そのシャツのボタンを縫う指は

バングラデシュ、首都ダッカ。
「世界の縫製工場」と呼ばれるこの街に赴任した外交官・相馬タケル（30）は、ある日、日本向けのアパレル工場で働く13歳の少女・リマと出会う。
彼女は学校へ行かず、年齢を偽ってミシンを踏んでいた。
タケルは外交官としての「正しさ」に従い、コンプライアンス違反として彼女を工場から追放するよう企業に働きかける。
「これで彼女は搾取から解放される」
そう信じていたタケルだが、数日後、スラムのゴミ山で彼が目にしたのは、工場よりも遥かに過酷な環境で、泥に塗れて働くリマの姿だった。
「あんたの正義が、私たちを突き落としたのよ！」
正論は人を救えるのか。
1980円のシャツの裏側で、生活という名の現実に打ちのめされた外交官が、企業と現場を巻き込んで導き出した「第三の道」とは――。…続きを読む