第2話自殺

 僕は都会の大学に通う事にした。


はじめの数年は正月に帰省していたけれど、だんだん帰省が面倒になって、いつの間にか12年間も村に帰らなかった。


都会での仕事は華やかだけれど、心を削られていくようで…

なにも感じなくなっていくようで…


両親からの電話にも「大丈夫」、「心配ない」とか、いい加減な返事ばかりかえすようになっていった。


そしてある時、恋人に裏切られ、仕事も無くして生きていくことに疲れ果てた。


僕は簡単で確実な死に方をさがして都会の夜をさまよって、ビルの屋上から飛び降りた。


ああ、本当に走馬灯のように、色んな記憶が巡っていく。


「父さん、母さん、ごめん…」


ズジャン!


衝撃が走り、真っ暗になった…




 「賢也、起きて…」


「賢也。大丈夫か?」


鳥のさえずりに混じって、懐かしい声が聞こえた。


森の匂いがする。


目を開けると早朝の森の中、父さんと母さんが僕の身体を揺すっていた。


僕は硬くて冷たくゴツゴツした場所に横たわっていた。


「ああ、神様、ありがとうございます」


記憶よりだいぶ老けた両親が、涙を流している。


「ここは?僕はビルから飛び降りて…何故生きて、こんな所に?」


「この村の秘密なの。賢也は死に戻りしたんだよ」


「死に戻り?秘密?」


自分が横になっている岩には見覚えがあった。


「これ、赤ん坊を横たえて神様にお祈りする岩だよね」


「そうよ、この岩は死に戻りの記録装着。春分の日に、この岩の上に横になった赤ん坊は、一回だけこの岩の上に戻って、生き返るの」


「じゃあ何人も生き返ってる?」



「そうよ、爺ちゃんも、婆ちゃんも、母さんも、白金さんも剛也もみんな一回生き返ったの」


「母さんも?」


「そう、去年、町に出た時、交通事故に遭ってね。気がついたらこの岩の上にいたの」


「そうだったんだ」


「さあ、家に帰ってご馳走をつくってお祝いしましょう。賢也が帰ってきたんだもの。このお岩様にもお礼にご馳走をお供えしないと…」





*「神にいけにえをささげる為の台」の象形と「口」の象形(「祈りの言葉」の意味)と

「ひざまずく人」の象形から「幸福を求めて祈る」・「いわう」を意味する「祝」という漢字が成り立ちました。

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不思議な風習【お題フェス11祝い】 高井希 @nozomitakai

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