守られていた日常が、静かにほどけていく

幼い記憶のやわらかな色合いから始まり、少しずつ世界の輪郭が変わっていく過程が、とても丁寧に描かれていると感じました。
隣家の庭や花、錦鯉といった美しい情景が繰り返されることで、語り手が無意識に信じていた「安全な世界」が、静かに浮かび上がってきます。

戦争や喪失は正面から強く語られず、日常の延長として差し込まれるため、かえって現実感があります。

美しさと残酷さが同じ景色の中に存在していることを、そっと示してくれる一篇でした。