【05-1】国立第二十八未来園所属未来児育成日誌(抜粋)

2034年2月1日(水)

本日午後1時、本園に配置された第一期未来児13名が搬入された。

性別は男児9名、女児4名。

園所属の看護師3名と保育士3名により、未来児育成標準ガイドラインに沿った生育が無事開始された。


引き継ぎ書類によると、未来児全員の健康状態は良好とのこと。

すでに13名の戸籍はA市役所において作成済みであり、謄本の写しは本園において保管している。

謄本に記載された戸籍上の氏名も、ガイドラインに沿って命名されていることを確認。

ここまでは順調な滑り出しと言えるだろう。


一つ不満があるとすれば、この日誌内では子供たちのことをM何号、F何号という記号で記さなければならないことだ。

国が定めたガイドラインの規定とは言え、子どもたちを実験対象として見ているように思うのは私だけだろうか。




2037年4月1日(水)

本日より第一期未来児13名が、近隣にある幼稚園に入園した。

これは未来児育成標準ガイドラインに沿った措置であり、入園手続きは齟齬なく行われたようだ。


幼稚園での集団生活に入ることで、これまで未来園内に限られていた未来児たちの一般社会への参加順応を図る措置として、ガイドラインで定められた手順ではあるが、問題がない訳ではない。


第一期未来児13名は当園所有のマイクロバスにて幼稚園まで送迎されるのだが、運転手の確保が困難を極めている。

リクルート会社を経由して募集をかけても、応募者が極端に少ないのだ。


その理由は労働人口減少により、運転手の確保が元々困難であることに加えて、当園への偏見が根強く、嫌がらせが続いているためである。

その結果未来園に就職することで、自身が嫌がらせ被害を受けることを懸念しているため、応募に二の足を踏んでいるものと推察される。


これはバス運転手に限らず他職種の職員についても言えることで、全体的な職員不足は年々深刻になって来ている。

ガイドラインでは未来園職員は日本国籍を有する者に限定されているため、益々職員の確保が難しい状況に陥っている。


この状態が続くと、ガイドラインに沿った未来児の生育に支障を来す可能性を否定出来ない。

このことは当園だけの問題ではなく、未来園全体の問題であるため、こども未来省による予算追加措置やガイドライン中の規制要件緩和などの対応が至急望まれる。


一方、当園未来児たちの生育状況は順調であり、健康状態も良好であることが毎月の検診によって確認されている。

全般的に性質は温良で、職員の指導に対しては従順に従うが、懸念がない訳ではない。


その一つが、園児間の団結力が異常に強く思われることだ。

特に第一期の未来児たちは、3年間昼夜分かたず生活を共にしてきているせいか、互いの考えを言葉抜きでも理解し合っているような印象を受ける。

そして彼らの影響を色濃く受けて、第二期、第三期の14名の未来児たちも、同様の性質を示し始めているのだ。


このことは外部からの圧力に対する、ある種の防御反応であるのかも知れない。

育成ガイドラインには未来児たちの社会順応学習の一つとして、幼稚園に入園するまでの期間、最低週一回の頻度で園外に連れ出すことが規定されている。


しかしこの規定に従って未来児たちを園外に連れ出すと、必ずと言ってよい程、周囲からの好奇の目に晒され、場合によっては理不尽な罵声を浴びせられることがあるのだ。

このような外部社会からの圧力に対して、未来児たちが自己防衛を図るのも無理からぬことだろう考えてしまう。


しかし彼らの団結力が、外部社会である幼稚園や学校においても発揮されるとするならば、その中でスモールコミュニティを形成してしまい、周囲を受け付けなくなるのではないかという、強い懸念を抱かずにはおれない。


このことは未来児たちの日本社会への順応を、著しく阻害すると考えられるため、引き続き綿密な観察が必要であり、場合によっては何らかの措置を取らなければならないと思われる。




2041年4月1日(月)

本日第一期未来児13名が近隣の小学校に入学した。

第二期以降の14名も現在幼稚園に通っており、当園の未来児生育は順調といえる。


しかし外部から当園への嫌がらせは、深刻度を増している。

嫌がらせ電話の類は既にピークを越えて減少しつつあるが、一方で当園への直接の抗議行動が増えてきているのだ。


その多くは左翼リベラル思想を持つと思われる集団もしくは個人だが、抗議対象が子ども未来計画や人口増加促進法そのものであるため、当園に抗議しても意味を成さないと考えられる。

しかし園外で意味不明のシュプレヒコールを上げたり、偶にではあるが強引に園内に入り込もうとする輩がいるため、未来児たちが怯えてしまうことが頭痛の種である。


更に不気味なのは、それらの団体や個人とは対極にいる筈の、保守右翼系の団体による、威嚇的な抗議行動が徐々に増えてきていることだ。

その都度警察に通報して対処を依頼しているが、それらの嫌がらせが止む見込みが立たない。


これは非常に憂慮すべき状況で、未来児たちの精神面の生育に悪影響を及ぼすことが強く懸念される。

このような状況はすべての未来園で発生していると思われるため、県と子ども未来省による迅速な対応が望まれる。

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【モキュメンタリーホラー】~Desired Children~『鈴木花子の子供たち』 六散人 @ROKUSANJIN

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