ヰ エッグゐケットゥÐデュエル ヰ
水城みつは
ヰ エッグゐケットゥÐデュエル ヰ
―― 『エッグデュエル、READY!』
エッグケースから三つのエッグ《たまご》が5×5の盤面に配置される。
「お、互いに対角配置か。どっちも耐久重視のデッキとみた」
「いやいや、美兎たんはラビット系の速攻重視のモンスター構成が売りのマヨリストですぞ」
街角のカフェのモニターにはエッグデュエルの模様が映し出されている。
エッグデュエルとは仮想空間でモンスターを戦わせるゲームであるが、この世界ではサッカーや野球、バスケといったスポーツよりも人気があると言っても過言ではない。
それこそ、裁判と書いてデュエルと読むぐらいにはエッグデュエルが人々の生活に組み込まれている。
かく言う俺も春からはデュエリスト育成高校とも言われる探索者育成高校へと入学する。
そして、今年は丁度『ヰ エッグゐケットゥÐデュエル ヰ』の本編が始まる年となっていた。
「むっちゃん、どうした? あ、もしかして、
「いや、美兎たんって誰だよ」
カフェの前で足を止めたのがまずかった。
このイケメン野郎が
そして、俺こと
そんなわけで、幼馴染のおかげで、赤ん坊に転生したと思ったら『ヰ エッグゐケットゥÐデュエル ヰ』の悪役モブだったと気づけたわけだ。
おっと、この文字化けしたような、厨二病のような『ヰ エッグゐケットゥÐデュエル ヰ』は前世ではそれなりに人気があり、アニメ、ゲーム、小説にとメディア展開もされていた。そして、この世界がどのメディアの内容をベースにしているかは良くわからないし、俺自体もアニメをふんわり見ていただけの一般人でしかなかったので原作知識で無双は難しいのだ。
「お前、美兎たんも知らないのか? 今、絶賛売出し中のアイドルデュエリストだぞ。噂だと俺等の行く学校の上級生……、って、なんだ?!」
「ん、どうした光?」
「今あっちで何か声がした気がした。ちょっと行ってみよう」
言うなり、細い小道へと駆け出していく。まったく、これだから熱血系主人公ときたら……。
「ちょっ、待てよ。流石主人公、何かしらイベントが起きたらどうするんだ……、って、いや、本当に待て、似たシチュエーションを思い出したぞ」
慌てて光を追いかける。
もし、この先で突発的なダンジョン発生に巻き込まれるのであれば、それは、アニメ『ヰ エッグゐケットゥÐデュエル ヰ』の前日譚として配信されていたエピソード0になる。
『ヰ エッグゐケットゥÐデュエル ヰ』はどちらかというと子供向けの、デュエルによるバトルをメインとしたアニメだ。
しかし、よく考えて欲しい。デュエルに使用されるエッグ、これはどうやって手に入るのか。
前世では実際にはTCG、トレーディングカードゲームとしての販売が主だったが、実際に中にモンスターフィギュア入りのエッグとしても販売され、人気を博していた。
アニメが
つまり、この世界にはダンジョンがある。
「むっちゃん、こっちだ!」
「むっちゃんはやめろ、ってか、待て! 一人で突っ走るな!」
細い路地を更に曲がって進み……、
―― 世界が裏返った。
「ぐぁっ、吐きそう。何だここは……、あぁ、むっちゃん無事?」
「ああ、俺は無事だ」
ここは
紫色の空に、溶け落ちたような街並み。他に人の気配は感じられなくなっている。
「これは、
「ああ、今日は出てなかった」
もし出たとしても数日後、入学式の日の事だ。その日、主人公――
「おい、
「ああ、大丈夫だ」
「ホントかよ、さっきから『ああ』しか言ってないぞ。それより、どうやらダンジョンに入っちまったみたいだな。ステータスが発現してる。それにスキルも……」
「マジか、あ、スキルは喋るなよ。親兄弟でもスキルは教えないのが
「お、おぅ」
どうやら光の奴はスキルを喋ろうとしていたらしい。もっとも、俺は主人公である光がもっているスキル、『
むしろ、そのスキルのせいで、この
「で、お前、ここに来たかったのか?」
「……多分、そうだ。今なら分かる。呼ばれていたんだ……こっちだ!」
立ち上がった光が再び走り出す。
―― ギュラァァーーーッ!
グァアァアーーーッ!
