第6話『豪華な城』

 街をある道のりはフリージアにはとても長く感じた。隣のネクロマンサーはフリージアについて来いと言ったが、道中で何も言葉を発することはなかった。隣のネクロマンサーは手に杖を持ち、堂々とその街の中を平然とした顔で歩いていた。フリージアは彼の意図していることを理解できなかった。


フリージアは道中、人々がフリージアと隣のネクロマンサーに恐怖と畏怖と怒りの視線を送っていることに気づいた。それは血まみれのフリージアに送られている目線なのか隣のネクロマンサーに送られている視線なのかについては分からなかったが、フリージアはその視線に怯え、ひどく心を痛めた。


フリージアは隣のネクロマンサーがそんなことをなんとも思っていないように歩くのでいつもこのような視線を浴びているのだろうと考えた。その視線に耐えれるそのネクロマンサーに尊敬の意さえ覚えそうになった。


ネクロマンサーがその街の中心地にある、大きな城についた。その城は静かさを特徴とするルネサンス様式とは大きくかけ離れ、豪華絢爛で金の装飾が多く用いられたバロック様式であった。その城の大きさにフリージアは圧倒された。


鉄で作られた門の前には門番が二人ほど立っている。そのネクロマンサーが来た瞬間その門番は門を開ける合図をした。


「「お帰りなさいませ。」」


そう言い、門番は深々と頭を下げる。しかし、ネクロマンサーにそのような言葉投げかけるがなるべく近づきたくないという意思が表れているように距離が取られていた。


そのネクロマンサーが


「こっちだ。」


と言って、軍隊を止め、フリージアに声をかけた。


「あの、」


フリージアはそのネクロマンサーに聞きたいことがたくさんあった。ネクロマンサー自身のこと、どうして助けてくれたのか、どうしてここに連れてきたのか、など挙げればキリがないように感じられた。そのネクロマンサーはフリージアを気にも止めないように、速急に歩き出した。


死者の軍隊は今は動きを止めている。この死者の軍隊が全て入るような豪勢な庭はこの城の持ち主の資産の大きさを表しているようだった。


フリージアはそのネクロマンサーの後を必死についていく。庭を通り過ぎ、城の大きな扉を通り、中心部にある豪勢な広間を通りすぎ、奥の部屋につく。その部屋はネクロマンサーの個室であるようで、今ネクロマンサーが来ているであろう予備の制服が掛かっていた。そのネクロマンサーについていく間、この城の使用人であろう人の何人かとすれ違ったが、どの人もネクロマンサーに向け頭を下げていたが、街の人々と変わらない視線を向けていた。


部屋についた瞬間、ネクロマンサーは動きを止めた。フリージアはその部屋に恐る恐る入る。フリージアが部屋に入った瞬間、そのネクロマンサーはタオルを投げかけてきたこう言った。


「血臭い、それで拭け。」


「あの、ありがとうございま、」


フリージアがお礼を言う前にそのネクロマンサーは部屋の扉を大きな音を立て、閉め、外に出て行ってしまった。フリージアはそのことに困惑しながらも、自身の鞄を下ろし、血を拭う。服に染み込んでしまった血は落ちそうにはなく、髪についてしまった血もタオルでは落とせそうにはなかった。フリージアは自身の体が血臭いのもそうであるが、妙にベタベタした感覚が気持ち悪くなった。服を脱いで、体全体を拭きたいところであるが、そのネクロマンサーがいつ戻ってくるのか分からないことと、知らない空間で服を脱ぐのは勇気のいることであった。


フリージアは手の血を完璧に落とした後、鞄の中身を確認する。カバンが革製でできていたのが、幸だったのか、手紙にはフリージアの血がついていなかった。フリージアはそこで安堵の息を漏らした。手紙が無事であったのであれば、それでいいと思うほどであった。


重厚な扉が開き、そのネクロマンサーが戻ってきた。後ろには何人かのメイドと執事らしき人がいた。しかし、先ほどの嫌悪の視線がない。彼らを見ると彼らも死者であった。うちの一人のメイドがフリージアの方に近づいた。そのネクロマンサーは言った。


「奥に、水が溜めてある。それに着替えてこい。」


メイドは何も言わなかった。まさに死人に口無しとでも言うような感じである。フリージアにとって動く死者とこうして顔を合わせたのは初めてであったため、とても不思議な印象であった。メイドはフリージアに合わせた服とタオルを持っていた。フリージアは


「ありがとうございます。」


とそのネクロマンサーに言ったが、返事は返ってこなかった。フリージアは何か気に障ったのではないかと思ったが、そのネクロマンサーの言う通り、奥の部屋で水を浴び、血を洗った。傷口はまだ完全には塞ぎ切っておらず、傷口に水がしみ、フリージアは少し顔を顰め、唇を強く閉じた。タオルで水気を拭き取る。そして、メイドがフリージアに服を渡す。


下着を着用し、綿でできた長袖のシャツを羽織る。綿製品はフリージアにとっては着慣れない素材であったため、少し肌に触る感覚がおかしく感じた。ズボンと上にはさらにインド藍で染められたであろう青色の上着を羽織る。青色の上着はとても落ち着いた色合いであったが、フリージアにはどことなく落ち着かなかった。


服を全て着替え終え、先程の部屋に戻ると、そのネクロマンサーが待っていた。


「先程の服はもう使えないだろうから、全て処分だ。いいな。」


フリージアに否定はさせないと言うほどの強い口調でそのネクロマンサーはそういった。


「はい、あの、ありがとうございます。……どうして助けたんですか?」


「理由はない。」


「あの、あなたの名前は?」


「……マールテンだ。」


「アレントさんは知ってますか?」


「知らん。」


「サフランについてとか、」


「知らん。」


全く会話をする気のないマールテンに少しフリージアは心が折れそうになった。これ以上聞いても、何も言わないような気がしてフリージアは言葉をこれ以上言おうとはしなかった。

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ネクロマンサー〜手紙が紡ぐ旅路〜 西瓜すいか @nishiuri_suika

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