セカンド・コンタクト
二十四時間後。船内。
艦長が、我々クルーを再び集める。その顔は険しく、
やや、やつれている。そして、深刻な声で絞り出すようにこう告げた。
「やはり、どうも嫌な予感が拭えないんだ」
「……我々五人の中に、すでにモアが紛れ込んでいるという予感ですか?」
副艦長が艦長を気遣うように言った。
「あまりはっきりと公言したくはない。君たちを不安にさせるつもりもないんだ。
しかし……我々はどうも何か重要な事を見落としている。そんな予感が拭えないんだ……」
「そんな……私たちは全員人間です! そうに決まってます!」
衛生士はすでに泣きそうだ。すると心配性なんだか呑気なんだかいまいちわからない艦長が……
「私だって、クルー全員を信じている。……みんなを無事に地球に帰す。それが私の任務であり……」
「あのっ、ちょっといいっスか!?」
俺は我慢の限界がきて、挙手した。
「……なんだね。操縦士くん」
俺は、緑色になった技師と、ドクターを指差した。
「……博士、モアになってますよね」
すると、緑色になった二人は同時にガタン! と立ち上がって、慌てて手を左右に振って否定をする。動きが見事にシンクロしている。
そして、(元)技師に至っては、何やら口を動かしている。
「……なんか食ってるし! これついさっき博士やられたでしょ!」
「嫌!! 怖いわ!!」
「操縦士くん! 君はクルーを混乱させて、何がしたいんだ!!」
「いややっぱりおかしいでしょ!? 博士さっきまで、緑色じゃなかったでしょ!?」
俺が怒鳴っていると、元技師と元博士が二人して俺に駆け寄ってきて、無言でなだめてくる。
「近寄んな!!」
「どうして仲間を信用できないの!?」
「だって仲間じゃねえんスもん!」
「操縦士くん! 今の発言は同じクルーとして聞き逃すことができない!! 独房に入りたいかね!」
「入れてくださいよむしろ!!」
「落ち着きたまえ……」
艦長の一言で場が鎮まる。
「今は仲間同士、揉めている時間ではないはずだ……。全員で地球に帰る。それが重要なのではないのかね。もっと議論すべきことがある。そうではないのか」
すると元技師と、元博士が俺の前でうん、うんとうなずく。
「……いや! 今すぐ議論するべきですって!! コイツと、コイツを船外に追い出すべきですって!」
「なんてことを言うのよっ!!」
衛生士が両手で顔を覆って泣く。
「いい加減にしたまえ! 冷静になりたまえ……まだ、この中にモアがいると、確定したわけではない……」
「してます!! 半分やられてます!!」
「とりあえず全員席に着こう。話したいことがある……」
艦長命令で、全員席に着いた。
そして艦長は静かに語る。
「……本題に戻らせてくれ。皆をここに集めた理由についてだ。
私は当然、この中にモアはいないと信じているのだが……
昨日からクルー全員を見ていて……どうしても疑惑が晴れない……いつもと明らかに様子の違う人物が二人いる」
艦長が言うと、また元技師と、元博士がガタン!! と立ち上がって手を左右に振る。
動きがシンクロしている。
……ああ、どうやら、艦長はまともな目を持っていたようだ。
艦長が気がついているなら大丈夫だ。俺はひとまず安心した。
「二人……とは、誰のことですか。艦長」
「うん……それはな……操縦士くんと、私のことだ」
はいハズレー!!
俺は机に頭を突っ伏した。
「操縦士はともかく! 艦長、あなたがモアに乗っ取られていると!?」
「ああ……。もちろん私は自分が人間だと思っている。
しかし、モアの擬態のレベルは相当なものだと聞く。そう考えると……私自身本当に乗っ取られてはいないのか、不安に思えてくるのだ……。モアに乗っ取られると、自我はどうなる? それを答えられるものはいるだろうか……?」
……視界の端で元技師と、元博士がうん、うんと聞き入っている。腹立つ。
「それと……皆を不安にさせまいと、これは黙っておこうと思ったのだが……私の体にも変化が起きたんだ」
「ええ!? なんですって!?」
「と言うのもな……名曲、『オネスティ』を歌っていた歌手が思い出せない……どうしてもエルトン・ジョンが出てきてしまう。それだけじゃない。
名曲『風に吹かれて』を歌っていた歌手も思い出せない……
どうしてもエルトン・ジョンが出てきてしまう。七十年生きてきて、こんなことは初めてなんだ。私は……モアに乗っ取られているのだろうか……」
ただの物忘れっすよ。
「艦長! 落ち着いてください! 艦長は人間です!」
「ああ。ああそうとも。しかし、私が万が一……人間ではないとしたら……その時は副艦長……君の手で!!」
「艦長! そんなことは言わないでください! 我々はどうやって地球に帰ったらいいんですか!!」
おおよそ信じられない茶番が目の前で繰り広げられている。
俺はそれを眺めていると……腕に違和感を感じた。
見ると、元博士に齧られていた。
「うわあやめろ!!」
俺は元博士を突き飛ばす。
「何事だ!?」
「今! 今噛まれました! コイツに噛まれました!!」
「それはお前が輪を乱す行動ばかりしているからだ! 噛みつきたくもなる! 私だったら殴り殺している!」
「喧嘩はやめてよ!!」
ああ……だめだ。こりゃあ……
俺はなんだか、全てを、諦めた。
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