カレシ

灯村秋夜(とうむら・しゅうや)

 

 あ、すみません。先に断っておくんですけど、この話はたぶんウソだと思います。昔からホラー映画とか好きで、でもなーんか。嘘くささっていうんですか? や、セットとか着ぐるみの作り込みの話じゃないですよ。

 ホラーって“落差”……ありそうなリアルから「あってほしくない裏側」に落ちる瞬間の、その落差が怖さになると思ってるんです。だからこそでしょうか、明らかに現実的じゃない設定とか出てくると、すごい萎えるようになっちゃって。あと、謎解きパートがつまんない作品もダメですね。

 そんなわけで、ほうぼうで「なんか怖い話ないですか?」って聞き回るようになっちゃいました。リアルな体験がどれだけ怖かったのか語ってもらえるのも、その人がどのくらい錯乱してたのかを想像するのも楽しくて。そうですね、ひとまず老人ホームと病院はどこでも幽霊が出るっぽい、っていうのは分かりましたよ。

 それで、なんですけど……知り合いがお花屋さんでアルバイトしてたので、いつもの調子でついつい、「お花屋さん特有の怖い話とかさ、ないかな?」みたいなノリで。聞いちゃったんですよ。そうしたら、その人が……Aさんってことにしときますね。Aさん、ちょうどそれを聞いてほしかった、みたいな顔して話し始めたんです。え? あー、いつもそんなことばっかり考えてるから疑っちゃうって……そうですね、そうかも。


 端的に言うと、自己肯定感が高すぎて世界が輝いて見えてる……こういうの「躁病」っていうんでしたっけ? 躁うつ病とか双極性障害とか……わー、古い本しか読んでなかったのバレるー。えっと! まあそういう、キラキラのナルシストのお客さんが、いたらしいんですよね。

 そのBさん、あちこちに送ったり身に付けたりするために、Aさんがアルバイトしてるお花屋さんに足しげく通ってたんですけど……いつまで経っても売れない鉢植えがあって、それをいつも励ましていたんだそうです。なんていうんでしょうね、彼氏気取りというか。お花のカレシを自認する人なんてなかなかいませんよね。でも、そういうおかしな感じの人だったみたいなんですよ。当然Aさんも店長さんも口説かれてはいたんですけど、そんなに強引ってわけでもなくて、いつもきれいだねとかそのレベルだったとか。

 ホラーでもこれ、話の流れとしてどこに行くんだろうって思うじゃないですか。あの人はどこへ展開しようとしてるんだろう、って思いました、私も。Aさんは「それで、あの鉢植えぜんぜん売れなくってね」って感じでつなげていきました。なんか、変な樹でしたね。なんていうか、最大公約数っぽいというか。生き物っぽくないんですよ。なんて種類だったかは覚えてませんけど。

 それで、ナルシストのBさんは「きみもぼくみたいに輝く日が来ると信じているよっ!」とか……どうなんでしょう、そういう感じなのかな。たぶんそういう感じで、樹を励ましていたんだそうです。そのうち、夏に外に出てる植物って、水やりするまで葉っぱがへたってたりするんですけど、それすらないくらい元気になったらしくて。冬枯れもしない、何だったら夏でも、店長が休んでるのに気づかなくてみんな不在になっちゃって、ほんとにカラッカラで樹も枯れるくらいの気候でも平気へっちゃらだった、ってことでした。

 彼氏ができて元気になったんだね、なんて言ってたんですけど、そのうちにBさんがぱったり来なくなったんですよ。秋が深くなって、お花屋さんの中にも紅葉が訪れたかってくらいの頃のことでした。何年も、週に二回以上通ってきてた人のことですから、Aさんも心配になったみたいで……近所の人に聞いて、Bさんの住んでるアパートを訪ねたそうです。

 そこで恐るべき真実がぁ! ってことは、なかったようで。ちょうど来なくなった日の朝に忽然と姿を消して、出入りしてたバーとか勤め先のアパレルショップにも来てない、ただそれだけでした。いまいち釈然としないまま、翌日に出勤して鉢植えに水をやったときのこと、……


 つまようじで作った人形みたいなものが、落ちてたと。


 木の枝が偶然そういう形になったにしては作為的すぎるし、かといって作ったにしては自然すぎる。なんかそういう、自然だけど不自然な感じの……質感は自然っぽいんだけど形は意図を感じる、そうで。

 別にそういう、お人形をセットにした売り方をするものでもなかったので、ゴミ箱に捨てたそうです。そもそも、お花を買っていくお客様がセットで買うような、かわいいものでもなかったわけですから。次の日が燃えるゴミの日で、回収されていきました。ちょうどゴミ収集車が前を通るので、大量の注文キャンセルとかがあったときは「ああ、あの花たちが……」って思うこともあるんだそうですよ。

 そして、その次の日になんと、焼却場から人骨が見つかったとかで、警察まで来たんだそうです。Bさんがどこかのゴミ袋に、全身を丸めたままなのか入れられて燃やされて、全身分の骨が発見されたと……。

 さすがにウソかなと思って調べたら、言ってた通りの日にちに失踪してる男性はいて、その人の骨が近くのごみ焼却施設から見つかったってニュースも、新聞に載ってました。ただ、その……あのへん、妙な失踪と発見が多いんですよね。Bさんの名前は聞いてたんですけど、新聞に載ってた人とは別で、帰ってきてました。


 家の前に鳥かごとかドールハウス置くのが流行ってるんですよね、あそこ。

 のぞいてみたら――、なんて。

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カレシ 灯村秋夜(とうむら・しゅうや) @Nou8-Cal7a

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