「お祝い」のとき

🌸春渡夏歩🐾

たくさんの「おめでとう」

 物語のはじまりはどこかと考えるなら、僕はきっと、新しい生命いのちが宿ったときだと思う。

「ご懐妊おめでとうございます」

 ここからはじまるんだ。


 それから十月と十日で、この世界に生まれ出て、最初の呼吸いきをするんだね。

「ご出産おめでとうございます」


 はじめての誕生日。無我夢中の一年が過ぎるよね。

「お誕生日おめでとう」


 五歳になる。ひとつの節目だね。

「七五三おめでとう」


 次は小学校? 

 その間に「入園おめでとう」と「卒園おめでとう」があるかもしれないね。

 いよいよ小学生だ。早いねぇ。ピカピカのランドセル!

「新入学おめでとう」


 六年間の小学校の間に、何か賞をもらうかもしれない。スポーツや作文やお習字や絵や工作、運動会のかけっこ……何でもいい。お祝いしよう!

「おめでとう!」


 もう中学生? まだ着慣れない制服だね。

「小学校卒業おめでとう」そして「中学校入学おめでとう」


 うわ〜、三年間なんて、あっという間だ。とりあえず義務教育は終了〜。

「中学校卒業おめでとう」と「高校入学おめでとう」


 高校を卒業したら、どんな進路を選ぶんだろう。

「高校卒業おめでとう」

「入学おめでとう」……かな。どんな選択だって、応援するよ。


 学生生活が終わりを迎えたら

「卒業おめでとう」と「就職おめでとう」だね。


 そのあとも、たくさんの「おめでとう」が人生にはあるはず。

 結婚はしてもしなくても、子供はいてもいなくてもいい。

 成人したとき、病気が治ったとき、引っ越したとき、

 家を建てたり、お店を開いたり、

 本を出版することだって、あるかもしれない。

 宝くじが当たることも……おっと、僕は最高五百円までしか当たったことはないケド、ね。


 誰かをお祝いして、誰かにお祝いしてもらえるような、

「おめでとう」って、喜びを分かちあえることがきっといろいろあるよ。


 寿命が延びた現在いまでは「還暦」をお祝いする意味は薄れたけれど、

 長く生きていることは、やっぱり「おめでとう」だと僕は思いたい。



 僕の腕の中で安心して眠っているこの小さな生命いのちが大人になるとき、


 誰かに命じられて殺しあいをすることも、

 お腹が空いても食べるものがないということも、

 思い出の詰まった家が破壊されることも、

 助けられるはずの病いが見捨てられることも、

 好きな場所へ自由に行けないことも、

 愛する人と引き裂かれることも、


 どうか……ありませんように。


「おめでとう」と言えるのは、幸せなこと。世の中が平和だからこそ。


 僕たちに「おめでとう」って、たくさん言える機会をくれて、ありがとう。

 僕たちは、君の物語を最後まで見守ることはできないけれど、

 君が大切な相手と笑顔でいられますように。

 小さな喜びがたくさんありますように。


 君が生まれたこの新しい年に

「あけましておめでとう」


 今年はじめての太陽が昇る。

 君の新しい今日に「おめでとう」



 *** おわり***

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「お祝い」のとき 🌸春渡夏歩🐾 @harutonaho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説