祝砲

香月 陽香

祝砲

母なる星を離れて幾千年。宇宙の果てに、とうとう隣人を見つけた。

この出会いを祝わなければならない。

母星はもう滅んでいるだろうか。光速の船に乗った私たちにとって時間は相対的だった。


隣人は、いままさに重力の井戸から足を踏み出そうとしている、赤ん坊のような文明であった。


私たちは彼らの文化を学んだ。

祝いの席では、空に向かって火花を打ち上げるらしい。美しい光と音で、喜びを表現する習慣があるようだ。

それなら、私たちの祝砲もきっと理解してもらえるだろう。


私たちは彼らの街の上空に、祝砲を放った。

光が空を切り裂き、轟音が大気を震わせる。盛大な光の祝福だった。


彼らは建物から飛び出し、空を見上げ、声を上げながら走り出した。

こんなに喜んでもらえるとは。


やがて、彼らからも返礼の火花が上がった。

細い光が幾筋もこちらへ伸び、ぱちぱちと弾けて消える。

私たちは、この出会いを相互に祝うことができたのだと満足した。


船を降下させ、外に出る。

何かが焼けるいい香りがした。祝宴の準備だろう。


四本の触手を振って挨拶すると、彼らはさらに大きな声を上げて歓迎してくれたのだった。

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