細い路地を抜けた所で、咆哮が圧を持って襲いかかった。
「なっ……、うっ」
「ぐぁっ……、何だよ」
耐えられず膝をつく。
目の前では二匹のモンスターが互いに絡み合うように戦っていた。
「……ウロボロス?」
「何だって?」
―― グルァァァーーーッ!
激しい叫びと共にぶつかり合っていた二匹のモンスターが互いに弾き飛ばされるように別れて瓦礫の山へと突っ込んでいく。
そして、再びの衝撃に俺と光も左右に跳ね飛ばされ、間には倒壊した瓦礫が崩れ落ちてきた。
「痛っーー。光、無事か!」
瓦礫の向こうへと別れた光に叫ぶ。
「六巳! こっちは無事だ」
どうやら無事みたいだ。
「光! そっちに飛ばされたモンスターはどうなった?」
こっちのモンスターは瓦礫の下敷きになっているっぽい。
「瓦礫に突っ込んで潰され……、え? 呼んでる? むっちゃん、ちょっと見てくる!」
光が遠ざかる気配がした。
「……これは、主人公イベントか?」
アニメ『ヰ エッグゐケットゥÐデュエル ヰ』の前日譚、エピソード0では
もっとも、そのエピソード0では白竜が瀕死となった戦闘については描かれてはいなかった。
「それより、気になるのは戦っていたもう一匹の黒蛇だよなぁ」
とりあえず、どうなったか確かめには向かおう。
そう、白竜と戦っていた黒蛇のモンスター、サイズこそ小さいものの、俺はそのモンスターを知っていた。
アニメでは出てこなかったが、ゲームにおける裏ボスとも言える隠しボス『ウロボロス』。
倒しても倒しても再生する、非常に面倒くさいモンスターだ。
そして、更にサイズの小さくなったウロボロスが瓦礫の影に落ちていた。
―― 『小僧、力が欲しいか?』
「いや、いらないけど」
生かしておいても面倒くさいボスと化すだけだし、瀕死の今なら俺でも倒せそうだ。
―― 『こら、待て待たぬか。か弱い蛇を瓦礫で叩こうとするな』
かなり弱っているというのにちょこまかと避ける。
「いや、将来悪の組織に祭り上げられるとこっちも困るんで倒されてくれ」
裏切った俺が属する組織は『ウロボロス』。まあ、こいつが関わってくる組織なわけだ。破滅フラグは芽の内に潰すに限る。
「てぃっ!」
瓦礫を投げつける。
―― 『ふぎゃっ、痛い、やめろ、止めぬか! あうっ』
「トドメだ!」
動けなくなった
―― 『ぬぉー、かくなる上は……「
―― ガンッ!
「なっ! エッグ化しやがった……。設定としてあるのは知っていたけど、マジに持ってるモンスターが居たのか」
―― ガンッ! ガンッ! ガンッ!
「うん、壊せないな。ドロップアイテムではなく、自らエッグ化してしまったかぁ」
念の為、力を込めて何度か殴ってみるが、目の前の黒い卵は割れそうにない。
まあ、エッグはゲーム的に言うと不壊オブジェクトで壊すことはできないのだが。
設定によると、『
「つまり、ここで
そう、時期は多少ズレたが、この
「さて、この黒い卵だが……。放置は無しとして、俺が持っておくのも問題がありそうだし……」
破滅フラグの詰まった黒いエッグ、できれば、いや、何としても消し去りたい。
「ヨシッ! 食べるか! スキル『
覚悟を決め、目をつぶって黒い卵を丸呑みした。
何となく「えーっ!」という抗議の声が聞こえたような気もするが無視だ無視。
スキル『
―― URエッグ『ウロボロス』の吸収を確認しました。
血統スキル『
血統スキル『
「天の声ぇ……。ヨシッ! 俺は何も聞かなかった」
ここは『ヰ エッグゐケットゥÐデュエル ヰ』、楽しくエッグデュエルを楽しむ世界だ。
「さてと、白竜のエッグを手に入れた主人公様に会いに行きますかっと……」
俺は、光の向かった方向へと向かうべく、瓦礫の山へと手を掛けた。
「……『ヰ エッグゐケットゥÐデュエル ヰ』にハードなダークファンタジー系のスピンオフ、なかったよな?」
ヰ エッグゐケットゥÐデュエル ヰ 水城みつは @mituha
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