薔薇魔女と呼ばれた、公爵令嬢

卯崎瑛珠@角川ビーンズ『見た目幼女』発売

王立学院編

0.マーカム王国とローゼン公爵家


 女神イゾラの創りし世界にある、広大な魔法大陸。

 その中央に位置する、マーカム王国の興りは、遥か昔へと遡る。


 ――魔素と呼ばれる、魔法を行使するための燃料のような、空中に漂う物質がある。

 魔素が豊富で肥沃な大地は、魔獣の跋扈する恐ろしい場所でもあった。

 

 大陸の片隅に住んでいたとある青年は、不作のため貧しさに苦しむ村の状況を憂いていた。無謀にも一念発起し、幼なじみの女性を伴い向かった先が、未開墾であった魔の地である。


「みんなが、豊かに暮らせる土地が欲しい!」


 陽気で善良なその青年は、戦闘経験どころか武器の一つも振るったことのない素人。当然、魔の地へ足を踏み入れるや、魔獣に囲まれ窮地に陥った。

 ところが、どこからか颯爽と現れた女魔法使いに助けられる。


「その意気やよし」

 

 数え切れない魔獣の群れに相対した女魔法使いは、周囲を一瞬で焼き尽くすほどの強力な魔法を、事もなげに放ってみせた。

 それから何を思ったか、青年に同行すると宣言する。

 旅のはじめから行動を共にしていた幼なじみは、得体の知れない女魔法使いを仲間にすることに強固に反対したが、善良な青年は疑うことを知らず、あっさりと受け入れた。

 

 荒れた大地を行く旅には、何度も困難が立ちはだかる。やがて青年は大きな怪我を負うが、敬虔な女僧侶と出会う。創造神イゾラを信仰しているという彼女に治癒され、回復した青年は、ついに豊穣の地の中心へ到達した。


「やった……! これほどの豊かな土地なら、作物がたくさん育つぞ!」

 

 王となり国を興した青年の名は、マーカムといった。

 幼なじみは王妃となり、女僧侶はイゾラ聖教会を立ち上げる。

 女魔法使いは王を支える右腕となり、魔獣を殲滅させ、人々に安寧の地をもたらした。


 それからのマーカム王国には数百年に一度、深紅の目を持つ女性が出現する。

 空前絶後の魔力を誇り、王国を滅亡の危機にという赤い目の女性は、やがて『薔薇魔女』と呼ばれ人々に恐れられた。


 

 そして今、マーカム王国ローゼン公爵家に、深紅の目を持つ女児が産まれた――

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2025年12月30日 17:02
2025年12月31日 17:02
2026年1月1日 17:02

薔薇魔女と呼ばれた、公爵令嬢 卯崎瑛珠@角川ビーンズ『見た目幼女』発売 @Ei_ju

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