第12話
私たちは焼き鳥チェーンに入った。
理由は唯乃が「お肉以外食べない」という超がつく偏食だったから。
「んー美味しい! 海外だったし帰省した気分だね」
「そう、それは良かった」
「それにしても、琴乃は野菜も食べるんだね」
サラダを食べる私を串で指して不思議そうに口にした。
「中学の頃まで大っ嫌いだったじゃん、野菜系は全部」
「……苦手だけど食べるようにしたの」
ふーんと鼻を鳴らしながら唯乃は砂肝を口に運んだ。
「んん〜ふふふ〜っ!」
肉を食べる唯乃の笑顔はとても幸せそうで、なんで野菜を食べる私がこんなに疲弊してるんだろうと思う。
不健康そうな食生活の唯乃が元気で、健康を意識した食生活の私が疲労困憊。
それに肉しか食べてない唯乃の方が健康そうに感じる。
ハリのある唯乃の肌や顔色を見ていると、同い年とは言ってたけれど、年齢にもかなり開きがあるように感じる。
不条理を感じざるを得ない。
「不公平だ……」
「ん? 何が?」
「なんでもない、唯乃も野菜食べなよ。大人になれば味覚変わって食べれるよ」
「野菜の土っぽい匂いが苦手だから嫌。あっこれも食べたい! 日本食はいいなぁ〜!」
くそ、中学の時の私と同じ理由で拒絶してる。
そりゃそうか、私だし。
悔しげにパプリカを口に運んでいる私をよそに、メニューを見て目をキラキラさせる唯乃。
そんなにワクワクだろうか。というか日本食が恋しくなるほどなんだ。
「海外の音楽院にいたって言ってたっけ」
「うん、基本的に日本は帰ることなかったかな。いろんな事情があってさ」
未崎唯香といたからだろうか。
となると色んな場所で演奏したのだろう。
そうなれば私とはいえ、我も強くなるってもんか。
諦めなかった世界の苗木琴乃こと音木唯乃。
なんか諦めなかったというより、ただ強情にやりたいことだけをやった私なんじゃないかと思えてくる。
受け入れつつあるけどやっぱり実感が沸かない。
基本的に自発的というより、小さい頃から人を見るタイプだったのに。
ピアノに熱中した結果、こんな待てが苦手な大型犬のように……。
「てかさてかさ! 聞きたいこと他にもあるんだけどさ!」
そして呆れを気にせず唯乃はグイグイとこちらへ心の距離を縮めてくる。
「なに? もう観念する」
一旦冷静に落ち着こう。
受け入れ難い状況だけど、もう受け入れる以外の選択肢がないし。
お冷でも飲んで……。
「琴乃はどんな女の子が好きなの?」
「ブッ!」
「うわっ! ちょっと!」
「ゲホッ! ゲホッ! いきなり何聞くの!」
テーブルに吹き出した水をおしぼりで拭き取りながら、私は唯乃を見た。
驚いてはいるけど、それよりもヘラヘラしてる。
「だって聞きたいんだもん。どんな女の子好きなのかなって」
「同じ人間だからあなたと一緒だよ……」
「じゃあせーので言おうよ!」
なんでこんなこと……と思いながら「せーの」と口を合わせて、好きな女の子を思い浮かべる。
「「小柄で可愛らしい人」」
揃った。
「でしょうね。こうなるよ。同じだもん」
「そりゃあそうか」
双子タレントか。
なんて心でツッコミを入れた。
ファーストキスの水上さんが小柄で可愛らしい女の子だった。
そりゃ好みも同じだよ。
「明里さんもそうだよね。小柄で可愛い系」
「あっ、確かに……」
そういえば……。
意外と好みってのは固まるというか、無意識にも影響があるんだな。
そんなことを考えた。
「じゃあさ、明里さんのどんなところが好きなの?」
「好きなところ?」
「うん、どういうところが好き? 知りたい! 私に紹介してみてよ!」
「明里の好きなとこ……」
ふと目を瞑った瞬間、明里の顔を思い浮かんだ。
そうだな……まず顔がいい。
小柄で可愛いけど、スーツを着ると綺麗めに早変わり。
かっこいいと可愛いだったらどっちも似合う万能っぷり。
スーツも似合うけど、きっとドレスも似合うだろう。
