Lesson.3 『フォトンエネルギー』

 はい、皆さんこんにちは!講師役を務めさせて頂くアイリスです。


 今回は私達の世界のエネルギー源についてお話しようと思います。本編でも何度か単語としては出ていたフォトン。漢字表記にすると「光子」って言うそうですけど、格好いい表現ですよね、光子。力を込めるとバリアーとか展開できそうですし。ということで今回はそんなフォトンについてのお話です。


 まず前提として私達の世界では皆さんの世界と違って電力はエネルギー源としては殆ど使われていません。ギルドの古い記録には主に「大空白」以前に使われていたという記述も……あっ、すみません。今回はエネルギーですので、大空白の話はまた改めて。ともあれ電気エネルギーではない、皆さんからみるとフィクションに分類されるエネルギーが一般的に使われています。

 このフォトンは、恒星が発する光を変換器を通して受容、圧縮することで生成されるエネルギーで、通常は衛星軌上にある軌道ステーションでその惑星が使用するエネルギーの大部分を生産しています。フォトンエネルギー生産施設のイメージ自体は「太陽光発電」に似ているかもしれませんね。


 衛星軌道上で生成されるのは主に効率の問題です。地表でもフォトン生成は可能ですが、人類が生息可能な大気圏を通過すると生成効率が落ちて施設の規模を大きくする必要があるとかで、経済性と効率性の両面から大抵の星では軌道ステーションでの生成が行われ、フォトンセルやフォトンバッテリーという媒体に保存されて運搬されることになります。

 それらの媒体は軌道衛星から地表へは主に軌道エレベータを使って搬出されるんですが、私達の故郷のような辺境の場合は軌道エレベータが設置されていないので大容量ロケットであるHLVを使って地表に下ろす形を採用しています。あ、もちろん地上でも病院や恒星間通信基地みたいな重要施設は――もちろんギルド支部も――自前でエネルギー供給が出来るように、効率は無視して緊急用のフォトンエネルギー生産施設を備えていますけどね。


 ではそのフォトンエネルギーはどのような形で運搬されるかというと、先ほども軽く紹介したフォトンバッテリーやフォトンセルと呼ばれる再充填可能なエネルギー格納容器――というか、バッテリーとか「電池」とかっていう言葉の方がわかりやすいですね――qを使っています。

 サイズ感とエネルギー容量はどのぐらいかというと、標準的な一般家庭が生活で使用するエネルギーであればフォトンセル1個で2~3ヶ月分の消費をまかなえます。大きさは……皆さんの世界だと「単一電池」と言うものに近いですね。電池のような部品で家庭のエネルギーを……というのは私達にとっては当たり前の事なんですが、皆さんには少し奇異に映るかもしれません。そうですね……ご家庭の環境によっては「プロパンガス」みたいなものって言った方がイメージしやすい方もおられるかもしれませんね。


 フォトンバッテリーの方にはいくつかのサイズがあるんですが、大型のフォトンバッテリーだと大型施設や工場なんかを1個で1ヶ月程度まかなえます。大きさは……通常サイズで「車のバッテリー」ぐらいですね。あ、私達の世界の車……ビークルって呼んでますけど、それもフォトンで動きます。動力の話はまた改めてしますが、ビークルのフォトンセルと家庭用のフォトンセルは同じものなので流用可能です。走行可能距離は……乗り方やビークルのサイズにもよりますけどフォトンセル一つで、だいたい半年ぐらいは普通に乗れる計算になると思います。


 エネルギーの供給がカートリッジ式の補給になっている理由は惑星開拓と強い関係性があるそうです。開拓にエネルギー供給は必須ですが、最初期の入植時にエネルギー供給網を完備するのは難しいですよね。なので、入植初期に設置される衛星軌道上のステーションで充填したフォトンをフォトンセルセルのような携帯可能なエネルギー源とすることで、居住地の拡張や移動が簡単になるように設計されているんです。なにせ「電池」だと「送電線」は必要ありませんし、どこにでも持ち運べますからね。


 ではそもそも何故私達がフォトンを使っているか……という事なんですが、これはC3との親和性が高いという点につきます。水晶物質であるC3は光エネルギーであるフォトンに反応し、これを増幅・変調する力があります。「電気」をはじめとする他のエネルギーではC3の反応を引き出せない……これが私達の文明がフォトンを用いる最大の理由です。

