1.木です――やべぇ
確かに、俺は死んだはずだ。
なのに、水と飯を欲していた感覚が、綺麗サッパリと感じなくなった。
(……意識がまだある。ていうことはまだ生きている? 病院にいるのか? 待て、俺は一体どうなってるんだ!?)
水に流れるような、浮遊感とでも形容すべきな謎感覚がする。
《――――》
頭の中に、誰かの声が響き渡る。
《――繰り返します。今まで生き延びようと努力してきた
(……何言っとんだ? 幻聴か? ゲーム音声みたいな声だな……)
突如、川に流されている感覚がする。
(え、ちょ! 何が何なん――――)
激流による圧力と同時に、俺の意識はもう一度途切れた。
気がついたら、眼の前に見慣れぬ森が広がっていた。
心地いい風が吹き抜けて体に染み渡るし、なにより空気がうまいということが全身で感じ取れる――って、全身?
(……なんだ、この感じ)
空と一体化したかのような浮遊感がある。待て、なんでだ? 三十五年の人生でスカイダイビングなんてやったことないぞ?
覚えているのは、職場で死んだこと。
……はあああ?
(なんで生きてんの!? 天国? いや地獄の線も……)
考えて、考えて、考えた先には――
(……まさか異世界?)
俺が大好きだった異世界ファンタジーに転生した。という仮説に至ったが、それはないだろうと切り捨てた。
何が起こったのか全く分からないまま、俺はしばらく混乱する羽目になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
やっと、慣れてきた……と思う。
死んだ、だけど俺はこうして意識がある。
(取り敢えず、ここがどこだか調べないとな)
体を動かそうとするが、全く動かない。腕どころか、指すらも。
首を動かしたいけど感覚がない。というか首がない? が、風に揺れる音が耳に届く。
いや、これ……耳じゃない。頭のすぐ横でカサカサと音がしてる。
視線だけは動かせるので……ちょっと怖いが、恐る恐る下に落とした。
そこにあったのは――枝、幹、青々と茂る葉っぱ。
(……!? これ、俺の体か!?)
茶色の幹に真緑の葉っぱ、これは間違いなく”木”だ。
……もしかして、木に転生した……とか?
マジかよ。人、最悪でも魔物くらいだと思ってたのに……動きもしない木か。
――なんか思ってたんのと違う気がする。
せめてチート能力くらいあってもいいよな、木だし。
木・だ・し!!
◆◆◆◆◆◆
視界の端っこが何やら光ってる。光じゃねぇな文字だ。
ゲームのログっぽいが……こんなんじゃゲームしてるわけ無いし……。
(なんだこれ? ウィンドウ?)
流れる文字列が、だんだん形を成していく。
黒い半透明のウィンドウにまとまり、文字が並ぶ。
(ええっと、はじ……め、ま……して。『はじめまして』って書いてあんな)
はじめましての文字を読み終わった途端、さっきまでのゆったりとした形成速度はなんだったんだってくらいのハイスピードで文字が形成されていく。
《はじめまして。私はあなたの管理者です》
(え? なんかMMOのゲームマスターっぽいのが出てきたぞ。AIの無料無機質音声っぽいし)
ゲームねぇ……久しくプレイしてなかったからな……。
最近になってモンスターを狩りに行こうぜとか、マシンに乗っていろんなことができるライドアクションゲームとかの新作が出たって聞いたな。やっとけばよかった……。
そんな
《説明をします。表示される文章を読んでください》
ああ、説明か。うん、よろしく。
そう念じると、ガチの長文きた。
こんな厨二病モリモリの文章、封印したはずの俺の黒竜を宿した右目がうずくじゃあないか……! よし、ここは勇気を出して――
《き、聞いてやろう……いや、読んでやろうじゃないか!》
と、カッコつけて読み始めたのだが――――
―――長い。めっちゃ疲れた。情報量多すぎだし目がすげえショボショボする。
《理解が追いついていないようですね》
余計な一言だよ!!
要するに、神が作った。神がいない。魔物の被害がとんでもなくなってる。ということ。
異世界だとは思っていたけど、やっぱり魔物がいるのか。ドラゴンとかも……?
『っていうか俺、木だよ? 人助けとか無理だぜ?』
《
おや、さっきまで淡々とした説明口調だったのに、なんか少しだけ感じよくなってない?
余談だけど、俺はこういう『画面に文字だけ出てくるキャラ』を勝手に『ログさん』と呼んでいる。なんか馴染みやすいからなのと、呼び名が欲しいから。
『枝くらいは動かせるようにしないとな』
そう呟いた瞬間――
バキン!
乾いた音が、耳元――いや、体の内側で鳴った。
次の瞬間だった。
視界が、強引に揺れた。
『な、なに――!?』
俺が何かを考える前に、枝が弾かれたように跳ね上がった。
俺の意思とは違うところで、力が溢れている。
ギギギッ――!
木材が無理やり曲げられる、嫌な音。
『ちょ、待て待て待て!?』
止めろ、と思った。
いや、思う前に。
別の枝が、今度は横薙ぎに振り抜かれた。
空気を切る音。
明らかに、自然の動きじゃない。
『勝手に!? 俺、何もしてないぞ!?』
枝は止まらない。
一度跳ねた反動で、二本、三本と連動するように揺れ始める。
まるで――内部から力が暴発しているみたいに。
枝が、最後に一度だけ大きく跳ね――ピタリと止まった。
森が、静まり返る。
さっきまで何もなかったはずの世界が、俺を中心に、一段深く息を潜めた気がした。
動悸なんてないはずなのに、妙に、落ち着かない。
木であるはずの俺が、この森にとって〝大きな存在〟となった。
『――これ、辛くね?』
こうして、俺とログさんの“
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世界樹、枝で救えるものの限界を探しながら自由奔放に生きる。 御水パレヱド @032070800
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