第2話 強制転換点

「先生、突然の呼び出し、いったい何事ですか?」

 学士院アカデミーを卒業し、実家の男爵家で日々魔術の修行と魔道具作成に明け暮れていたが、突然先生から強制的な呼び出しを受けていた。


「まあ、そう急くな。あの魔獣騒動以降、猫の手も借りたいほどの忙しさじゃ。おぬしも暇ならわしを手伝え。」

 先生は明らかに僕を暇人扱いしていた。


 暇人じゃないのに――。


 僕は『目的もなく生きる』ことの意味について、まじめに研究をしている。

 この崇高な行為は、何者にも邪魔はさせない。させてはいけない。


「あのー、先生。お言葉ですが……」

 しかし、僕の言葉は最後まで言わせてもらえなかった。


「て・つ・だ・う・の・じゃ!」

 一言、一言が、まるで本当に頭を殴るかのように響かせている。まるで、頷くことを強制したいかのようだ。


「――はい。」

 もうそれしか言えなかった。

 いや、先生に脅されたわけじゃない。そこは明確にしておこう。


 ただ、そう――。


 休暇も時には必要ということだ。


 目的もなく生きることに意味について研究することも、たまには目的を持って生きるようにしないと、その真価が分からない――。


 ――かもしれない。


 しかたがない。

 比較検証だ。


「具体的には何するんですか?」

 けど、先生は何も示してくれてなかった。


「調査じゃ。場所は……。ほれ、ここじゃ。この村で過ごすのじゃ。周辺を調査してもよい。周辺くまなくじゃぞ。2年ほどかかるかもしれんが、頼むでの。ああ、実家にはそう言っておいた。村に家もある。安心せい」

 先生の言葉は軽かったが、僕の気持ちは沈んでいた。


 それって、全く、目的ないじゃん……。――僕の決心を返せ。


「でも、ここって、たしか開拓村ですよね? こんな何もないところで病気になったらどうするんですか?」


 そう、これは精一杯の抵抗。

 うん、わかっている。無駄な抵抗――。


「ほれ、これをやるからの」

 先生は通信用魔道具、各種回復薬、といった魔法の袋を渡してくれた。


「用意いいですね。まさかとは思いますが、いまから、これから、そしてすぐに。――とか言いませんよね?」

 念のために聞いてみたが、その顔を見て愕然となった。


「ん? 手紙に書いといたじゃろ? すぐ旅立つ用意をしてから来るようにと」

 先生は当然のことを聞くなという風に眉をひそめている。



「ふつう、そう思いませんって!」

「普通なんてないんじゃ! 今はの!」

 即、否定された。でも、普通はある。それを研究テーマとして――。


「ふ――」

「ええい! うるさいやつは、女にも相手にされんぞ? その年にもなってふらついとるおぬしが悪い。さっさとわしの講師依頼を受けとけば、よかったんじゃ! このような目にあわんで済んだんじゃ」

 切れたかと思うと、最後にはぼそぼそと、そうつぶやいていた。


「それって、完全にとばっちりですよ? 先生? ねえ? 考え直して……」

「うるさい! ほら、荷物を持て! 手ぶらがいくかの?」

 そう言って足元に魔法陣を出現させる。


「えっ、ちょっとこれ、軍団移送コアトランスポートですよね? え? まさか、一人なの? え? せんせ―!?」

 荷物をとりながら、必死にあがいてみる。

 しかし、それは無駄な努力だった。知っていました。――はい。でも、だからこそ、叫びたい!


「デルバー先生の、ばかー!!」

 僕の声は、見知らぬ森の端にある村のはずれで、眩い光の中むなしい響きを伝えていた。

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エルツの日記 あきのななぐさ @akinonanagusa

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