いやそもそも服に関しては何を着ても似合うんだろうけど、顔の作りというかパーツのクオリティがシンプルでまとまってるから、ゴテゴテしてればしてるほどそのミスマッチ感がプラスになるタイプ。愛らしさという唯一無二の武器を持っていながら、人に好かれるよりも人を好きになる方が人間性が誠実で、生徒に人気な理由が分かる。それに家庭科の先生、手料理が上手い。裁縫も上手、書道も上手い。字に人間性は現れるからきっと私に見えていない部分も誠実。あと元気、大型バイクが似合いそう。小さいのにかっこよく乗り回して欲しい。バイクの隣にしゃがんでみてほしい。絶対似合う。可愛くてバズる。私からはいじらないけど身長を気にしてて、生徒にいじられると膨れっ面になる。子供みたいな愛らしさがあるのに、しっかり大人。お酒が強い。面倒見がいい。生徒からも大人気。ポニーテールが似合う。ランドセル背負ってみて欲しい。私を見る視線が温かくて、視線に友情を感じる。嘘を吐くのが苦手で、上手いこと言っても嘘吐いたまま我慢ができない。そのくらい優しくて、感情がすぐ顔に出る。運動が得意じゃないらしく、体育祭の時期になるとナイーブになる。体育祭の時に綱引きの綱を運んでる時に転んだ姿を一回見たことがある。あまりに愛らしくて保護したくなった。
あとは……
「うんうん、なるほど、全部分かった」
「えっ! 嘘、声に出てた!?」
「出てないよ。けど大好きなのは今の間で分かった。好きなところ全部頭に浮かべてたでしょ」
「……趣味悪」
「これも苗木琴乃ですから〜」
否定ができない。
本当にそうだと思うから。
はぁ……と芯から溜め息が出た。
その様子を一通り楽しんだのか、目の前の唯乃は大きく笑って見せた。
「あっはっは! 面白いね!」
「はぁ……もういい。なんとなく分かった」
そう、もう無駄だ。
彼女を受け入れるしかない。
少なくとも並行世界の苗木琴乃はこういう人間だ。
「でもさ、楽しいね。琴乃を見てるとこんな私もいるんだなって思えるの」
そして溜め息を吐いた私を見て、唯乃は微笑んだ。
「それは私もだよ。パラレルワールドの私がこんなんだと思わなかった」
頭がおかしい。と正直に思ったことは黙っておく。
「琴乃は……幸せになってね」
ただそんな私に唯乃は柔らかく笑った。
「何、急に」
「なんでもぉ〜? ちょっと横失礼」
彼女は突然隣に座って、私に体を寄せ出した。
「いきなりどうしたの」
「明里さんとの恋。応援するからね」
顔をグイと近づけられて、私はつい逸らす。
愛嬌のある笑顔は……少し目に毒かも。
「……ありがとう」
そして彼女の期待めいた願望を、私は余計なお世話と吐き捨てることができなかった。
彼女は……自分なんだ。
心の奥底に埋めたはずのタイムカプセルのような誰かを想う恋心。
もう1人の自分がそれを掘り起こした。
何をするにも唯乃は自分なのだからと、否定が出来ない。
可能性の自分まで否定してしまったら、それはもう自己否定を超えた自己嫌悪になってしまう。
「頑張って……みる」
本気だった。
そこまで言うのなら、向き合おうと思った。
「よーし! じゃあデートしよ! 私ね、この世界がどうなってるのか知りたい!」
「そんな気になる?」
「気になるよ! この世界では唯香は変わらずピアニストだし、明里さんの言ってたドラマ、主題歌も違うしこっちの世界だと全然つまらなくて『曲に話が負けてるドラマ』ってなってるんだよ?」
「あぁ……そういや言ってたね。あれ面白いと思うけどな」
「そう! だからチェックしなきゃ。琴乃がピアノ諦めなかったらドラマつまんなくなるんだよ!」
「それ、私が原因じゃないでしょ絶対」
どんなバタフライエフェクトなのそれ。
私が世界に与える影響が大きすぎない?
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ある日、並行世界の私にキスで起こされて人生がグチャグチャになった話 鳩見紫音 @Hatomi_shion
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