過労死した主人公が異世界で世界樹として目覚める、という設定にまず強く惹かれました。人間として自由に歩き回るのではなく、動かせるのは枝と根だけ。自由を望んでいたはずの主人公が、今度はその場から動けない存在になるという皮肉が面白く、序盤からこの作品ならではの個性に引き込まれました。
主人公の語り口も魅力的です。木になってしまった状況へのツッコミや、ログさんとのやり取りには軽快さがあり、思わず笑ってしまう場面も多いです。一方で、その明るさの奥に、前世で失われた時間や、「普通の人生」を望んでいた切実さがにじんでいて、ただのコメディでは終わらない深みがありました。
特に印象的だったのは、主人公が人を助けてしまう場面です。理由を整理するより先に枝が動いてしまうところに、彼の根本にある優しさや、人を見捨てられない性質が表れているように感じました。
また、神樹を資源や兵器として扱うのではなく、対等な交渉相手として認めさせようとする展開も良かったです。圧倒的な力を持つ存在でありながら、ただ世界を救うだけではなく、どう関わるのか、何を許し、何を拒むのかを選んでいく。その姿に、この物語の大きな魅力があると思いました。
第一章を読み終えた時点で、救済と侵略、人間と魔物、利用する側とされる側の構図が少しずつ見えてきて、ここから物語がどこまで広がっていくのか楽しみになる作品でした。
プロローグのサブタイトルが「過労死」。転生前の主人公がどれだけ理不尽な目にあっているかを示すサブタイなのに、どこかクスっと笑いがこみ上げるシュールさ。
そこから始まる主人公の冒険……? 移動できないので、「冒険」という言葉は相応しくないかもしれないが、確かに彼は「冒険」に匹敵することをやってのける。全力でツッコみながら。
コメディ要素が根底に流れていて、「ログさん」とのやり取りは、この作品における大きな「売り」である。淡々としているようで、ところどころに毒と愛嬌を混ぜてくる。キャラ造形が秀逸だ。
コメディ全開の裏で、世界の危機がじわじわと動いている構成も良く、巻き込まれた彼がツッコミを入れつつも「知恵と枝と精霊」で救っていく流れを、ぜひ堪能してほしい。