• 恋愛
  • 異世界ファンタジー

結婚の話のおまけ短編

あけましておめでとうございます
スニーカー大賞の規約がわからないので、本編は編集せずここにおまけ短編を残します


短編「地雷原 〜琴乃と唯乃 クロスオーバー〜」

「テスト終わった〜!」
「終わったね」

 繋いだ方の手を暗くなる空に持ち上げた。
 3月に入ってイベントはもう卒業式と終業式を残すだけ、私たちの高校一年も消化試合に突入した。

「あとは終業式だけ! 卒業式も近いし、最高だなぁ」

 中でも卒業式は最高だ。
 本当に嬉しくて、ついつい口角が緩んでしまう。

「そんな喜ぶことなの?」

 隣にいる灼は繋いだままの手を下ろすことなく、こちらを向いて静かに言葉にした。

 喧騒に溶け消えてしまいそうな透明な声は、私の耳だけに届くようで心地がいい。
 そんな彼女の切れ長の視線が、メガネのフレームを避けてこちらに向く。

「そりゃあ遺恨のある先輩が卒業するし」

 視線を返しながらそう口にすると灼は、いつも通り顔色をあまり変えずに首を傾げた。

「あー。卒業で遺恨が消えるの?」
「校舎で出会うことはないじゃん?」

 元カレだった3年生が学校からいなくなる。
 つまり、あの独特なピリッとした冷戦的な空気とは来年度からおさらば。

 好きなだけ灼とイチャイチャ出来る。

 嬉しい。これはとても嬉しいことですよ。

「……聖、本当に嬉しそうだね。あんまり見ないよそういう顔」
「本当に嬉しいからね。悩みの種だったんだもん」

 学校に点在する遺恨もとい元カレという、悩みの種がひとつ消えるのは大きい。
 逆に考えたら1年の夏休みまでで、爆弾を作りすぎてしまったかも

 運命に……陽鷹灼に出会わなかったらどうなってたんだろう。

「……学校、地雷原になるところだったね。私と結婚しなかったら」

 すると灼は上げたままだった手を下げ、ギュッと手を握る力を強めた。
 そして顔をまっすぐこちらに向けて、静かに私の心を読んだ。

「か、考えてること……よく分かったね」
「直感で動く聖の考えてることは、もうなんとなく分かってきた」

 眼鏡の奥のまなじりを僅かに下げて、彼女は笑った。
 夫婦は似てくると言うものの、私たちはまだ似ることはない。

 けどお互いの思考がなんとなく筒抜けになっているような繋がりを覚えていた。
 2人で暮らして一緒にお風呂に入って、一緒に寝て、そうやって時間を共にするたびに。

「でもさ、本当に遺恨は消えるのかな」
「え? 消えない? 学校からいなくなるわけだし」

「でも聖、大学生と揉めてたよね?」
「あっ……」

 そういえば……。
 もう名前も忘れたけど、元カレの大学生と揉めたのを思い出した。

 まぁ大丈夫でしょ。うん、きっと大丈夫。

 これはいつもの直感というより、強引な納得に近いけど……。
 大丈夫なはず。

「聖の奥さんは大変だ」

 ただ、灼はまっすぐこちらを見てそう言った。
 嫌味でもなんでもなく、本当に大変だと思ってそう。

 視線と顔色がそう言ってる。

「あー、ごめんなさい」

 遺恨をばら撒きすぎました。
 そう言うと灼は「そんなつもりじゃないよ」と前置きして微笑んだ。

「聖がモテるのは妻として誇らしいから」
「灼のがぶっちゃけモテると思うんだけど」

「そうかな……?」
「プロポーズしてからも何回か告白されてるじゃん、カモフラだと思われて」

 プロポーズをしたという噂が学校中に流れたものの、告白はそれなりにあった。

 私は色々と男性関係に問題があったせいで、逆に減ったんだけど……灼は眼鏡を外した時の可愛さが流出して告白が増えた。

「あぁ、たしかに。じゃあ私の勝ちだね」
「なんで勝ちなの?」

「妻帯者がいても付き合いたいほど、私の方がモテる」

 表情の変化には乏しかったけど、なんか自慢げなのが伝わった。
 なにを張り合ってるんだか。とは思うけど、こう言う小さなこだわりというか、我の強さみたいなのがあるのは可愛らしい。

