古民家カフェなんて、初めて来た。しかも、男子と二人きりで。


 いや、高宮くんが「学校の階段で長話するのも気が引けるから場所変えよう」と言われたり、「話を聞いてもらえるだけありがたいから奢るよ」と言われたりして、どっちでもいいと返事していただけなんだけど……。


「おまたせしました。チョコレートマロンパフェになります」


 目の前に置かれたチョコレート色とベージュ色の大人チックなパフェを見て、私はごくりと唾を飲み込んだ。


「パフェ好きなんだ」


「好きかはわからないけど、食べたいとは思っている」


 少し引いている高宮くんの言葉に、私は素直な気持ちを打ち明ける。


 甘いものを食べると嫌な気持ちがなくなるから、とまでは言わなかった。私は古民家カフェのメニューを見たときから、このおしゃれなパフェを食べないと鬱になると思う、とも言わなかった。


「目がパフェに釘付けだよ?」


「そんなことはないと思う」


 苦笑いして指摘してくる高宮くんに、私は心外な気分になる。そんなに、パフェを見つめていないはず。たぶん。


 高宮くんのところには、カフェオレが置かれていた。パフェを食べないところを見ると、私の勝ちだと思った。競っているつもりはないけど、嬉しくなる。ふふん。


「食べながらでもいいから、聞いてほしい」


「ふぁはっふ」


 さっそくマロンクリームをスプーンですくって食べながら、私はわかったと答える。


「……本当に俺に興味がないんだな。まあ、いいか」


 高宮くんはよくわからないことを言って、気を取り直すように「何から話せばいいかな」と呟く。何でもいいから、話せばいいと思う。


「まず、俺は子供の頃にサンタクロースに『みんなに好かれたい』ってお願いしたことを言った方がわかりやすいよな?」


 私は頷く。


「だから、俺は今、みんなから好かれている。だけど、正直疲れているんだ」


「ふーん?」


「こういうクリスマスのイベントとかさ、しんどいんだ。誰が好きだの、付き合っちゃえだの、そういうの中学生のときにたくさん振り回されて、うんざりしてるんだ」


「ふぉお」


「だから、誰も好きにならない古瀬となら、気が楽かなと思って、付き合うフリしてもらって、みんなから距離を置けたら助かると思ったんだ」


 一回、しっかり咀嚼しよう。甘いマロンと苦いチョコレートが舌の上で混ざり合う。美味しい。


 そして、ゆっくり嚥下すると、一度「はぁ」とため息を漏らした。


「うん、くだらないね」


「そこをなんとか、古瀬さん。俺と付き合うフリを!」


「私は高宮くんに都合のいい人間じゃないんだけど」


「次は何を奢ればいいんだ?」


「そうじゃないんだけど……」


 すると、高宮くんはメニュー表を取り出して、苺パフェを指差して見せてきた。


「美味しそうだと思わないか?」


「それは思うけど、もうお腹いっぱい」


「だめかぁ」


 あまりにも必死で、私は「ふふ」と笑ってしまう。好きにはならないけど、面白いとは思う。


 私が笑ったせいか、高宮くんが目を丸くした。そんなに驚くことでもないと思うけど、複雑な気持ちになる。


「なに?」


「いや、古瀬さん笑うんだなって」


「笑ったら悪い?」


「いや、すごくいいと思う!」


 自信満々で言ってくるから、今度は私が目を丸くする番だった。かっこいいとは思わないけど、真っ直ぐだとは思った。


「あ、いや、気分を害したなら、ごめん。ただ、笑った顔がよかったから……」


「口説いても、私は誰も好きにならないけど」


「それは……サンタクロースに願ったから?」


「うん、そうだね」


「階段で話していたときに、つらくないのが嫌って言ってたけど、それはなんでだ?」


 踏み込んできて、私は少し身構えてしまう。それがわかったのか、高宮くんはヤバと顔に出して、困った笑顔を見せた。


「ごめん。聞かれたくなかった?」


「ちょっとびっくりしただけ。気になる?」


「気になる。子供の頃にそんなお願いをする状況がよくわからないから」


 真剣な表情だった。私じゃなければ、この表情で女の子はときめくんじゃないだろうか。


「そっか。と言っても、そんなに大した話じゃないよ。大好きだったおばあちゃんが亡くなって悲しかっただけだし」


「いや、大した話じゃないか、それ? 大好きな人が亡くなったら、ショックだと思うけど」


「そうかもしれないね。だから、私はもう悲しまなくていいように、誰も好きなりたくないなんて、サンタに願ったんだと思う」


「誰かを好きになりたいのか?」


 当然、聞かれるだろう質問が来た。私は食べて崩れたパフェを眺める。


「それが普通だから、普通になりたい」


「それなら、俺を利用したらいい」


 いきなりそんなことを言われて、私は顔を上げた。真摯な目がこちらを見ていた。


「利用って、どういう意味?」


「付き合うフリをして、普通を演じればいいんじゃないのか? そうすれば、俺は好かれる呪いからある程度逃れられるし、古瀬は普通を手に入れることができる」


「もう普通は手に入らないよ」


「ダメなのか?」


 そう言われて、私は少し上を見つめた。シーリングファンがクルクルと回っていた。


「ダメとまでは言いきれないかな」


「じゃあ、試しに付き合うフリをして、無理そうなら言ってくれたらいい」


 試しに。


 そうか。別に永遠に付き合うフリをしろという話ではないか。


「わかった」


 こうして、私は高宮くんと付き合うフリをする関係になった。


 溶け始めたパフェはドロドロと舌に絡みつき、甘ったるかった。




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