最終話

 私、一ノ瀬 しおりには好きな人がいる。その好きな人はバイト先のコンビニの先輩、神崎 陸斗先輩。私の一つ年上の先輩だ。


 私は先程、先輩とクリスマスイブに一緒に過ごしたいと告白したのだが、どうやら先輩は私に彼氏がいると勘違いしたようだ。

 先輩は私に彼氏がいるからシフトを交代してほしいとお願いしたと勘違いしていたのがその証拠だ。


「はぁ……。先輩と一緒に過ごしたいって言葉、勇気……出して言ったんだけどなぁ……」


 私は悲しいことや考え事があったらいつも向かう公園で、ブランコに座りながら独りごちる。


 私は静かな公園の街灯に照らされながら、夜空を見上げる。涙が溢れないように。それでも私の瞳には少しずつ涙が溜まっていき、溢れた涙が頬を伝っていく。


 私の先程の告白を考えれば考える程、涙が溢れてくる。

 まさか私の好意が伝わらなかったなんて……と。


 そうやって静かに涙を流していると、先輩が少し息を荒げながら私に近づいてきた。


「はぁ……。はぁ……。やっぱりここにいたんだね、一ノ瀬さん」

「ッ!? どうしてここに先輩が……ッ!?」


 私は先輩に不細工な顔を見せないためにも、すぐさま裾で涙を拭う。

 しかし、おそらく瞼は赤く腫れていることだろう。


「前に一ノ瀬さんが悲しいことや考え事をする時はこの公園に行くって言ってたからね」

「……そんな事覚えていてくださっていたんですね……」

「もちろん」

「……はっくちゅ!」


 いけない。コンビニから飛び出して来ちゃったから上着着るの忘れちゃった。

 それに……店長さんには迷惑なことしちゃったな……。今度謝ろう……。


 そんなことを考えていると、先輩が自分の上着を脱いで私に被せてくれる。


「せ、先輩!? 良いですよ! そんなことしたら先輩が寒いじゃないですか!」


 私は先輩が被せてくれた上着を脱いで、先輩に手渡そうとするが、それを先輩が手で制した。


「良いよ、別に。女の子の前でカッコつけれるのは男の特権ってね」


 そう言って先輩は、私にニコリと笑いかけた。


 ──ああ……。やっぱり私、先輩のこと好きだなぁ……。


 私は先輩の上着をきゅっと握り、そんなことを思う。


 先輩のこの優しさ、温もり、気遣い、全てにおいて私は好きだ。先輩のこう言うところに私は惹かれたんだ。


「その……さっきはごめん」


 先輩は申し訳なさそうな表情をしながら、私に向かって頭を下げる。


「せ、先輩! 頭を上げてください! 先輩は悪くないです! 私がちゃんと伝えられなかったのが悪いんです!」


 私は慌てて先輩に頭を上げるようお願いをした。


「でも……」

「もう良いですから! お願いですから頭を上げてください!」

「そこまで言うなら……分かった」


 先輩は私の言葉で頭を上げる。それを見た私は安堵する。

 

「それで……その……間違ってたら申し訳ないんだけど……、アレってもしかして、俺と一緒に過ごしたいって意味で合ってたりする……?」


 先輩は遠慮がちな表情をしながら聞いてくる。

 私は少し顔を赤く染めながら、コクンと首を縦に振る。


「は、はい……そう……です!」


 先輩は私から少し視線を外して顔を朱く染めたのち、ポリポリと頬を掻いた。


「その……さっきは一ノ瀬さんからお誘いしてくれたわけだし、今回は俺から一ノ瀬さんにお願いしようかな」


 そう言って先輩は私に向き直り、私の瞳をしっかりと見つめる。

 

 私は先輩に見つめられたせいで、さっきよりも顔に熱が溜まっていく。

 おそらく今の私の顔は、茹蛸ゆでだこのように真っ朱に染まっていることだろう。


「一ノ瀬さん、俺で良ければ(クリスマスイブの日に)付き合ってください」

「ふぇ!? ふふっ! はい! もちろんです! コチラこそよろしくお願いします!」


 ──こうして俺と一ノ瀬さんはクリスマスイブに一緒に過ごすことになった。


 これは余談なのだが、何故かこの日、俺が一ノ瀬さんに告白したことになっていた。その影響で、いつの間にか俺は一ノ瀬さんの彼氏となっていた。

 この日の告白が勘違いだったと分かり一ノ瀬さんがまた泣くことになり、その日に俺が告白して一ノ瀬さんと正式な彼氏彼女関係になるのだが、それはまた別のお話……。






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 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


 少し無理矢理纏めた感が否めませんが、まぁ、数日で組み立てたにしては上出来でしょうという事で、少し目を瞑っていただけたら嬉しいです。

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バイト先の後輩に「12月24日の夜、空いてますか?」と聞かれテンション爆上がり→シフト変わってほしいだけだった件 胡桃 美瑠玖 @Kurumi_Miruku

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