最終章:Dream of Life ―その命が光に変わる時―
一ノ瀬湊は、ペンを置いた。
編集部からの宣告を受け入れ、表舞台から姿を消した彼は、静かな療養生活に入った。世間にとって、彼は「彗星のように現れ、一冊の名作を残して消えた作家」となった。
しかし、湊の横には、常に九条がいた。
九条は医師としての職務の傍ら、ある「膨大な記録」を整理していた。それは、湊が病室で吐き出した苦悩、深夜の電話で語った物語への情熱、そして「アニメ化」を阻んだ大人たちの無慈悲な言葉……。
「一ノ瀬、お前の物語は、紙の上だけじゃ終わらせない」
九条は、湊の『Dream of Life』を、新進気鋭の若手脚本家へと託した。それは、湊が書き残した「未完の続き」ではなく、「一ノ瀬湊という小説家が、命を削って物語を紡いだ日々」そのものを描く物語への書き換えだった。
数年後。
映画館の最前列に、車椅子に座った湊の姿があった。
スクリーンに映し出されたのは、美しいアニメーションではない。泥臭く、汗と涙にまみれ、コンビニの廃棄弁当をかじりながら、それでも目を輝かせてキーボードを叩く青年の「実写映画」だった。
タイトルは、『小説家の死に様』
それは、かつて湊を「リスク」として切り捨てた編集部への、九条なりの痛烈な復讐だった。
「物語が完結しないなら、その人生を完結させてやる。これなら文句はないだろう?」
九条が裏で動いたその映画は、SNSで爆発的な話題となり、かつて届かなかった金賞以上の熱狂を世界に巻き起こした。
劇中、湊のモデルとなった俳優が、病室で絞り出すように言う。
「……答えのない毎日に、何かを信じていたかったんだ」
その瞬間、劇場の照明が落ち、エンドロールが流れ始める。
主題歌として流れてきたのは、かつて湊を突き動かしたあの旋律。
エンドロールの最後。
【原案:一ノ瀬 湊 / 企画協力:九条 蓮】
二人の名前が並んでスクリーンに映し出された時、湊の頬を熱いものが伝った。
メディアミックス。それは、アニメという形ではなかったかもしれない。
けれど、湊の人生という物語は、確かに光となって、今この場所にいる何百人、何千人の胸に深く刻まれたのだ。
隣で静かに涙を拭う九条の手を、湊は弱々しく、けれど確かに握り返した。
「……ありがとう、九条。僕の人生は、今日、ようやく完成したよ」
映画館を出た夜空には、あの日図書館で見上げた時よりも、ずっと明るい星が瞬いていた。
end
ノベルリライト 南賀 赤井 @black0655
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