祝いと呪いは表裏一体

お仕事中の情シス

【祝】メインストーリー完結!

 その日、多くの「信者」たちが感動に打ち震え、涙した。


 全世界でトップシェアを誇る大人気ソーシャルゲーム、「Fanatic/GreatOriginファナティック・グレートオリジン」、通称FGO。

 約十年もの歳月を経て紡がれ続けた、ソシャゲ界の中でも超ロングランセールスを誇る本作のメインストーリーが、ついに、堂々の完結を果たしたためだ。


 プレイヤーたる「信者」たちの反応は様々だった。


 ある信者はその感想を口にしたい衝動にかられつつも、公式側から敷かれた「ネタバレ禁止」という箝口令に従い悶々とし、なんとかそれを言語化しようと圧縮言語で言葉を捻り出した。

 数千RTされ、いいねが万を超えた。


 別の信者は、ひたすらに公式に感謝の言葉を捧げ、その広げまくった壮大な風呂敷を見事にたたむことができたシナリオライターに最大級の賛辞を述べた。

 やはり数千RTされた。


 さらに別の信者は、感謝の気持ちを何とか形にしようと筆を走らせ、主人公と「推しキャラ」のツーショットを描き、ストーリー完結のお祝いイラストをアップロードした。

 当然のように数千RTされていた。



 そして、福田の目の前で興奮気味に「いやぁ、よかった……」と語る岩井もまた、そんな「信者」の一人であった。


「そんなにいいものだったのか、そのシナリオ」

 福田はちょっと引き気味に岩井に尋ねる。


「良きの良きだったよ、ほんとに。実に壮大な物語だった。詳しくは語ることができないのが本当に残念だけれども、間違いなく『胡瓜たけのこ』先生の最高傑作だよ、このシナリオは。俺まだ余韻に浸れるもん」


「さ、左様か……」

 福田は苦笑いを浮かべながら枝豆を摘まむ。


 岩井から緊急で「一緒に飲んで話したいことがある」と呼び寄せられた時は何事かと構えた福田だったが、今はすっかり脱力している。


「でもさ、福ちゃん。これはやらないと分かんないよ。十年分の重みっていうのもあるけれども、とにかくストーリーが緻密かつ壮大でさ。こんないいものをこの時代・この世でプレイできることの喜び、ホントに何物にも代えがたいほどの幸運だと思うわけよ……」

 岩井はそう言うと、ぐびりとハイボールを流し込んだ。

 頬に大分と赤みが差し、いい感じに出来上がっているようだ。


「まぁ、何だ。ストーリーがいいっていう話は、前から評判だもんな、FGO」

 福田は認めた。



 実際、FGOのシナリオ評価は非常に高い。

 セルラン一位のソシャゲという事もあって、評価レビューに辛口を通り越してアンチコメントを書き連ねる者も多い中で、ストーリーに対しての酷評はほとんどなされていない。

 どころか、シナリオの出来を賛辞するレビューコメントは無数に存在する。

 FGOを褒める際にはまず何よりシナリオ、というくらいにはそのクオリティは高い様子だった。



「ほんっとにいいシナリオなんだ。プレイしないの勿体ないよ、マジで。福ちゃんも物書きのはしくれだから、絶対いいインスピレーション受けると思うんだけどなぁ」

 岩井はおかわりのハイボールを注文すると、それまでのつなぎとして枝豆を摘まみ始めた。

 福田の枝豆なのだが。


「いや、いくらシナリオが良くてもな……。むしろ、シナリオが良いからこそプレイしたくないよ、俺は」

 やむなくシェアする事になった枝豆を共に摘まみつつ、福田は苦笑いを浮かべる。


「それまたどうして?」

 不思議そうな表情を浮かべた岩井だったが、直後運ばれてきたハイボールにすぐ表情を明るくする。

 グイっと一口飲んでから再び福田に顔を向けると、また難しい表情に戻っていた。

 そんな岩井に、福田は小さく苦笑しつつも、彼の問いに答える。


「だって、それって『沼』じゃね?」

「沼?」

「うん、沼」

 福田は枝豆に手を伸ばし……既に空っぽになっていることに気が付き、やむを得ず手を引っ込める。

 岩井も図々しいやつである。



「だってさ、ソシャゲって、結局はお金を使わせて稼がないと、サービスが続かないわけよな? 運営側としては、どうにかして課金させたいわけじゃん」


「まぁ、そりゃそうだわな」

 岩井は頷いて、新たなつまみとしてきんぴらごぼうを注文した。

 気が利くんだか図々しいんだか。


「だから、運営はあの手この手の色んな手段で、ユーザーに課金を促そうとするわけだろ。めちゃくちゃ性能がいいキャラが手に入るガチャを実装する、っていうのがよくあるパターンだと思うけど」


「うん、まぁ、FGOがキャラガチャゲーであることは、否定はしないかな……。けど、それを補って有り余るほどシナリオの質が良い」

「それ」

 岩井の言葉を遮るようにして福田が言葉をかぶせた。


「その『シナリオが良い』っていうのがまさに巧妙な沼なんだよ。単純なキャラ性能だけじゃ、いずれパワーインフレを起こしてゲームバランスについていけなくなる。そうなるとプレイヤーたちは徐々についていけなくなって離脱し、運営は稼げなくなってサ終する」

「まあ、そうだな。よしんばサ終を回避できたとしても、インフレが激しくて初心者の途中参入がかなり厳しくなって、定着しない」

 岩井は福田の言葉に同意した。


「そうだ。初心者が定着しやすいように、ゲーム性をなるべく維持するためには、キャラ性能のインフレスピードはなるべく抑え気味にしなければならない。でもそれだと同じような性能のキャラばかりになるから、何らかの工夫が必要だ。引きたくなるようなデザインビジュアル、あるいは……キャラを引かせるための導入になるようなストーリーとかな」

「うっ、身に覚えがあり過ぎる……。耳に痛い言葉だ。それは俺に効く」

 岩井は苦虫でも噛み潰したような表情を浮かべる。


「俺はそういう見えてる危険要素は、最初から飛び込んでいかないようにしてるんだ。自分の自制心に自信がないってわけじゃないけれど、相手はこっちをその気にさせるプロだからな。上手くこっちの心理を誘導し、のめり込ませ、ガチャを引かせようとしてくる。そして一度ガチャに手を出したら最後、射幸心による依存性の高さによって理性のタガが外れ、歯止めが効かなくなる。多分、俺は真っ逆さまに落ちていく自信があるよ」


 冗談めかして言われた言葉だったが、岩井は笑うことなどできず、ごくっと息を呑んだ。

 実際、岩井もそれで身を崩すまでガチャを引き続け、破産してしまったという話を知らないわけでもなかった。

 岩井がそれを知ったのはネットニュースの記事だった。

 FGOでとあるキャラの水着バージョンが実装された際にガチャを引きまくったことが原因で、あっという間に破産にまで行きついてしまったらしい。


「いや、まあね? シナリオ完結自体は喜ばしいことだと思うよ。ただそのお祝いムードに水を差すようで悪いけど、俺は思うわけよ。そこに至るまでに、このゲームはいったいどれだけの人の時間と金を奪ってきたのかって。時には人生すらも奪ったかもしれない。そう言う面では、このゲームは呪われてると言っても過言じゃないと思うんだ」


 福田はきんぴらごぼうをつまんだが、岩井はそれに手を付けることができなかった。

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