Ashさんの作品群の中で、これが最も多くの読者を「嫌な汗」へと誘う一作です。
語り手は「私」つまり卵。あなたの「平和を守りたい」「正しくありたい」「大切な人を守りたい」という、一見すると善意に満ちた感情を栄養にして、殻の中でじっくりと育っています。善意が怪物の揺り籠になるという逆転の構造が、1758文字・全1話という短さで完璧に機能しています。
「みっちゃん」でコズミックSFの笑いを、「ヘイワナミライ」で幸福の定義を問い、「気配」で背後からの恐怖を届けてきたAshさんが、この作品でついに読者の「内側」に入り込んできます。★436という数字が示す通り、これはAshさんの最高到達点のひとつです。
この物語を読み終えたとき、私は少し嫌な汗をかきました。
なぜなら、自分が「正しい」「優しい」と思ってしてきたことが、実はとんでもない化け物を育てていたのかもしれない、と突きつけられたからです。そんな強烈な読書体験をしました。
この物語の語り手は、誰の心の中にも潜んでいる「あるもの」です。
それは、母親が我が子を想う慈しみや、クリエイターが数字を求める熱意、平和を願う祈りといった、一見すると「善いもの」を栄養にして形を成していきます。あなたが誰かを大切に思えば思うほど、その裏側に潜む「影」が濃くなっていく描写は、どんなホラー映画よりもリアルな恐怖を突きつけてきます。
SNSの「いいね」を欲しがる心や、ニュースをデータとして軽く消費する指先。そんな私たちの何気ない日常が、実は「情報としてしか見ず人間として見ない心」を養っているのだと突きつけられます。スマホを眺めるあなたの平穏な時間が、大きな惨劇の準備期間であるかもしれないという指摘に、背筋が凍ります。
決して途中で結末を探らないでください。淡々と綴られる美しい散文が、最後の一行で巨大な「意味」へと収束したとき、あなたは自分がこれまで温めてきたものの正体を知ることになります。
「自分だけは大丈夫」と思っている人にこそ、この毒を。
この物語を読んだ後、あなたが無意識に口にする「でも、みんなそう言っている」という言い訳が、化け物を守る「殻」の音に聞こえて肝が冷えます、自戒も込めて……。