ランサーが死んだ!



 ア「見つけたな」


 ラ「ああ。親もいないことだし、さっさと盗ってずらかろうぜ」


 シ「いや、待ってくれ。今は留守にしているが、あの卵を持ち帰ろうとすれば、間違いなくドラゴンが巣に戻ってくるだろう」


 ラ「は? 周りにドラゴンの影なんて1つも無いんだぜ? それなのに、何で戻ってくるって分かるんだ?」


 シ「そういう仕様だからだ!」


 困惑するランサーに、シンガーがきっぱりと告げる。


 シ「とにかく、あの卵を持った瞬間からが勝負だ。みんな、気を抜くんじゃないぞ」


 ア「分かっている。お前こそ、しくじるんじゃないぞ」


 シ「おう!」


 そしてシンガーは背中に背負っていた狩猟笛を手にすると、大きく息を吸い込む。


 シ「いくぜ! 俺の歌を聞けぇ!!」


 奏でるのは能力強化バフを促す旋律。

 それを受けたランサーとアーチャーが一時的な強化を得る。

 3人は互いに見合って頷き、巣に向かって走り出した。


 ラ「よしっ! 卵ゲットだぜ!」


 巣の中に一番乗りしたランサーが予定通りに巨大な竜の卵を持ち上げる。

 すると――


 ア「……来たようだな」


 上空を見上げるアーチャー。

 その視線の先には巨大な飛竜の姿があった。

 羽ばたきながら巣に向かって降下してくる姿に、ランサーの顔が青ざめる。


 ラ「よし、逃げるぞぉ!」


 すぐさま反転し、卵を抱えて一目散に走り出すランサー。


 シ「気を付けろよ、ランサー! あいつの降下する風圧をくらったら、卵を落としてしまうからな!」


 ラ「へっ! 心配すんなって! 俺がそんなヘマをする訳――」


 と、振り向きながらそう語るランサーに向かって、ドラゴンが火球を放つ。

 そしてまるで吸い込まれるかのように、ランサーの背中へと着弾してしまったのだ。


 ラ「ぐわあああああああああっ!?」


 断末魔の叫びを上げるランサー。彼の手を離れ、落下していく卵。

 それが地面に当たって――ぐちゃっと割れてしまった。


 ア・シ「「ランサーっ!?」」


 思わず叫ぶアーチャーとシンガー。

 そして急いでランサーの元へと向かうが……既に手遅れであった。


 ラ「お、俺はもうダメだ……何とか2人で、卵を持ち帰ってくれ……ガクッ」


 ア「ランサーが死んだ!」


 シ「この人でなし!」


 倒れ伏すランサー。そんな彼の死(笑)に悲痛の叫びをあげる2人。

 木製の簡素なリアカーで知らない猫たちに運ばれていく彼を見つめつつ、彼らは胸の中で誓う。

 ランサーの死(笑)は無駄にはしないと。


 シ「いくぞ、アーチャー! 俺が引き付けるから、お前は運搬係を頼む!」


 ア「ああ、心得た!」


 狩猟笛を構え、巣に帰還したドラゴン目掛けて突撃を始めるシンガー。

 その隙を狙って、アーチャーは卵に向かってダッシュをする。


 シ「おらっ! こっちだトカゲ野郎!」


 ドラゴンの頭目掛けて、狩猟笛をフルスイング。

 それは見事に当たり、ドラゴンの気を逸らすことに成功する。


 ア「よくやった、シンガー! あとは任せておけ!」


 そして素早く卵を回収したアーチャー。

 そのまま卵を運ぶべく、全力疾走でその場から走り去る。


 しかし、それを見逃すほど甘くはない。ドラゴンはアーチャーを追いかけようとする。


 シ「いかせるかぁ!」


 だが、その前にシンガーが立ちはだかる。彼は再び狩猟笛を構え、戦闘態勢を整えた。

 ドラゴンの気を引くことに成功し、アーチャーの下に向かわせまいと、必死に奮闘するシンガー。

 そんな頼もしい背中に見送られつつ、アーチャーは戦線から離脱する。



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