「これは物語ではない。思考が“起動”する標本だ。」

読み始めは静かで、ほとんど事務的です。
博物館の収蔵庫、分類作業、淡々とした語り。
けれど途中から、読者の足元がわずかにズレ始める。

砂時計を「時計」と呼ばない、という一瞬のためらい。
そこから、この作品は読むものではなく、踏み込むものに変わります。

時間を「測る」道具ではなく、
時間が起きてしまう地点として捉え直した瞬間、
読者自身の思考もまた、同じ手順で動き出す。

怖さは叫ばない。
説明もしない。
ただ、分類し、隔離し、ラベルを貼る。
その行為そのものが、じわじわと感染してくる。

読み終えたあと、
砂時計を見る目が、ほんの少し変わってしまう。
そしてその変化が、もう戻らないことにも気づく。

静かで、知的で、危険な一編。
「面白かった」より先に、
「起動してしまった」という感想が出る作品です。

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時の実体化