第9話 名帆が吠えて……

「親父、お袋、久しぶり! 元気だった?」


 紳士の由奈さんが『おやじ』『おふくろ』ですって……。若かりし頃の名残りね! 愛しい人の意外なところを発見すると嬉しい名帆。


「あのさ……オレ、結婚したい人が居るの。名帆ちゃんだよ」

「初めまして、松田名帆と申します」


 お父様とお母様が顔を見合わせていた……。


 お父様が言う。

「名帆? さん……うちのせがれは、その……見ての通り、足に障碍がある。それでも息子を好きなのですか?」

 お母様は隣でうつむいている。


 正直、名帆は(なんてことを言うお父さんだろう!)とムカッと来た。

 しかし、ここは冷静に。


「お父様、わたしは碧斗さんのすべてが好きです。不謹慎かもしれませんが、無い足ですらチャーミングだと感じます。碧斗さんの全部が愛おしいのです。お父様、わたしはこう考えます。ある意味誰もがみな障碍者です。なんらかのハンディ・不得手なモノ・出来ない事柄を持っています。『障碍者』という言葉を碧斗さんが使わなければ生活できない世の中が、おかしいんじゃないかとわたしは考えます」

 少したじろぐお父様。


「名帆ちゃん、ありがとね!」

 ニコニコ笑っている由奈さん。

 静かにお父様の隣に居たお母様が口を開いた。

「お父さん! このお嬢さん、立派な方だと私は思います」

「しかし、こんな賢いお嬢様に……うちの碧斗みたいな者が、迷惑をかけるわけには行かない」


 名帆は、ブチ切れる寸前である。この石頭! と!


「お言葉ですがお父様、迷惑な命なんてありませんよ」

 ついには正座を崩し、横座りになった名帆。


 由奈さんはニコニコしたまんまだ。(親父はいつもこうだから)とでも思っているのだろうか……。

 お父様の隣に居るお母様ったら、名帆を見てこっそり舌を出し『ごめんね』と両手を合わせウインクをした。


「おやじ……オレ、頑張るから安心して良いよ!」

 由奈さんがそう言うと「まぁ、碧斗がそこまで言うなら(モゴモゴ……)」お父様はそれ以上何にも言わなくなった。


 名帆と碧斗は、お父さんが名帆に圧倒された1か月後に挙式を挙げた。


 こじんまりとしたスタイルにしたが、深い交流のある親族や友人に心から祝福される、素敵な結婚式だった。なぜか由奈家のお父さんが、一番感激し泣いていた。



「名帆~、オフロは~いろ」

「ハ~イ 碧斗ぉ~♡」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ka-ra-da 沙華やや子 @shaka_yayako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説