第3話
俺の名前は科津揚太(しなづ ようた)。自分で言うのもなんだが、俺は天才だった。
頭は多分普通ぐらい、運動神経はそこそこ良い方。幼少期は自分の才能をそんな風に認識していたが、中学一年生になってすぐ、近所のダンジョンにこっそり忍び込んだことで眠っていた才能が発覚した。
殴る才能、蹴る才能に加えて武器を扱う才能。敵の攻撃を予測する才能に生き残る才能。魔法の才能もあった。
そして何より、誰かを害することにも、誰かに害されることにも抵抗が無かった。
つまり、戦う才能に恵まれすぎていた。
ちゃんと鍛えていれば誰でも勝てる、と言われている変な鶏みたいな魔物を蹴り飛ばしたときは、特に気付くことはなかった。
だが、大人がヘルメットやプロテクター等を装備して、さらに武器まで持っていても負けることがあるという小鬼。通称ゴブリンを相手に、普段着の俺が素手で完勝してしまっては自覚せざるを得なかった。
そこからはただひたすらダンジョンアタックに邁進し続けた。戦えば戦うほど、鍛えれば鍛えるほど目に見えて強くなっていくのだから楽しくないわけがない。
学校が終わると夜までひたすら……いや、放任されているのをいいことに、ときには学校をサボってまでダンジョンに通い詰めた。
そして何より、俺は運が良かった。
九死に一生を得た回数は数え切れず、無謀な格上への挑戦を全て成功させ、その度に数段飛ばしで強くなっていった。
そうして三年後、俺は人知れず人類未踏のエリアを単独で突破し、ついに辿り着いた森宮ダンジョンの最深部。
そこで俺は、運命の出会いを果たすことになる。
「うわー、ほんとにここまで来ちゃった……。この世界は未開だから百年は安泰だと思ってたのに、話が違うよー……」
「か、かかか可愛……あ、いや。こんなところで何をして……いやいや、そもそも何者なんだ」
「私? 私はここの責任者みたいな感じでー……。だから見逃してほしいかなーって」
「ダンジョンの責任者だと? よくわからんが、そのダンジョンの核を回収させてくれるなら、えーと、その、君の可愛さに免じて見逃してもいいというか……あと連絡先を……」
「……はあ。これだけは駄目なんだよね」
「む、そうか。なら連絡先は力尽くで奪わせてもらう。あっ、あと核も」
会話の内容はこんな感じだったか。俺はもう少しドギマギしていた気がしないでもないが、まあこんな感じだったということにしておこう。
そしてマキアはでかいダンジョンの責任者というだけあって本当に強かった。
世界中で話題になっているどの有名探索者よりも一回りも二回りも強く……だがそれでも、俺の方が紙一重で強かった。
「くっ、こんなに可愛いくせに滅茶苦茶強い……! だが、これで……!」
「きゃあっ!? もー、なんでこんなアホみたいに強い奴がいるのよ! それもまだこんなに若いのに!」
「よし、これでトドメだ――――あっ」
「……っ! こんなところで私が負けるなんて…………あれ?」
顔だけならギリギリ気持ちを押し殺せた。可愛すぎる顔だけなら、見て見ぬ振りができた。
だが一時間以上に及ぶ戦闘で、マキアの服がボロボロになっていた。それが俺の敗因だ。
駄目だとわかっていても、視線はどうしても服の破れ目から覗く白い肌に釘付けになり、精彩を欠いた俺は為す術もなくボコボコにされてしまった。
「お、おのれ、色仕掛けとは卑怯だぞ! ちょっと可愛いすぎるからってそんな手を……っ」
「もー、ひどいなー。私がやったんじゃなくて、君が私の服をボロボロにしたんだよー。にしても、どうしよっかな。またこんなのが来たら、今度こそやられちゃいそうだし……」
「俺がやっただと……!? そんな良い感じの見えそうで見えないギリギリの破れ方が、偶然起こったとでも言うのか……。くっ、完敗だ……っ!」
敗北を認めざるを得なかった。壁に磔にされ、審判を待つのみだった。
