本作は、創作に関わる方ならきっと胸のどこかが温かくなる、とても優しいエッセイです。
語り手である作者さんと、そのお母さまとの関係がとても魅力的で、読みながら思わず笑ってしまう場面もあれば、そっと心を掴まれるような場面もあります。
博識で、ユーモアがあって、ときに哲学者のような鋭さを持つお母さま。
そんな“最強の読者”でありながら、ご本人はずっと小説が書けなかった――その理由が「過去に受けた言葉の幽霊」という描写には、静かに胸が締め付けられました。
創作者を否定する言葉の重さ、SNSに漂う空気、そして「書けない」という無力感。
それらが決して重苦しくならず、優しい視点で語られているのが本作の魅力だと思います。
心がふんわりと温まり、そっと背中を押してもらえるような作品でした。
もう、タイトル段階から強く興味を引っ張られます。
「母は小説を書けない」ということ。自分の母親が小説を書けないことは、何か問題があるのだろうか。そんな疑問をもって先へ先へと読み進めることに。
そうして見えてくる、作者の母の人物像。なるほど、これはなんとも個性が強い。
小説にも理解があり、作者の書いた作品を読み「しっくりこない」とコメントしたかと思えば、「中盤の山場をプロローグに持ってきたら」と提案し、その通りにしたらコンクールでも評価される(特にその点などが)という眼力の鋭さも持っている。
とにかく異彩を放つ母らしいけれど、それでも「小説を書く」ということに関してだけは事情があって出来ないようで。
本作は、そんな「母」についての感慨を語りつつ、「小説を書く自分を家族(ないし周りの誰か)が支えてくれることの大切さ」が浮き彫りにされていくのが印象的でした。
小説を書くのには、やはりメンタルとしての安定も必要。そんな時に、誰かが理解してくれるだけで大きすぎる力にもなる。
ある種の環境って大事だし、創作界隈ではその点で色々な悩みや嘆きが溢れていることなども見えてきます。
小説を書くこと。書くために必要なこと。本エッセイを読んだ後、「自分が今まで誰に助けられてきたか」とふと顧みたくなりました。