『負けっぱなしの下剋上戦記』完結にあたって(作者あとがき)
読者の皆様、最後まで本作をお読みいただき、本当にありがとうございました。
主人公・笹野玲司が、圧倒的な「天才」たちに囲まれ、負けても負けても食らいつき続けた物語は、文化祭の図書室での「最高の敗北」をもって、ついに完結を迎えました。
本作は、3人のヒロインを通じて、玲司という一人の凡人がどう成長し、何を変えていくかを描いた物語でもありました。
幼馴染:白石 華恋
彼女は玲司にとっての「日常」であり、一番近くで彼を支え続けた「安心」の象徴でした。天才たちの戦いに巻き込まれ、一度は玲司との距離に悩みましたが、最後まで彼を信じ、背中を押し続けた彼女がいなければ、玲司は早々に折れていたはずです。
後輩:赤城 煇
「家柄」と「才能」という重圧の中で、孤独だった彼女。沙耶香に敗北を教えられ、初めて「天才」と呼べる存在を見つけたことで、彼女は救われました。最後には沙耶香を救うための「力」を貸すまでに成長した彼女の姿は、本作のもう一つの下剋上だったと感じています。
ラスボス:天堂 沙耶香
本作最大の壁であり、愛すべきヒロイン。脳血管疾患という「避けられない死」をロジックで受け入れようとした彼女に対し、玲司が「そんな計算式は間違っている」と強引に彼女の運命に介入していく姿こそが、タイトルの『下剋上』の真意でした。最後のオセロで彼女に「負けた」ことは、彼女が生き続けるための最大の勝利報酬だったのだと思います。
『最後に』
タイトルにある通り、玲司は最後まで彼女たちに勝つことはできませんでした。しかし、「勝ち負け」を超えた場所で、一人の少女の運命をデバッグし、絶望を希望に書き換えたこと。それこそが、凡人による最高の、そして唯一の下剋上だったのではないでしょうか。
読者の皆様が玲司を応援し、ヒロインたちの幸せを願ってくれたことが、執筆の大きな力になりました。
彼らの勝負は、これからもずっと続いていきます。図書室の扉を開ければ、きっと今も、悔しがる玲司と、それを少し嬉しそうに見下ろす沙耶香の姿があるはずです。
これまで短い間でしたが、皆様の御協力により完結させる事が出来ました。応援ありがとうございました!
――『負けっぱなしの下剋上戦記』作者より