第2話「天使は一度守護する(取り憑く)と離れられないそうです」

「ねね! おかわりちょーだい!」


トリエルはあなたの服を「グイグイ」と引っ張り催促をしていますね。

相当ポテチが気に入ったみたいです。


あなたの周りにはおばけが飛び交い、さながら妖怪アニメ……いえ、おばけ動物園です。

7畳という空間に彼らはひしめき合い、2……4……6……16匹ほど存在します。


眠そうにあくびをしているもの。鼻ちょうちんを作り爆睡してるもの。


他のおばけと追いかけっこをしてるもの等様々で、

「おばけである」ということに目を瞑るならば、彼らは実に愉快で見ていて飽きません。


さらに、どう持ち出したのか、あなたの部屋にあったトランプで大富豪をしているおばけすらいます。


あーこらこら、ジョーカーで上がるのは反則ですよ?


これが恐怖の対象であるおばけなのか……と本気で疑いたくなるコミカルっぷりです。

あ、ベッドでトランポリンしてるおばけもいますね。


もっとも、その見た目もトリエルの天使の権能により、ゆるく可愛く変えられているので、

おばけと言うよりは完全に新種の何か……といったところでしょう。


そんな彼らの様子にあなたも慣れたのか、あるいは、もうどうにでもなれと諦めたのか、

乾いた冷笑を浮かべています。


「ハハ……トゥーンアニメかよ……」


正しくそれは外国産の児童向けアニメのような世界です。

しかし、これは現実であり、アニメではありません。


「トリエルさんがおかわりを所望しておりますよ」

ここで白いワンピースのシーツおばけ、ピピがあなたのズボンを引っ張ります。


ピピだけは他のオタマジャクシおばけとは違う風貌で、

シーツの状態でも髪の毛があったり、女の子っぽい見た目をしていますね。


「生前は何か力の強い女の子だったのかな……」

そんなことをあなたは考えつつも……


「いやおかわりねーから」


そう軽く、冷たい死体のようにあしらいます。

……が、周りのお化けが食器棚の近くへスルスルと飛んでいくと

「ここにありますー」と手でちょんちょんして教えます。賢いですねえ……


「いや勝手に教えんな!? 塩蒔くぞ!?」


しかし、おばけはあかんべーをすると、ケケケと笑います。

完全に舐められているあなたの叫びは、お部屋に虚しく響きます。


そしてトリエルは何故かソファにどっこいしょ。


「ピピー、取ってきてー!」とシーツの彼女をぽーい!


こらこら、死者(?)は大事にしないといけませんよー。


ピピは「あーれー」とノリノリで飛んでいき、

棚を抜け、中のお菓子の袋をトリエルのもとへ運びます。


その姿は恐ろしいおばけとは正反対です。


「うん、これは夢じゃないな。ありえなさ過ぎて逆にキモイわ」


あなたはなんとか落ち着こうとしますが、やはりこの状況、

未知との遭遇というのは恐れを感じるのでしょう。


「大丈夫だよー、みんな大人しいから。ほらー!

怖くないから笑おうよ!」


トリエルのその一言で、おばけ達は整列し、彼女に敬礼します。

そしてトリエルはと言うと……


「ドンドコドン! ドンドコドン!」

そうポテチの袋を太鼓に見立てて叩き出しました。


するとどうでしょう!

おばけ達は銃を縦に構えるようなポーズをとって大行進!


