香港・ウクライナに見る、台湾・日本の防衛戦略

カイ 壬

香港・ウクライナに見る、台湾・日本の防衛戦略

 なぜロシアはウクライナに武力侵攻つまり戦争を仕掛けたのでしょうか。

 つけ込むスキがあったから。


 確かにそうなのですが、実はスキがあっても攻め込まれない国もあるのです。

 日本です。


 日本は長年にわたり国防費がGDP比1%前後を維持してきました。対する中国やロシアは7%以上です。攻め込むのにじゅうぶんな戦闘力を有しています。

 それなのに、日本がロシアや中国から攻め込まれなかったのには理由があります。

 そこを認識することで、日本の防衛戦略が明らかとなります。





なぜウクライナは攻め込まれたのか


 現在進行形でロシアに戦争を仕掛けられて領土を蝕まれているウクライナは、なぜロシアに攻め込まれたのでしょうか。


 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「ドンバス地域のロシア系住民をウクライナのネオナチ政権から救うため」と称して「ドンバス地域の割譲」を狙って戦争を起こしました。しかし実際にはドンバス地域のルハンシク州、ドネツク州のみならずその西部のザポリージャ州、ヘルソン州の半分を奪っています。

 つまりプーチン大統領が主張した「ドンバス地域のロシア系住民の保護」はただの御旗でしかないのです。つまり「言い訳」でしかありません。


 ウクライナはなぜロシアに攻め込まれたのか。


 その答えは簡単です。


 ロシアでは代替できない「技術」を持っていなかったからです。


 ウクライナは農業と鉱業が主な産業です。

 そして農業も鉱業も、土地があれば誰でもできる産業なのです。

 農業はただ種を蒔いて成長させて収穫する。それだけ。

 鉱業は山を掘って鉱石を採掘し鉄や鉛、金などを精錬する。それだけ。

 ロシアにも存在する普遍的な「技術」でできるから、ロシアは土地を奪えばよいだけです。


 それに対して日本はどうでしょうか。


 日本は水が豊富ですが農業に適した土地ではなく、たいていの鉱業も閉山しており採掘できる鉱石も少ない。つまりロシアから見れば魅力がないのです。

 自動車産業はロシアや中国も国産しているので、たとえ世界一のエンジン自動車会社のトヨタ自動車を傘下に収めてもあまり魅力がないのです。


 しかし、日本にはロシアにはない「技術」があります。

 半導体製造装置や半導体材料といった、世界のどの国にも代替できない「技術」を有しているのです。


 もし日本に攻め込んでウクライナのように都市を破壊してしまったら、これらの「技術」が失われて、ロシアも中国も大きな痛手を被ってしまいます。

 つまり半導体関連産業は、日本の国防にとっても生命線なのです。


 そのことに日本の政治家は気づいていません。

 国防費を上げれば攻め込まれなくなるとうそぶく、アメリカのトランプ大統領の主張を盲信しているのです。


 日本は国防のために半導体産業を前面に押し出し、半導体製造装置や半導体検査装置、電源装置、回線ケーブルなど、諸外国では代替できない「技術」を有するべきなのです。

 もし日本を攻撃したら、これらの「技術」が永遠に失われるかもしれない。

 そう思わせることが、国防の大前提です。





中国による台湾侵攻は夢物語


 同じことが台湾にもいえます。


 台湾はアメリカのAppleやNVIDIAから半導体を受注するのみならず、世界中のプロセス半導体の90%を製造するといわれるほどの半導体製造大国です。

 もし中国が台湾に軍事侵攻をして都市を破壊した場合、これらの「技術」が失われます。


 中国は香港の富を得るため、香港の民主化を封殺して強引に中国への帰属を早めました。それによって、外資が海外へ逃げてしまったのです。

 香港は「香港証券取引所」による市場原理の「技術」で富を蓄積していたのです。

 しかし一党独裁の中国は、香港の民主化を封殺したため「証券取引所」という「技術」の資産価値を大きく毀損して、中国が欲していたほどの富を手に入れられませんでした。


 この事例が示すように「技術」を手に入れないと価値がない、または大きく毀損する国への軍事侵攻は理屈上不可能です。


 台湾が世界のプロセス半導体製造の90%を握っている以上、中国は台湾に武力侵攻できません。

