後編 新神さんにもお祝いを

「無理無理! 私じゃ無理ですよ!」

 新年早々、私の情けない声が天界に響き渡りました。


 里住という地域は、長年同じ神様が担当していたそうです。普通は事異動で担当の神が変わるものですが、この地域はいろいろ面倒だとか言って、長年務めた自分でなければダメだと言っていたそうです。


 でも実は、前任の神様は悪いことをしていました。人々の信仰ポイントを不当に得ていたあげく、地域の守りをおろそかにしてしまったのだとか。

 その結果悪鬼に侵入され、病気や事故が多発してしまったようです。


 問題に気づいた監査部は、ただちに前任の神を解任。そして新たに里住の守り神に選ばれたのが……何を隠そう、この私なのです。


 新神しんじんの私には、一つの地域を担当するなんて無理だとお断りしたのですが、もう事部の方で決めてしまったこととかで、結局私が里住の守り神となりました。

 しかし、大きな問題が発生します。


 普通の神事異動であれば、前任者の方からお仕事の内容について引継ぎをする時間があるのです。けれど、今回の前任者は罰として天界追放刑に処されており、また長年前任者一人で担当していたため、他の神にはお仕事の内容が全くわからないのです。


「わ、私はどうしたらよいのでしょうか」

 神事部長に相談しましたら、アドバイスをいただきました。

「困った時はね、にこっと笑うこと。それだけで、印象はぐっと良くなるから」

「で、できれば、具体的なお仕事の内容をお教えいただきたいのですが」

 神事部長はにこっと笑いましたが、それだけでした。要するに、この方もご存じないのです。


「あ、あのぉ……。里住のお仕事について、教えていただきたいのですが……」

 とりあえず、里住が入っている尾糸市全体の守り神様にお聞きしました。笑顔で、です。

「は⁉ そういうことは資料とか探して自分の力でまずやってみるものでしょう! すぐ他神に聞いて解決しようとするんじゃないよ! ヘラヘラしちゃって、全く最近の若い子は……」

 お忙しかったのか、何も教えていただけません。ちょっと涙が出てきました。


 ようやく前任者の書いていたメモを見つけ出した時、私はあーっと叫んでしまいました。

 一年に一度の伝統行事というものがあり、それが今日だったのです。

 新参者が遅刻なんてしてしまっては、里住の皆様がお怒りになるでしょう。神ダッシュで地上へ向かいました。


 神棚を通って建物の中に入り、必死に呼吸を整えていると、どなたかがいらっしゃいました。

 男の方です。

 お召し物は儀式用のお着物のようですが、あえて眼鏡をかけていらっしゃっておしゃれな感じです。キリっとしていて、エリートなイケメンさんです。


 どうしましょう。緊張して、何を言ったらいいのかわかりません。

 その時思い出したのは、神事部長のお言葉でした。

「困った時はね、にこっと笑うこと」


 必死で、笑顔を作りました。

 イケメンさんは何もおっしゃいませんが、ダメだったのでしょうか?


 するとイケメンさん、持っていたお酒を小刻みに振っていらっしゃるようです。

 カクテルというお酒は、振って混ぜ合わせるようですので、きっとそういうものなのでしょう。

 さらに、お酒を床に撒いていらっしゃいます。

 歩く場所まで全てお清めになるのですね。このしきたりは存じませんでした。

 お酒をいただきましたが、ご自身の手と私の手も清めていらっしゃいました。抜かりなし、さすがエリート。


 それから、イケメンさんは少しの間、集中しておられました。

 次は一体何をなさるのでしょうか。

 というか、私の作法は間違っていないでしょうか。


 突如イケメンさんが、初めて見る踊りを披露なさいました。

 ダンスとかは詳しくないのですが、ピシッとしていて格好いいのです。

 夢中で拝見いたしました。最後は拍手しました。これで間違っていませんよね?


 イケメンさんは私に一礼すると、建物の外へと出て行かれるようでした。

 なんとか、儀式が終わったようです。ほっと一息ついたその時。

「申し訳ありません! 数々のご無礼、お許しください! どうか里住を滅ぼさないでください!」


 どうしたというのでしょう⁉ イケメンさん、せっかくのお顔を伏せていらっしゃいます。

 それに、無礼などというものは何も無かったというのに。

 その時、私は気づいてしまいました。


 里住の方々は、神事異動のことをご存じないはずです。

 ということは、近年の病気や事故の多発を、私がもたらしたものだとお思いなのではないでしょうか。


 違います! それは前任者の怠慢によるものなんです!

 そう言えたらどんなにいいか。内部の恥は漏らしてはならないという、暗黙のルールがあります。

 とはいえイケメンさん、ご自分が悪かったのだと思っていらっしゃるようです。このままではいけません。

 でも、どう説明したらいいものでしょうか。


 こうなったら、一か八かです。

 私は、そっとイケメンさんの肩に触れました。そして、顔を上げた彼に向かってとびっきりの笑顔をお見せしました。

 すみません、こういう時何と言えばいいものかわからないのです。笑顔でごまかさせていただきます。


 その時初めて、イケメンさんが微笑んでくださいました。

 なんだか、私が里住の守り神に任命されたことを、お祝いしてくださっているようでした。


 私の守り神としての初仕事は、こうして終わりました。


 後日、「神事に本当に神が姿を現すなんて、常識が無い!」と、尾糸市の守り神様からお𠮟りを受けました。

 幸い私の姿を見た方はイケメンさんお一人で、その話は特に広まっていないようだとのことで、罰はありませんでした。


 これからどうなるかわかりませんが、大丈夫な気がします。

 だって、イケメンさんがお祝いしてくださったのですから。


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大丈夫だよ、新人さん 志草ねな @sigusanena

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画