サード・コンタクト

 さらに二十四時間後。船内。


「弱音を吐いてすまん。もはや私は……確信を持てないでいる」


 艦長が我々クルーに三度召集をかけた頃には、艦長と副艦長と俺以外は『モア』になっていた。


「でしょうね」


 呆れ果てた俺が言うと、元衛生士と、元博士と、元技師がビク!! と背筋を伸ばし、何も聞いてないのに「モアジャナイ、モアジャナイ」と両手を左右に振っている。


「艦長に同感です。流石に……不穏がすぎます」


「いやもう絶望的でしょ!! 半分モアになっちゃってるでしょ!!」


 我慢できず俺は叫んだ。


「……全くどうして君はいつもそうなんだ!」


「やめたまえ副艦長君」


「いいえ! もう我慢できません! いいか! 君は、我々の中に『モア』がいると言う! じゃあ聞くが! その根拠は一体なんだ!!」


 副艦長が威むと、三匹のモアたちはうんうんと頷いている。


「見ればわかるでしょ!! 見てわかるレベルでしょ!!」


「なぜ言い切れる! 君は地球でモアを見たことがあるのか!?」


「ないっすね」


「じゃあなんでモアがこの中にいるとわかるんだ!」


「だから見ればわかるでしょ!! てかこの会話の無限ループやめません!? 不毛すぎません!?」


「そうだ! いい加減にしたまえ……今は我々の間で揉めている時期ではない……

 そろそろ地球も近い。交信も届く頃だろう。まずは全員で地球に帰れることを祈ろう……」


「それじゃダメなんですって!! 今のままだと地球にモアを三匹は送り込むことになりますよ!?」


 俺が叫ぶと、モア三匹は慌てて手を左右に振って否定している。


「艦長……私は……操縦士がモアなんじゃないかと思っています……」


「馬鹿か!?」


 渾身の、馬鹿か!? が出た。


「なんでわかんないんすか!? 確かに俺はモアなんか知りませんよ! 見たこともないっすよ! ここに来るまでは!! でも、明らかに変なんだもん! なんでわからないんすかもー!!」


 俺が頭を抱えると、三匹のモアが俺の背中をさすってきた。


「触るな! ばか!」


「いい加減にしたまえ!! ……そろそろ着陸態勢に入るんだぞ」


「じゃあそろそろ人類は絶滅だ!!」


「黙りたまえ!! ……さあ、君たちもそろそろ、仕事着に戻りたまえ」


 艦長がそんなことを言った瞬間である。


 元技師のモアが、背中に手を回し……ジーとファスナーを下ろす音が聞こえてきた。


「いやあ、暑いっすねこのスーツ」


「え……」


 続いて、元衛生士のモアも背中のファスナーを下ろして、『モア』を脱いだ。


「これ、本当に効果あったんでしょうか……」


「え、え……」


 最後に、元博士のモアが、博士に戻る。


「わからん。しかし、現に我々は一人もモアの被害に遭っていない。そう考えれば、

 このモアスーツにも効果はあったのだろう」


 ……俺は、目の前の光景にただただ呆然としていた。


「……なんすかこれ」


「なんだ聞いてなかったのか。これは博士が開発したモアスーツだ。

 ようはな、目には目をということでモアに擬態し、モアのような行動を取れば、モアに捕食されないんじゃないかと。そういう発想で開発したんだ。

 君の分もあったのに気が付かなかったのか?」


「気が付かなかったっすねえ……ていうか、なんですかそのー、頭の悪い発想はー……」


「気に入らないかね」


「え、だって、『モア』ってこれなんすか!?」


「知らんよ。誰も知らないんだから。ただ、効果はあったのかもしれない。

 我々全員、無事に地球に帰れるのだからな。いや、さっきはすまなかった。

 私としたことが、操縦士君の空気に飲まれて不安になってしまっていた」


「私もです。全く。とんだトラブルメーカーだな君は」


「……俺のせいっすか?」


「ところで艦長。たった今、地球と交信した模様です」


「うむ。帰るぞ。地球に」


 船内にモアはいなかった。

 そして俺たち五人は地球に帰る。


「結局、なんだったんすかね。モアって」


「知らんよ。……知らないことが、今は幸せかもしれないな」


 艦長がそう言った。

 なんだ。俺たちの中にモアはいなかったんだ。

 俺は安心して、背中のファスナーを下ろした。



    モア 未知との遭遇 了。

 

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-モア- 未知との遭遇 SB亭moya @SBTmoya

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