度……

「今に見ていろ……」とあなたは拳を握ります。


「……さん」

その横、ソファではトリエルが気持ちよさそうに寝ていますね。


大きな口を開けてお腹をポリポリ……

「全く……気持ち良さそうに寝てるなあ……」


ギュー……


と、ここでまるでアニメか小説のように、あなたのお腹の虫が鳴きだしてしまいます。

あらあら、燃料切れですか?


「軽い食事ならば作れますが……」

ここでピピが控えめに手を挙げてくれました。

生前の料理経験があるのでしょうか? ピピは優しい美少女幽霊のようです。


「じゃあ頼むよ。ピピ」

「はい」


ピピはそう綺麗な声で返事をすると、キッチンの方まで飛んでいきます。

やがてピピは手に霊力を込めて、ピンポイントに実体化させると料理をはじめます。


「よ! 新妻!」

「オイラも食いてえ!」

「羨ましいねえ!」


しかし、おばけ達はここでもあなた達を茶化すのでした。

ピピはというと、聞こえないフリこそしていますが、その頬は微妙に赤く見え、

普段真っ白だからこそ、赤く染まった頬が際立ちます。


「……もう」そんな声も聞こえます。


「おいおいやめとけ! 人の恋路を邪魔すると馬に蹴られて死んじまうぞ!」

「そいつは怖い! あ、もう死んでらー!」

「ゲラゲラゲラゲラ」


「……こいつら絶対消滅あの世行きさせる」

とあなたは拳をぎゅうううっと握りしめ、改めて心に誓うのでした。


と、ここでキッチンからカチャカチャという音といい匂いがあなたの耳と鼻を刺激します。

出来上がったのはトーストとスクランブルエッグ。


「簡単な内容ですが……」

ピピはそう言って、出来上がったそれ(二人分)をテーブルへ運ぶと


「トリエルさん、起きてください」

トリエルをまるで母親のように、揺さぶって優しく起こそうとしますが……


「むにゃー!」と寝ぼけてピピの髪を掴み……


ビュン!


「あーれー」

シーツおばけになったピピがあなたにスコーン! と顔面にクリーンヒット。


これにはおばけ達も大爆笑!

ピピはすかさずワンピースピピに戻り倒れるあなたを介抱します。


「大丈夫ですか……」

「ああ……まあね」


「お腹すいたー」

当の本人は何事もなかったかのようにテーブルへ向かい、椅子にぴょん。


むしゃごく! むしゃごく! と爆速で二人分の朝食を平らげてしまうのでした。


「……俺の分は?」



――2時間後――



朝8時、あなたが玄関へ向かうと、

洗い物を終えたワンピースピピがあなたの元へ向かいます。


「あの……どちらへ?」

「コンビニだよ。何も食べてないしね」

はあ……と、あなたが深いため息を吐いて、靴を履きはじめた時です。


スタスタスタスタ……


そんな元気な音が聞こえ、奥からゴスロリトラブル発生機、あるいは空飛ぶ暴走トラック、

自称天使のトリエルが元気よく、バンザイの姿勢であなたのもとへ駆け寄ります。


「トリエルも行くー!」


その様子はまるで刷り込みによって懐いたカモのよう。

「見た目だけ」ならどれだけ癒されることでしょう。


「守りたい、この笑顔」そんな言葉は彼女のためにある。そう言っても決して過言ではありません。

それほどまでに無垢な笑顔です。


しかし、トリエルあるところトラブルありと、既にあなたの防衛本能が全力でサイレンを鳴らします。

その数、およそ火災報知器1ダースはくだらぬでしょう。


ビー……ビー……ビーという音が実際に聞こえてきそうです。


「ねー! トリエルも行くう!」

彼女ははゴスロリ服のフリルをフリフリして猛アピール。


「殴りたい、この笑顔」

あなたの気持ちを代弁するならばこうでしょう。


「ではわたくしもお供いたします」

あなたは大きなため息を吐くと、一抹の不安を抱えながらも外へ出るのでした。



――――


…………


「視線が気になるなあ……」

さすがに外では目立つ……ということでトリエルの翼は引っ込めて、

ピピはワンピース姿なのです……が――


方やゴスロリ少女(見た目16)で方や超が付く清楚系美少女。

目立たないはずがなく……



「ゴスロリ!? なにかの撮影か?」

「あのワンピースの子、彼女かな……すげー羨ましい」


などなど道行く人の視線が刺さる刺さる。

「ただコンビニへ行きたいだけなのに……」とあなたはボヤきますが、まだ序の口。


――――


交差点へ差し掛かると目の前は赤信号、ここを越えればコンビニですが……

「あ、お店だー」とトリエルはダッシュ!


車が接近!


クラクション「ブー!」


トリエルピヨーン。

「ホップ・ステップ・ジャーーンプ!」


トリエルは天使の力の大ジャンプでかわし、車は急ブレーキ。

「あはは! お散歩って楽しいね!」



慌てて追いかけたピピはすうっと車の間をすり抜けて、

周囲は大惨事(ドライバーにとって)一歩手前……!


