卵運びはもうこりごり……!



 ア「よし、ここまで来れば、もうドラゴンの追撃は無いだろう」


 消費したスタミナを回復する為に、その場に留まって休もうとするアーチャー。

 だが、そんな彼の下にある襲撃者が飛来してきた。

 それは――蜂だった。蜂は彼の腕に着地すると、針を突き刺してきたのである。


 ア「いたっ」


 ちょっとした痛みがアーチャーを襲う。しかし、ダメージとしては微々たるもの。

 だが、刺されたその痛みで……抱えていた卵がするりと腕から滑り落ちた。

 地面に落ちる卵。ぐしゃりと潰れる殻。飛び散る中身。


 ア「し、しまった……!?」


 それを見て、アーチャーは愕然としてしまう。

 苦労して運んできた卵が見るも無残な姿に変わってしまい、彼はその場に崩れ落ちる。


 ア「こ、こんなことって……」


 がっくりと項垂れるアーチャー。その頭上では無数の蜂たちが飛んでいる。


 ア「貴様ら……よくも! よくも!」


 弓に矢を番え、怒りのままに放つアーチャー。

 放たれた矢によって何匹かの蜂が撃ち落されるが、ただの憂さ晴らしにしかならなかった。


 ア「ちっ! こうなっては作戦失敗だ。また新たな卵を運搬せねば!」


 我に返ったアーチャーはそう言うと、巣に戻ろうと駆け出した。

 そして巣にて奮闘しているシンガーの下に合流する。


 シ「何で戻ってきた、アーチャー! というか、卵はどうした!」


 ア「すまない! 小型の鳥竜にやられて落としてしまった! もう一度やり直すしかない!」


 シ「マジか! クソっ……!」


 悪態をつくシンガー。しかし、起きてしまったことはどうしようもない。


 シ「ただ、俺ももう体力が……回復薬も少なくなってきているし……」


 ア「……こうなったら、アレしかない」


 シ「アレ、とは……?」


 ア「ゴリ押しだ! 囮は無しで、私たち2人で運ぶぞ!」


 シ「マジかよ!?」


 ア「それしかもう方法は無い! 先を行かせてもらうぞ!」


 シ「ち、ちくしょう! やればいいんだろ、やれば!」


 そして卵が置いてある場所を目指して、精一杯走るバカ2人。


「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」


 冒険者ハンターとドラゴンの叫びが比較的平和な草原地帯に響き渡る。

 そして、その結果はというと――




 ******




 ラ「あー、くそっ……」


 ア「ダメ、だったか……」


 シ「もう無理だって……」


 ギルド内の酒場。そこには見事に3乙を達成した3人の姿があった。

 結局のところ、卵の持ち運びに失敗し、こうしてやさぐれているのであった。


 その後、プライドを捨てて超ベテラン冒険者ハンターにキャリーを頼んだ結果、パワープレイで攻略が完了したそうな。


「「「卵運びはもうこりごりだよ……」」」」




 おしまい。



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【お題フェス11卵】卵運びはもうイヤだ!?~とある冒険者《ハンター》たちの運搬苦労話~ 八木崎 @phoenix_yagisaki753

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