「なんか勝っちゃった……。あ、そうだ。負けたんなら言うこと聞いてもらおっかなー」
「言うことを? なんだ、俺に何をさせるつもりだ」
このまま惨たらしくぶっ殺されるのかと思っていたが、俄かに助かる目が出てきて希望を抱いてしまった。
それもこんな俺の理想がそのまま具現化したような美少女に命令されるのも、それはそれで悪くないような……。そんなことを考えてしまった。
「うん、せっかく強いんだからさー、君には私の代わりにこのダンジョンを守ってもらおっかなって」
「ダンジョンを、守る……?」
「そ。人がいっぱい来てるでしょ。上の方でウロウロしてるのは放置でいいんだけど、いずれここまで来そうなのは処理しておきたいんだよね」
「処理……」
「うん、処理。大体半分ぐらいより下まで来られると恐いから全部殺しちゃってほしいんだよ。だから四十階の門番をしてほしいかなーって」
「断る。自分でやれ」
ダンジョン探索は自己責任。誰がどこでどんな目に遭おうと知ったことではない。
……だが、自分で手に掛けるとなると話は別だ。俺は自分が強くなること、攻略を進めることに全てを捧げたダンジョン狂いだが、その一線だけは越えられない。
「えー、手伝ってよー。ね、お願い?」
「だから断ると……あれ?」
「あ、効いてきた? ここまで抵抗できるのも凄いけど、やっぱり負けを認めちゃったら駄目なんだよ」
「くそ、これはそういう魔法か! だがこんなもので俺を意のままに操ろうなど、見くびられたものだ……!」
「え? あれ? うそ、まだ抵抗できるの……? えー、やだやだ。ね、お願い。言うこと聞いて?」
「だから断ると……むむっ」
「あれ、抵抗が緩んだ? どうして……あっ……。えっち、すけべ、へんたい」
「ち、違……」
俺はちゃんと抵抗していた。何の恨みも無い人を殺すなど真っ平御免だった。
だが、マキアが磔にされている俺に近付いてきたことで、服の破れ目を割とアップで見ることになり、つい意識がそっちに……いや、そこからも抵抗はした。したはずだ。
だが巧みな話術に翻弄され、ついに俺は屈してしまった。仕方ないことだった。一体誰が俺を責められるというのだろう。
それにそこからも粘り強く交渉を続けたことで、殺さずとも無力化して追い返せばいいというところに着地できた。
アホみたいな格好で手を抜いている俺に勝てないなら、どうせこの先で苦戦して追い返されるか、最悪の場合は命を落とす。なので実質人助けみたいなものだ。
そう自分に言い訳して始めた武器のカツアゲは思いの外忙しく、またしても交渉を続けたことで地下五十階まで条件を緩和。
しかしそれと引き換えにマキアは俺の部屋までやってきて我が物顔で寛ぐようになり、しかもジュースやお菓子なども要求されるようになってしまった。
「くそっ、今に見ていろよ……! 時間は俺に有利にはたらくんだ! このまま唯々諾々と従い続けると思わないことだな!」
「えー、なんでよー。ずっと言うこと聞いてよー」
「ふん、マキアは五年後、十年後でも世界一可愛いままだろう。確かにその間はずっと言いなりになるしかない。だが三十年……いや、四十年経ってオバサンになればどうなるかな? そう、ギリギリ逆らえる程度には老いているはずだ。その頃には俺もいい年こいたオッサンになって免疫も付いているだろう。そのときこそ俺は反旗を翻し、今度こそ森宮ダンジョンを攻略してやるからな!」
「すっごい長期的な計画だ……。でも悪いけど、私は何百年もこのままだよ?」
「は? 最高か?」
もう生涯忠誠を誓って……いや、違う。いつか絶対ぎゃふんと言わせてやるぞ……!
ダンジョンカツアゲ 東中島北男 @asdfasdfasdf
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