クリスマスが終わり、次の年になった。

 冬休みはすぐに終わり、学校が始まる。



 教室に入って、違和感で気持ち悪くなった。


 私が来た瞬間に教室にいる人の声のトーンが落ちたのだ。


 今までそんなことはなかった。だから、思う。



 噂されている。



 たぶん、高宮くんとの関係で噂が流れているんじゃないだろうか。

 思い当たる節はそこしかない。



 そして、高宮くんもそれがわかっているのか、少しバツの悪そうな顔をして、私のところへやってきた。


「あけおめ、古瀬さん」


「……明けましておめでとうございます」


「なんで、敬語?」


「それは、高宮くんの方がよくわかっていると思うけど」


 冷たくあしらうと、高宮くんは「まいったなぁ」と後頭部を軽く掻いた。


「ごめん。もう、噂になってるんだ、俺たち。付き合っているって」


「高宮くんが広めたんだよね?」


「ごめん……でも、そうしないと、みんなが、うん」


 さすがに、みんながいる教室でしつこいなんて言えないか。高宮くんは話している途中で言葉を飲み込んだ。


「慣れるまで我慢するしかないんだろうけど、どうにかならないの?」


「うん、ごめん」


 うんざりして、私は嘆息した。まあいいか。好きな人なんて、できないし。


「黙殺するから、何かあったら守ってよ」


 それだけ言うと、私は自分の席に移動した。




 数日が過ぎると、噂話をしている気配はなくなっていった。


 私は安心して、学校の授業を受けて、日常を過ごすことができると思った。


 しかし。


「古瀬さん、一緒にご飯食べよう……いや、そんな怖い目で睨まないでくれないか?」


 そんな怖い目になっているのだろうか。少し心外だ。


「どうして、一緒にご飯を食べないといけないの?」


「付き合っているのに、一緒にご飯を食べないのはダメだと思って」


 他の人たちの視線を感じて、私はちらっと見る。たぶん、まだ周囲の人たちは私と高宮くんが付き合っているという話に対して、半信半疑なのだろう。


 面倒だと思って、私はため息を吐いた。


「そうだね。一緒に食べよう」


 諦めて、そう言うと、高宮くんは安心した笑みを浮かべた。よかったね、私に断られなくて。




 高宮くんと昼ごはんを一緒に食べるようになってから、一週間が過ぎた。


 次の授業のために、机から教科書とノートを取り出そうとしたら、一通の手紙が一緒に出てきた。


 なんだろうと思ったら、『高宮くんと別れて』と書いてあった。


 差出人は不明。本当に別れてほしいとお願いするのなら、正々堂々と名前を書いた方がいいよ、卑怯者。


 まあ、この差出人にとっては、私の方が卑怯者のように感じているだろうけど。


 相手にしないでおこう。


 そう思って、数日が過ぎると、今度は下駄箱の上靴がなくなっていた。その代わりに、また手紙があり、『消えろ』と書いてあった。


 これは、高宮くんに言わないとダメだな。


 私は昼休みのごはんのときに、高宮くんに事情を話した。


「え……そんなことになっているのか!?」


「知らないということは、高宮くんには何も変なことは起きてないんだね」


「ああ……俺は何もなかった。というか、こんなところで話していいのか?」


「さあ? でも、犯人はこの会話、聞いていると思ってやってる。上靴がなくなったし」


「大胆だな……逆恨みされたら嫌だろう、普通」


「なんなら、やめる? この関係で余計に面倒になるなら、私は解消しようと思うけど」


「ダメだ。それで相手がやめるとは思えない。俺が古瀬さんを好きでいると思われている間は、ずっと嫌がらせが続くと考えた方がいい」


「それは、高宮くんが私と別れたと公言すればいいと思うけど」


「俺が別れたくないんだ」


 その発言は、教室にいるみんなにも聞こえただろう。これで、高宮くんが私を好きでなくなったという信憑性がなくなった。


「最低な思いだね。私のことなんて考えていないんだ?」


「考えている。もし、ここで俺と別れたら、今度は第二の俺、第三の俺みたいなやつが現れるに違いない。みんなに好かれたいなんて願いは、よくあるだろうからな」


「つまり、そのたびに私は迷惑をこうむるから、高宮くんとずっと付き合っている方が割に合うと?」


「そうだ」


 あまりにも酷い話だと思った。でも、それは理にかなっているようにも見えた。


「……普通って、大変なんだね」


 付き合っているフリをして、普通のような関係を演じるだけで、嫌がらせを受ける。それなら、付き合わなければいいと思えば、向こうから片思いされて、嫌がらせを受けるかもしれない。


 私はどのみち、詰んでいるらしい。

 ため息を吐いた。


「わかった。この関係は継続する」


「本当か!?」


「少なくとも、高宮くんは味方でいてくれるから継続するだけだけど」


「もちろん、ずっと味方だ。これからもよろしくな!」


 握手を求められて、私はその大きな手を見つめた。


 仕方ない。


 求められているなら、応えてやってもいい。


 その手を握り、私は誓う。




 でも。




 もっと面倒じゃない人が私を好きになったら、そっちに乗り換えよう。




 高宮くんのようなみんなに好かれる人じゃない、どうでもいい誰かを。




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サンタクロースは願いを返さない 夏海つばさ @Natsumi_Tsubasa

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