後編
「もう、茶番はやめにしませんか?」
未だに悲鳴を上げている城坂の母とそれを宥めている三人に向けて言う。
「茶番? 何のことだね?」
と城坂の父が首を傾げて言う。
「この怪奇現象の数々がです、これは生きている人間が人為的に起こしたものです。
たとえば、あの部屋の証明の電気が突然消えたことなんですが、それが起こる直前で、城坂のお父さんはポケットに手を入れていた。ポケットの中に照明の電気を遠隔操作できるリモコンか何かが入っているんじゃないですか?」
彼の父がぎくっと体を少し震わせた後、ポケットからリモコンを出した。
「ああ、たしかにあれは私がやったものだ。だが、あの足音はなんなんだ、あれは怪奇現象だろう?」
「いえ、あれも人間が起こしたものですよ、城坂のお姉さんが、足音が出る前にスマホを操作していたでしょう? 今明るくするからって言ってスマホのライトをオンにしていた時ですよ。その際に、スマホであらかじめ録音していた足音を再生していたんじゃないですか?」
俺がそう言うと、バレたか、と言って、彼女の姉はスマホの画面を見せてきた。
その画面に映っていた再生ボタンを彼女は押すと、あの時流れていた足音が響きだした。
「でも、高島君、確かにその二つは人間が起こしたものだったけど、あのゲーム機とデスクスタンドが倒れていた件はどう説明するの? あれは怪奇現象としか言えないでしょ?」
と腕を組みながら、城坂の姉は不敵な笑みを浮かべて言う。
「いえ、あれも人間が起こしたものですよ、テーブルの下を見てください」
俺はその下にあるタコ足配線を指差す。
「テーブルの下のタコ足配線まであのゲーム機とデスクスタンドの電源コードは伸びていた。あの時、城坂のお母さんはコップをテーブルの下に落として、それを拾おうとした。その際に、二つの電源コードを引っ張れば、離れたところにあるゲーム機とデスクスタンドを落とすことは可能だ。違いますか?」
城坂の母はずっと体をがたがたと震わせていたが、俺がそう言った瞬間、それをピタリとやめた。
「ええ、そうよ、その通り。あの時、高島君の言うように、私が電源コードを引っ張って落としたのよ」
なんて言って、彼女はあはははと笑う。
「迫真の演技でしたよ」
「あらそう、嬉しいわ、私、役者になれるかしら?」
「なれると思いますよ。でも、どうしてこんな怪奇現象に見える様なことをしたんですか?」
「ああ、それはね、かずなりから君が幽霊を信じないって聞いていたから、心霊現象みたいなのを起こして、ビビらせたいなって思っていたのよ、あ、不快だったらごめんなさいね」
なんて楽しそうに笑いながら言われる。
城坂の父と姉も笑いながらぺこりと頭を下げてきた。
……変な家族だ。
まぁ面白かったからいいけどさ。
その後は普通に食事と会話を楽しんだ。
誕生日パーティを終えて、家に帰るとき、送っていくと言って、城坂が駅に向かう俺についてきた。
「べつに送ってもらわなくてもいいのに」
「いや、ちょっと改めて今回のこと、謝りたくてさ、すまなかったな、俺の家族が」
「いや、いいよ、楽しかったから。でも、疑問に思うことがまだあってさ」
「ん? なんだ?」
「なんでお前、家族からかずなりって呼ばれてるんだ? お前かずゆきって名前だよな? それと、お前の誕生日ってまだ一ヶ月くらい先だろ、さすがに今日パーティを開くのはちょっと早くないか?」
「ああ、そのことなんだがな……」
彼は言いづらそうに口をもごもごとした後、意を決した表情になってこう言った。
「実は、今日は三年前に交通事故で死んだ兄の誕生日なんだ」
変な誕生日 桜森よなが @yoshinosomei
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