 あとは安くてクリーンで持ち運びも簡単、というわかりやすい理由もあるんですけどね。ただ人類がC3を得てフォトンエネルギーを使うようになったのか、フォトンエネルギーを活用するためにC3を使うようになったのかは判っていません。依存関係が強いので、私は同時かな?と思ってますけど。


 あとその他のエネルギーだと、例えば惑星固有の化石燃料を使った内燃機関が使われている星もあるみたいです。ただ内燃機関に使う化石燃料ってその星の生物由来なので、成分が安定しないんですよね……。なので、内燃機関を使う車や機械は一般的じゃありません。

 なにせ「ヴェザリンオイル」と「カルデクスガス」を間違えて補給すると大変……あっ、ごめんなさい、わかりにくいですよね。ちょっと待ってくださいね……検索検索っと……。


 はい「ガソリン」と「軽油」と言う表現の方がわかりやすいですか?つまり同じ内燃機関という動力を使っていても、異なる種類の燃料だと動作不良を起こしたり、故障したり……そう、間違ってカルデクスガス入れちゃうと爆発したりするので他の惑星に持って行ってもほぼ使えないんですよ。

 でもフォトンは光をエネルギー源にしているので、これはどこの恒星系でも基本的に安定して使うことができます。ただ恒星の光は赤っぽいものや青っぽいものなど、星ごとにスペクトルが違いますよね。そのためフォトンエネルギーを効率的に生成するには、その波長に合わせて変換器を調整する必要があります。でも、光はどこでも光ですから、どこの星でも基本的には安定して使えるんです。

 

 そうそう、あと忘れちゃいけないのがブラスターに使われるエネルギーカートリッジ。あれもフォトンセルの一種なんですが、少し特殊なんですよ。

 フォトンセルやフォトンバッテリーは長期間安定してエネルギーを効率的に出力するような構造になっているんですけど、この仕様は兵器であるブラスターとは相性が良くありません。なので蓄積できるエネルギー量は少なめですが、一気に――あるいはトワがやったみたいに、爆破的に――エネルギーを解放できる仕組みが必要になります。

 それをやや力業で実現しているのがブラスター用のカートリッジです。例えるなら安定・持続型の「アルカリ電池」と瞬間的な出力に優れた「マンガン電池」の特性をもっと極端にしたようなものだと思ってもらえると良いかもしれませんね。


 ですから、トワが作ったフォトン・イグナイトはブラスターのカートリッジ専用で、フォトンセルやフォトンバッテリーには使えません。トワもフォトンセルが使えないか一度試したみたいだけど「光がふわぁーって散っていった」って言ってました。うちで使うための備蓄用を爆破しちゃったので「私」と父さんにめちゃくちゃ叱られてましたけどね。


 ちなみにブラスター用カートリッジに充填されているエネルギー量総量はカートリッジサイズにもよりますがフォトンセルの1/50から1/100ぐらいになります。少なく思えるかもしれませんが、一回あたりの戦闘だとこれぐらいで十分なんです。

 そういう理由でジョッシュ達は予備を持ってなかったんですが……まぁ、あれは私とトワが慎重派だったということです。ではどうしてそんなに充填量が少ないかというと……もうおわかりですよね。危ないからです。

 だってフォトンセル並に充填されているブラスターを相手の攻撃で破壊されたら……あの洞窟で起きた爆発の50倍から100倍の爆発が起きるんですよ?集団戦闘時にそんな事態が発生したら一発で部隊が壊滅しちゃいます。なので、誘爆の危険性も踏まえて必要最小限の充填になっているんです。

 ちなみにカートリッジの大きさ的には電池よりも少し大きくて、皆さんのイメージする「拳銃の弾倉」とほぼ同じぐらいのサイズです。ブラスターのタイプによって形状やサイズが複数あるんですけど、このあたりも弾倉と同じだと思っていただければ。


 さて、また長くなりましたので今回のお話はここまでです。また次回お会いしましょう!

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2025年12月26日 20:00
2026年1月10日 20:00
2026年1月19日 20:00

教えてアイリス先生 羽生ルイ @hanyuu_rui

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