第5話『暴走する殺意』

 男の取り出したナイフはフリージアの抵抗する間もなく、背中に突き刺される。なぜ急に刺されるのかフリージアには理解できなかった。フリージア自身が何か悪いことをしたわけではないし、言ったわけでもない。フリージアがネクロマンサーであるという事実だけが男の前には写っていた。フリージアは背中から血を流し、それが服に染み渡っていくのを感じた。肉を突き刺す感覚を久しぶりに感じた。


(痛い!)


フリージアは自身の血が体を伝い、地面に落ちているのを見ながら、必死に立とうとするものの、男が足で上から押さえつけているのを感じた。男は大きな声で叫んだ。


「俺の親友も!父も!死者の軍勢にさせられて、安らかな死を望むことすら許されなかった!政府は彼らは国の役に立つと言って死者の軍勢を作ることを止めるのをやめやしねぇ。ネクロマンサーっていうのはな、そう簡単には死なねえんだろ!」


そう言って、男はさらにナイフを振りかぶった。先ほど、親しげに話していたのが嘘のようだった。誰もフリージアが刺されているのを見て止めることをしなかった。むしろ、男がネクロマンサーであるフリージアを殺せとでもいうように、フリージアが刺されている姿を見て笑ったり、憎いとでもいうように見ていた。


「ネクロマンサーは、この世に存在するべきじゃない!」


「殺せ!」


そう外野が叫ぶのをフリージアは聞いて心が痛むのを感じた。ネクロマンシーをフリージアはまだ使っていないが、ネクロマンサーというだけでここまで言われるとはフリージア自身想像していないものだった。なぜ”生”と”死”を司る権限を神が与えたのか、そのものの意味さえ問われているように感じた。


フリージアはさらに男から刺されるのを感じ、苦しそうに声を上げるが、そんなものは彼らの耳には届いていないように感じられるほど、さらに外野の罵倒は強くなった。フリージアは精一杯の力をかけて、男を蹴り飛ばし、拳銃を取り出し構えた。


外野は何か恐ろしいものを見たようだった。あれだけ刺され立ち上がった人間を彼らは見たことがなかった。しかし、その気づきは彼らにネクロマンサーは化け物だと言う印象をさらに強く刻み込んだようだった。


フリージアの手の甲に書かれた魔法陣が強く反応する。いつもは黒色である魔法陣は血が刻み込まれたように赤黒い色に変化していた。フリージアは顔にかかった自身の血が口に入らないように、袖で口元についた血を拭い、拳銃に力を込めた。フリージアの死の権限は一瞬で人間の魂を体から切り離すこと。要するに一瞬で殺すことができるものだ。


しかし、フリージアは拳銃に力を込めたが簡単に打つことができなかった。フリージアの中には人間との共存という目標が存在していた。もしこのまま拳銃を撃ち、彼の命を奪って仕舞えば、それこそ彼らが恐れるネクロマンサーそのものになってしまう。


さらに、先ほどの酒場での会話はフリージアを歓迎するようだった。彼らは人なのだ。同じように仲間の死を悲しんでいるように見えた。そして死体が戻ってこないことに対する嘆きも聞いた。彼らのことを簡単に殺すことはできない。


その一瞬の迷いで、フリージアは体勢を整え直したものが無駄になり、すでに周りには武器を構えた市民たちがフリージアを囲んでいた。フリージアは周りを見て逃げ道を探そうとするが、そのことは叶わなかった。


「やれ!」


その声を発した人は誰かはわからないが、その言葉を皮切りにフリージアに向かって一斉に襲いかかってきた。その襲いかかる痛みを受け入れるしかないと悟ったフリージアは目を固くつぶり、頭と膝を抱え込んだ。


しかし、その痛みは襲って来なかった。フリージアの周りに死者に軍勢が円の形をなし、全ての攻撃を受けていた。彼らから血が流れ出ないのが、彼らが死者であることを物語っていた。攻撃をした市民は頭を抱える者や武器を刺したまま動けなくなる者、泣き出し、絶望する者までいた。


死者の軍勢はいくら死んでいるとはいえ、彼らの街の市民の亡くなったものが形をなしているものだった。そんな彼らを自ら刺してしまったことに対する心情は計り知れないだろう。そしれそんな死者の軍勢を操り、フリージアの前に先ほど目があったネクロマンサーが立っていた。そのネクロマンサーは地面で蹲っているフリージアを見下ろた。


市民たちはその二人のネクロマンサーを前にして、憎しみの感情が抑えられなくなり、再び武器を構える。その光景をそのネクロマンサーは見ながら、脅すような口ぶりでこう言った。


「どけ、お前たちに今できるのは、自ら死に、死体を置いていくことだ。役立たずども、殺されたいやつから前に出ろ。」


そうしてネクロマンサーの魔法陣が反応していることをフリージアは感じた。魔法陣のことに気づかなくとも彼が、死の権限を行使しようとしていることは周りの緊張が走り、重圧的な空気からも読み取れる。生物が本能的に恐れるほどの死の力にフリージアは驚いた。彼の前に出てくる市民は誰一人としておらず、むしろ後退りをしている。


「ネクロマンサー、ついて来い。」


そうフリージアに行って、そのネクロマンサーの男は武器が刺された死体を再び、立たせ、行列の中に組み込み歩き始めた。その威圧感からフリージアは何もいうことができず、そのネクロマンサーの後をついて行った。

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