時折、パン! パン! という音を立て、虹色の花火があなたの部屋を彩ります。

「ね? 楽しいでしょう? えへへっ!」


その愛らしい対応に、あなたもようやく警戒心を解いたのでしょう。

おばけの行進を見つつ、表情を和らげます。


「で、お前は一体何モンなんだよー」

「トリエルはトリエルだよー」

「私はピピと申します」


「はいはい、いいお名前ですね」

自己紹介が終わり、ここでトリエルの興味がまたアニメに戻りました。

おばけの行進も終わってしまい、彼らはまた宙をぷかぷか。


あなたは少し残念そうに視線をトリエルへ向けると、

彼女は12年前流行った魔法少女アニメを配信でピンポイントに見ています。


「茶色い目」をキラキラと輝かせて食い入るようにモニターを見つめています。


「ハートフル・キュアプリか……そんな古いアニメ、よく知ってるな」

「え? これ最新のシリーズでしょ?」


と、トリエルは何故か当然の様に言いますが、自分でも何を言ったか分かっていない様です。

それどころか、今自分自身が放った言葉に疑念を抱いています。


「あれ……わたし、なんでこれ知ってるんだっけ……

ねえ、ここどこ? お兄さん、誰? わたしの家は?」


トリエルはまるでさっきまで、自分の家にいたかのような、そんな態度に急に変わります。

「帰らないと、心配しちゃう……」

そう言ってトリエルは立ち上がりますが、ここで膝をついてしまいます。


彼女の急変に、あなたは異様なものを感じて、駆け寄って支えます。

「おい! 大丈夫か? ゆっくりしてろ」

「帰らないと……さんが……」


ここで彼女の茶色い目の輝きが消えて、あなたの胸に倒れ込みます。

「おい!? 大丈夫か!?」

「トリエルさーん!」


おばけ達も心配そうにトリエルへ寄ってきて彼女を見つめます。

ピピも「大丈夫でしょうか……」と不安げです。


すると、なにかのスイッチが入ったように彼女はいきなり起き上がり、

赤い目を輝かせます。


「あれー? 何でトリエルなんで寝てたのー?」


彼女の話口調は急に幼いものに戻り、あなたは事情を聞こうとします。

「え? ……こっちに訊くなっての。それより説明しろ」


「なにをー?」

「え……大丈夫か?」

「なにがー? トリエルはなんともないよー?」


あなたは少しゾクッとしましたが、彼女がそういうので深い追求を避けました。

「……まあいいや、で、まだお前のことよく知らないんだけど。

話せるなら聞いてもいいか?」



トリエルは「いいよー」と軽い返事で応じて話し始めます。


自分は天使であること、

「メッ」されてお家からぽーいされたこと、

反省したと認められるまで戻れないこと。


それらを包み隠さず言いました。



――――



「わかった?」

「つまり、堕天使ってこと?」


「違うよー! 天使だから!」

どうやらプライドがあるようです。可愛く抗議します。


「天使でも堕天使でもなんでもいいよー、何ともないなら帰れよー」

「ムリだよー! だってもう守護しちゃったもん」

守護、という言葉にあなたは嫌な予感を感じつつも、念の為の確認をします。


「は!? どういう事? 帰れないってこと?」

「そうだよー! もうトリエルはキミの守護天使だから帰れないよー?」


トリエルはここで決定的事実を突きつけます。


「はー!? 嘘だろ!? てか今の説明だと、お前堕天使じゃん!」

「お言葉ですが、天使も堕天使も本質は一緒かと。それにもう守護されております」


ピピのツッコミに、あなたは首をブンブンして反発します。


「いやいやいや! 勝手に決めるな! それなら守護やめろ!」


「無理だってー! 一度守護した対象からは神様しか離せないんだよー」

「なんだよそれ!? 食費だって……いろいろかかるんだぞ!?」


あなたの必死の抗議にトリエルはふぐのように頬を膨らませます。ぷくー!


「むう! 本当は守護したのだって、キミに守護霊がいなくて……真っ黒で……

いいもーん! もう守護しちゃったし!」


「え? 俺守護霊いないの?」


あなたは自分に指を指すとトリエルに確認します。

彼女はぷいっとそっぽを向きぷんすか状態です。


「いない! そうでなきゃ喧嘩になって守護出来なかったもん」

「トリエルさんの言ったことは本当ですよ」とピピも続きます。


「で……それってどういう状況なの……? ヤバいの?」


トリエルはあなたを横目で見つつ、右の翼を弄りつつ、

おばけ達が持ってきた、おかわりのポテチを頬張りながら説明します。


「キミさ、昔から霊感強いでしょ? 霊感って守護霊の強さに反比例するんだ」

「…どういうこと?」


トリエルは指をペロリと舐めると、

両手の人差し指を上にあげてグラフ説明のように解説をはじめます。


「つまりね、守護霊が強い人って、そもそも霊の方から来ないし、

守護霊が近づいたら逃げるのが大半なんだよ。だから霊を感じない」


つまり怖い人が電車で偉そーに座ってたら、

みんなそこから離れるみたいなもんか……とあなたは合点がいきます。


「つまり、弱い人間は霊がビビらないから寄ってくる?」

「そういうことー」


「それで俺の身体に黒い? 変なのがいっぱいあったってこと? さっきの話」


「そうだよ? トリエルの天使の権能のおかげ!

本当はお礼を言って欲しいぐらいなんだから!」


ここでピピがサラリと補足してくれました。


「あなた様の身体に取り付いていたのは、負の念です。

それは自らを卑下するものであったり、他者の念であったりしますが……


あなた様はおそらくそういった感受性が強く、

その影響で守護霊がいないこともあって、非常に危険な状態でした。


もし、あのままトリエルさんがいない状態であそこに行ったら、

あなた様は間違いなく取り殺されていたでしょう」


取り殺される……というピピの言葉にあなたはゾッとしますが、

まだ現実味がないのか、信じたくないという意識が働いたようで、首を左右に振ります。


「そんなまさか……小説じゃあるまいし」


しかし、そこでピピがいきなりワンピース少女の姿となって、

鬼気迫る表情でスッとあなたの身体の中に入り込みます。


急激に重力がかかる感覚に襲われ、身体は動かず、息もできません。


――死ぬ。とあなたは思いました。


「どれだけ危険な状態だったか、分かりましたか?