 うん。うん。いいね。と同調して寄り添ってくれるのに、変なところで張り合って
きたり自慢げになったりする。

 少し変なのが愛おしい。

「じゃんけんするまでもなく、正しいと思うよ」
「聖の方が可愛いから、勝てて嬉しい」

「男嫌いなくせにモテていいの?」
「動物に懐かれてるのと変わらないから」

 それはそれでひどいな。
 視線でそう返すと灼は上目遣いでさらに言葉を続けてくる。

「私はもう、聖以外を性的に好きになれなくなっちゃった」 
「それだと動物を性的に見てるみたい……うえっ!?」

 すると突然いきなり大きな破裂音が聞こえた。
 私も声が出たし、灼の身体がビクッと震えた。

 なにが起きたのかと周囲を見回してみると、灼が一点を指差す。

「あそこだね」
「あそこ……? あぁストリートピアノ、拍手なんで大袈裟な……」

 高校の最寄駅、そこに置かれているストリートピアノ。
 普段はガラガラであまり人も寄り付かないのに、拍手なんて珍しい。

「……ねぇ聖、あれさ」
「あれ?」

「中心の人」

 誰か有名人でもいたのかな。
 とかなんとか思っていたら、散り散りになっていく群衆の中で何か話をしている3人の女の人を指差していた。

「えっ? あの人が……なに?」
「中等部の先生じゃない?」

「あー、えっ? どうだろ」

 中等部の先生……あぁと思い出す。
 内部進学の子が言ってたかも。若くて仲良しの2人の先生……。

「あー思い出した。苗木先生と比山先生だ。小さい方が比山先生」
「そうなの?」

「うん、2人とも会ったことあるし」
「会ったことあるんだ。それで、もう1人はどっち?」

「どっち……?」

 言われてからよく見ると中心には3人いた。
 小さいポニーテールの女の人、あれが多分比山先生。

 そして残りの2人のどちらかが苗木先生なわけだけど……?

「あれ? なんか似てない?」

 キラキラと笑顔の振りまいているカールした亜麻色の髪の女性と、どこか慌てた様子の黒のショートカットの女性。

 雰囲気も髪型も違うのだけど、どこか似たものを感じた。

「うん。遠くでよく見えないし髪型も雰囲気も全然違うけど、なんか似てるね」
「たしかに、まぁでも黒髪の方が苗木先生だよ。覚えてる」

 一瞬だけ「あれ?」 と迷ったけど、そのはず。
 あの人はすごい覚えてる。

「そっか。たしかにもう1人の方は華あるし、そっちだったら男子の間でも有名になってるか」

 灼の噂も私の噂も、男子にはいち早く広がっていた。
 そんな耳の早い男子のネットワークを思えば、見た目くらいは有名になってるはず。

「てかあの苗木先生って双子なんだね。知らなかった、似てないような似てるような感じだけどさ」

 そんな風に言うと灼はのんびりと

「……同一人物だったりして」
「まさか」

 どんな運命の捻れ方よ。

「ツインアース仮説のH20とかスワンプマンとか、その類かも」

 淡々と難しいことを言っているけど……自分とよく似た存在の話?

「ドッペルゲンガーとか? そこまでは似てないか」
「似てるとか以前にドッペルゲンガーだったら話してる苗木先生は死んでるよ。まぁそもそもドッペルゲンガーはコミュニケーションを取らないし———」

「なるほど、そうなんだ! じゃあどうなんだろうな」

 長くなりそうな講釈を強引に打ち切った。
 ただ話を打ち切られたと言うのに灼は、自慢げな顔で繋いだ手をブルンと振るう。

 そんな風に話をしていたら、比山先生の方が手を振って改札を抜けていく。

 そして苗木先生の方も、手を繋いで駅の向かいの出口に抜けていった。

「仲良さそうだね、あの人たち。私たちみたいに手を繋いでる」
「仲良いのかな? 手を繋ぐってより引っ張ってかれたみたいだったけどね」

 あれが同一人物だとしたら、どんな気分なんだろ?

