迷探偵ポワレというキャラクターが、読後にふっと恋しくなる

とても愉快で、そして少し切ない余韻の残る短編でした。
まず冒頭から、ポワレと梶井の関係性が軽妙な会話と所作で鮮やかに立ち上がります。白いモーニングコート、菫色のドレス、ペンギンのような歩き方――視覚的な描写が豊かで、舞台が「劇場」であることと見事に呼応しています。観客として芝居を見ていたはずが、いつの間にかこちらも“もう一つの芝居”を見せられている感覚が心地よいです。
中盤の転落事件から推理パートに入る流れは、正統派ミステリの構造を踏まえつつ、どこかズレたユーモアが効いています。
特に「ゆでタマゴ」という小道具が秀逸で、
・玉子/王子
・黄身の有無
・ハムレット
と、言葉遊びと演劇モチーフが重なっていく様子は、理屈としては強引なのに、ポワレという人物を通すことで「まあ、この人ならやるよね」と納得させられる説得力があります。
しかし、この作品のいちばんの魅力は、ラストの反転でしょう。

記憶障害を抱えた元警察官が、リハビリとして推理を楽しんでいる。
正解かどうかより、「考えること」「物語を与えること」自体が彼の生きる支えになっている。
それを分かった上で、黙って見守る梶井と小山戸警部の優しさが、最後の苦笑に静かな温度を与えています。
タイトルの「空っぽのタマゴ」も、
・黄身のないタマゴ
・中身の抜けた推理
・それでも大切に扱われるもの
を重ね合わせた、非常に美しい比喩だと感じました。
軽妙で、可笑しくて、どこか哀しい。
迷探偵ポワレというキャラクターが、読後にふっと恋しくなる、上質な掌編ミステリだと思います。