 やったら世界中で半導体不足が発生して、中国が世界から総スカンを食らいます。

 場合によっては中国とその一味以外のすべての国が中国と対決する陣営に与することも考えられます。


 現状では、中国は台湾の親中派を増やして議会で「中国の一部に組み入れられる」決議を可決させるように策動する以外にありません。

 この方法でないと、半導体製造「技術」を手に入れることができないからです。


 ただ、中国もそこをにらんで、「Huawei」に注力して国産半導体の性能を急ピッチで向上させています。

 これにより、台湾TSMCが製造するレベルの半導体が中国で作れるようになったら、中国は台湾へ武力侵攻することが考えられます。

 仮にTSMCの半導体製造「技術」が失われても、Huaweiで代替できれば問題ないからです。


 攻め込んだ国には代替できない「技術」こそが国防に資する存在なのだと理解する必要があります。





暴君は止められない


 台湾への武力侵攻の準備が進んでいる中、日本は安泰でいらるでしょうか。

 台湾にさえも代替できない半導体製造装置、半導体検査装置、半導体材料、データセンターの光配線といった世界に冠たる「技術」があり、これらが他国で代替できるようになるまでは、日本が攻め込まれるおそれはありません。


 と言いたいところですが、絶対に攻め込まれないともかぎらないのです。


 世の中は理屈だけで動いていないからです。


 ときに現れる「暴君」は、自国の損得よりも権力者の損得で動きます。

 「暴君」の感情の赴くまま、戦争を仕掛けてくることは歴史を見ても枚挙にいとまがありません。


 もしウラジーミル・プーチン大統領や習近平国家主席が「暴君」だった場合、たとえ「技術」があっても攻め込んできます。「技術」が失われることがわかっておらず、自らの体面と欲望のままに攻め込んで支配しようと考えないともかぎらないのです。


 たとえば習近平国家主席が「暴君」なら、半導体関連「技術」よりも、世界6位の海洋大国としての領海の大きさを魅力に感じるかもしれません。漁業はどこの国でも代替可能な「技術」ですから、半導体ではなく魚介類を得るために攻め込んでこないともかぎらない。

 実際、中国が南シナ海の環礁を埋め立てて領土を主張したのは、南シナ海の漁業権を手中に収めるためです。

 その副次的効果で、東アジアのシーレーンを手に入れて、経済の急所を握ろうともするでしょう。とくに日本の石油は南シナ海を通過しており、臨検や拿捕といった手段で日本のシーレーンを圧迫することもありえるからです。


 暴君を抑制する方法はありません。

 抑制できないから「暴君」なのです。


 ですから、目に見えない国防力としての代替できない「技術」と、目に見える「軍事力」のバランスが重要になります。

 「軍事力」が突出すれば諸国の脅威となります。第二の中国になりかねません。

 日本が中国に対抗しようとする諸国の後ろ盾になれば、中国の拡張主義を抑制できるでしょう。

 そのためにも中国には代替できない「技術」を開発し続けて、世界をリードしなければなりません。


 基礎研究に国の予算がつかないというのは、国防のうえでの代替できない「技術」を軽視しているとしか思えません。


 日本はもっと基礎研究に力を入れるべきです。

 それによって他国が代替できない「技術」で世界のトップランナーとなることが絶対に必要なことなのです。





最後に


 今回はウクライナ戦争、台湾有事を題材に、日本の国防について考えてみました。

 なぜウクライナはロシアに攻め込まれたのか。

 なぜ台湾は中国から攻め込まれないのか。

 その理由は代替できない「技術」を持っているか否かです。

 日本も、真に国防を考えるなら、代替できない「技術」を保有することです。

 その「技術」が国を守ってくれます。

 ただし「暴君」には通じないことは覚悟するべきです。

 だからこそ、「技術」と両輪としての「国防力」を高める必要もあります。

 無闇矢鱈に「国防力」を高めるだけでは、戦争は防げません。

 それはウクライナを見ればわかります。

 われわれ日本人は、ウクライナ戦争から多くを学ばなければなりません。




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