 運命を共にする灼と手を繋ぐのとはまた違った感覚なんだろうな。
 なんせ自分なんだから。

「……そういえば、よく中等部の先生を知ってたね」

 なんてことを考えていたら、灼はこちらを見ていた。

「あぁ、中等部に呼び出されたことあるからね」
「……? なんで呼び出されたの?」
「中等部の男の子と一瞬だけ付き合ってたから」

 そのことで色々と苗木先生に取り調べを受けたことがある。

 あの人はその時、告白してきた男子のクラスの副担任だった。
 そして若い女性という理由で、比山先生も加えて2人から積極的に話を聞かれたのを覚えてる。

 中でも苗木先生は特に印象に残っていた。

 運命の相手を探してるから誰とでも付き合うことにしてる。

 そう話をしたときに、どこか羨ましそうに私の話を聞いていたのが印象的だった。
 いや、そんな羨望の素ぶりは見せていなかったんだけど、私は直感でそう感じた。

「それ、知らない」
「あ、あー……まぁ付き合ってたうちにも入らないよ。中1と付き合う高1ってヤバいじゃん? だからいきなり付き合ってほしいって言われて返事はしたけど、次の日には撤回したし」

「……地雷原だね、本当に」
「ごめんなさい」

「キスで許してあげる」
「ここで?」

 彼女は視線を少し逸らしながらも、ハッキリとした声で言葉にした。

「ここでもいいけど、不純なことになっても学校にバレないから家で」
「……本当に、大胆になったよね。灼」

 プロポーズした時はそういう性欲が嫌いなんて言っていたけど……。
 まぁでも不健全な方が灼は健全な気がする、不安でいっぱいだった彼女が安心してるってことだし。

「地雷原を歩くんだから、大胆じゃないとね」
「わかったよ」

「万が一その地雷が爆発しちゃったなら、聖と一緒に爆散することにする」
「……灼は重いね」

「そうだよ。私にプロポーズするのはそれだけ重い選択だったんだよ」

 たしかに、と心で思う。
 離婚はありえない。なんてったって、私たちは運命で繋がってる。
 こうして夫婦として一緒にいるのは運命で必然だから、踏み出す足取りは軽くても、選択したものは重い。

「そうだね、灼からの離婚がないんだからね」
「聖からはあるの?」

「ないね。灼とは運命を感じてるし」
「……ふ、ふーん」

 何かを考えてるように空を見た。
 ただ……なんとなく灼がなにを思ったのか、なんとなくtわかった。

「おっ? 照れてる?」
「……っ? いつも照れてるよ。大好きな人と一緒にいるから」

 なにを当然なことを。と言わんばかりで、目が見れなくなってしまった。
 こっちが灼を揶揄うつもりだったのに、結局手のひらの上なのかもしれない。

 慣れない……灼の愛情表現。

「一生慣れないでね。照れた顔、可愛いから」
「……心を読んだね。また」

 鼻から息を漏らして、灼は静かに笑った。
 綺麗な横顔だ。本当に彼女の顔の造形は美しい。

 こんな綺麗な女の子と夫婦のように生活している現実が、妙に馴染んでいることが嬉しい。

 こうしているだけで落ち着くし、どこか重なっているって感じる。
 朝一にキスで起こされたりしても、受け入れてしまうだろう。

 ドッペルゲンガーでもなんでもなくても、そのくらいの重なりを自分以外の人間に感じられることが嬉しい。

 やっぱり灼は私の運命の人で、理想の結婚相手だ。

 ビビッときて、大好き。

「行こっ。灼」
「うん、聖」

 手の指を絡める。
 その指よりも複雑に私たちの運命は絡み付いている。

 別れるなんて、ありえないや。
 そうやって私は灼を思うだけで、カーッと体が熱くなる。

「てかさ、さすがに寒くない? 灼って細いから少し心配になるんだけど」

 そういえばと誤魔化すよう話題を投げた。
 灼との食事はいつも一緒で同じ量食べてるはずなんだけど、灼は以前細いこと。

 なんとなく日頃の不思議を口にする。

「寒いけど、体型はそんなすぐに変えられないし……寒かったら、聖の隣で暖を取るから」

「カイロか何かだと思ってる?」

「私の婚約者兼、カイロだね」

 私は灼の冗談みたいな言葉を受け取りながら、手のひらから体温を共有した。
 接触する部分が増えて、より灼の体温を感じる。

 灼の細長くてスベスベとした指から手のひらまでは、熱いくらいに温かい。

「これ、どっちがカイロか分かんないね」
 

シチュエーション

【ある日突然並行世界の私にキスで起こされて人生がぐちゃぐちゃになった話】

 11話 桜彩高校最寄駅にて



※おまけ短編はあくまでおまけとして考えてください🙇

 両作品本編に影響はないはず……!

スニーカー大賞がまとまり次第、結婚の話のおまけに追加します

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する