「……次は交通ルール教えないとダメだな」


ギャラリーは目を擦り、ドライバーは茫然自失です。

なにかいいスマホアプリあったかな……などと考えながら、

あなたはペコペコと謝り青信号を待ち、そっと横断。


トリエルはともかく、霊体経験が長くて生前記憶がほとんどないピピは真面目そうで、

結構天然だな……と、あなたの気苦労は増えるのでした。


――――


ピロリロン……と自動ドアをくぐると、トリエルはわーいと店内をダッシュ。

「何も買わないぞー」とここだけ切り取れば仲の良い兄妹です。


「あ、待ってください」とワンピースピピも続き、事情を知らない人が見れば

仲の良い兄妹の買い物に、超美人の彼女が着いてきたように見えるでしょう。


「ねえ、これ欲しい!」とトリエルが指したのはポテチとコーラ。

ポテチはともかく、コーラなんてどこで覚えたんでしょうね……


「だから買わないって……」

あなたはそう言いますが、ここでトリエルの目が一瞬茶色く光り、

彼女が指先をちょん! とすると……


「うわ!」


あなたのポケットから急に財布が宙に浮き、中からお札が翼の生えた状態で出現!

パタパタパタとレジへニコニコ顔の諭吉さんが一直線です。


レジ店員さんが「……どんな手品ですか」と半ば呆然とする中、

諭吉さん、目を赤くキュピーンと光らせ、口をパクパクと動かします。


「コーラとポテチ……コーラとポテチ……買えるだけ」

「は、はい!」

「急げ……急げ」

「ひぃぃぃぃぃ!!!」


これには店員さんもおっかなびっくり!

諭吉様ご消耗の商品をガンガンスキャナーに通して、

あなたの静止を振り切りあっという間にお会計。


周囲のお客さんもポカーン。


「最近の撮影は大掛かりだなあ…」

「すげー……トリックが全然わかんない」

「これネットにあげよ! 絶対バズる!」


「……もう絶対トリエルは買い物に連れてこない」

「わーい! コーラとポテチがいーっぱい!」


茶色い目を輝かせるトリエルを横目に、

あなたは今や製造されなくなった諭吉さんを失って、塩も御札も買えず無念の帰宅。


「次からは栄吉さんを入れるか……諭吉はもう重要だもんな」


――――


「何も買えなかった……」


そう嘆くあなたをよそに…

「コーラ!」とトリエルは帰るなりコーラをグビグビグビとラッパ飲み。


ぷはー吐息を吐くと、その息から出た「天使の吐息」がコーラにかかり……

コーラがパアアアと光を放ちます。


そして……



ゴゴゴゴゴゴゴ……



「Toriel Launch Control. Commencing final countdown.」

《トリエル発射管制室 最終カウントダウン開始》


「All systems green. Weather clear. Vehicle nominal.」

《システムオールグリーン 天候クリア 全機各部異常なし》


「T-minus 30 seconds.」

《残り30秒》


「CAP down. Unleash your soul.」

《キャップを下げろ 魂を解き放て》


「Main engines igniting.」

《メインエンジン点火》


どこからともなく、ワルキューレの騎行まで流れ出し、

生命を宿したコーラが危険なカウントダウンを開始……


「や、やめ……」


「5……4……3……2……1…… LIFTOFF!!《リフトオフ》」


あなたの祈りも虚しく、ドゴゴゴゴーン! と逆さまになったペットボトルがロケットに!

これにはおばけ達も大喜び!

次々とペットボトルを捕まえると……


「3……2……1」「3……2……1」「3……2……1」「3……2……1」


「3……2……1」「3……2……1」「3……2……1」


「3……2……1」「3……2……1」


「3……2……1」


と一斉にカウントダウンを開始し、シャカシャカボトルシャッフル!


「LIFTOFF!!」


ポンとキャップを抜きペットボトルロケットがブシュー!

「や、やめろー!!」とそれを必死に止めようとするあなたの顔面にズドーン!


おばけ達大爆笑!

床は大惨事……

さらにそこから「あわわー!」とトリエルが天使の権能を発動し、泡が小さなおばけに大変身!


黒いオタマジャクシおばけはプシャー! と可愛い雄叫びをあげてあなたの口へダイブ!

コーラを強制的にあなたの喉へと民族大移動!


「ゲボボボボボボボボ……」

苦しむあなたをよそにおばけ達はさらに大爆笑!

ピピは「あ……あ」と、どうすることも出来ず立ち尽くし、もう部屋は滅茶苦茶の地獄絵図に!


「おばべら、じぇったい、しぇーばいぞでやるうう」

そう改めて心に誓うあなたなのでした。


――――


その後、遊び疲れたのか、ぐっすり寝てるトリエルとおばけ達を尻目に、

あなたとワンピースピピはせっせと二人並んで掃除をするのでした。


「ごめんなさい……止められなくて」

「いや……いいよ。別にピピが悪いわけじゃないし……まあ、わりと楽しかったし」


「あなた様……」

「ピピ……」

「見つめ合う二人、何も起こらないはずもなく」


「お……ま……え……らぁぁぁ!!」


いつの間に目を覚ましたのか、数匹のおばけがアテレコをして、あなた達を茶化すと、

ピピも恥ずかしくなったのか、シーツの姿にドロン!


「ケラケラケラ」とおばけ達再び爆笑。


「いつかソルティ炭酸のペットボトルロケットで三途の川に送ってやるからな……!!」


と、意気込みますが……あなたの平穏はまだまだ遠そうです。


次回!


「ビデオゲームは見る派? プレイする派? それとも……中に入る派?」


デスゲームはなりません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

落ちてきた天使(破壊神)と同居することになった件 ~ふざけんな!! ここは俺の家じゃあ!!~ うさぎのみんと @mintoxyz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画