イタズラ半分遊び半分で行ってはならぬ場所だったのです……

わたくしも……いえ」


ピピは何かを言いかけましたが、怯えるあなたの顔を見て、

そっと冷たい手であなたの頬を撫でます。


「ごめんなさい……大丈夫……ですか…?」

「う、うん……その……二人ともごめん……信じるよ。ありがとうな」


「うん! じゃあよろしくねー」とニッコリ!

「はー……取り憑かれたって事ね……」


かくして天使のトリエルは、あなたの家になし崩し的に居憑く事になりました。


「はあ……食費……いらないゲーム売るか? いや、仕事増やすか!?」

あなたの悩みは増えそうです。


「天使に取り憑かれるなんて……はは」

もはや乾いた笑いしか出ないあなたに、トリエルは容赦なく追撃します。


「ところでお腹空いたんだけどー?」

「はあ!? さんざんポテチ食べただろー!?」


「天使の権能使うとお腹減るんだよー! 何かちょーだい!」

「実はわたくしも……」


トリエルの一言を皮切りにピピも空腹を訴えだします。

「いやお前おばけだろ!? 腹減らないだろ!?」


「いえ、こうして姿を出すためにはエネルギーを必要としますので」

「……え、じゃあ姿だけ消せば」


と言いかけたところで別のおばけがあなたにダイブし、体当たりをします。


「痛て!」

「そんなのダメだだから!」とトリエルもピピを擁護し、あなたは項垂れるしかないのでした。


「……はあコンビニ行くか」


トリエルのいう「天使の権能」がどういうものなのか、あなたは聞こうとは思いませんでしたが、

きっとそれは人智を……少なくとも自分には理解できないものなのだろうと、


あなたは無理やりそう思い込むことで、この状況を納得しようとするのでした。



――――



「その前に風呂入ろ」


あなたはまずは(気持ち的な)疲れを癒すため、部屋と廊下を仕切るカーテンを開けて、

キッチンへ出るとお風呂場の押し戸を開けます。


ギイ……という音と共に開け放たれた扉の先、そこに居たのは……


「うん。いると思った」

既に入浴を決め込んでいるおばけ達でした。

彼らは頭にタオルを乗せて気持ちよさそうにお湯に浮いております。


「だよなあ……」


「イヤーン!」

「ヘンターイ!」


「エッチー!」

「スケッチー!」


「あっちいってーん!」

「もっと見てーん!」


おばけ達は恥ずかしがる仕草を見せてあなたをからかいます。

ケラケラという笑い声がお風呂場に響き、


そこにいるのがまるで死者の魂であるとは思えないほど、

彼らは無垢でひょうきんな存在のようです。


「いやお前ら普段から裸だろ!? つーか出ろよ!!」


そこへ背後からダダダと走る音が聞こえ、あなたは嫌な予感……


「あ、面白そー!」

案の定出てきたトリエルがおばけ達に指で指示をすると、

おばけ達は歌い出し、ダンスまで踊りだします。


「ババンババンバンバン♪」


「歯ー磨けよ?」

「宿題やれよ?」


「ババンババンバンバン♪」


「命大事にしろよ?」

「いやいやお前は死んでるよ」

「お前もなー」


これにはトリエル大爆笑です。


「あはははは! 面白ーい!」

トリエルがさらに指示を出すと、おばけ達はイルカショーのように、

輪っかになったおばけの中をどんどんくぐって行きます。


「次はボール遊びだよー! そーれ!」とトリエルがピピを放り投げると……


「あーれー」とピピはノリノリで身体を丸めてボール状態に。

弧を描き、おばけイルカ達が待つ湯船というプールへ一直線!


ボヨーン!


イルカのように頭にピピを乗せたおばけ達は次々とキャッチボール!

ピョーン! ピョーン! とピピを投げて遊びます。


「…………」


スカーン!


最終的におばけの一匹があなたに向けてピピをシュート!

それが顔面にクリーンヒットし、あなたはノックダウン!


「あの……大丈夫ですか?」

すかさずピピがシーツからワンピース少女の姿になって、あなたの頭を優しく撫でます。


霊体らしく、冷たい手が妙に心地良いと感じ「ああ……生きてる少女だったらなあ……」


そんな事を考えるも「とりあえずピピには優しくしよ」と決めるあなたでした。


「お? 惚れたかー?」

「よ! 色男ー」

おばけ達の茶化し合が始まり、ピューという口笛がお風呂場に響きます。


「も、もう! からかわないでください!」

ワンピース少女の姿となったピピはシーツ状態よりも声が人間らしくなり、


風鈴の音のようなそんな澄んだ声で白い肌をほのかに染め上げ、エネルギーが切れたのか、

あるいは恥ずかしくなったのか、シーツ状態に戻ると部屋に逃げていきました。


「……明日コンビニ行ったら大量に塩買って、

あと神社に行って御札貰って風呂場に貼りつけてやる」

そうあなたはおばけ達に復讐を誓うのでした。



次回!


「トリエル、コンビニへ行く!」


コンビニへ行くだけで事件が起こる! それはさながらメガネの名探て……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る