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「もし子供の頃、猫とか犬とか、飼ってなかったら、私たち、今の仕事してなかったかもしれないよね」妹がぽつりと口を開く。彼女も、フォークを置きながら穏やかに頷く。


「そうね」


夕暮れが窓の外に静かに広がる頃、停電も電子鍵もすっかり復旧し、家の中はいつもの温かな光に包まれていた。彼女は、妹と愛犬とともにテーブルにつく。ソファで丸まっていた犬は、ゆっくりと伸びをして、自分の場所に座り直す。小さな鼻をくんくんと動かし、時折尻尾を揺らすその仕草に、妹も思わず笑みを浮かべた。


愛犬がゆっくりと体を伸ばすと、後ろ足を器用に折り曲げ、前足を揃えて座った。その姿は、まるで静かに自分の思いを伝えているかのようだ。主人公はその姿を観察しながら、心の中で考える――犬も猫も、本来は人間と同じ生活をするために生まれたわけではない。それでもこうして共に暮らせるのは、お互いのキャパシティが許す範囲でのことだと。意思疎通や心の通じ合いは、犬や猫の本能と、人間の気遣いが絶妙に重なった結果にすぎないのだ、と。


妹はテーブルの端で、愛犬の小さな手足の動きや、耳の向き、目の動きに細かく気を配りながら、微笑んでいた。犬の視線が妹に向くと、軽く尾を振り、安心させるような仕草を見せる。


夕食を終え、片付けをしながらも、主人公はそっと思う――

「この日常こそが、救済された原作物語フランダースの犬、の本当の終わりなのかもしれない」


愛犬はその横で、満足そうに目を細め、静かに寝息を立てた。




(了)

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犬と人と猫 紙の妖精さん @paperfairy

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