私はヒーローになりたい。さもなくば悪役になりたい。

三鞘ボルコム

フック船長は最後まで諦めない


 ふと、昔のことを思い出したんですよ。

 あれはもう40年近くも前……。私が保育園児だったころの話です。


 確か年長だったので、6歳の時ですかね?

 お遊戯会で『ピーターパン』を演じることになったんです。

 内容は園児の行う演劇ですので原典からは遠く、エピソードもほとんど端折はしょられていたハズです。残念ながら、内容もほとんど覚えていません。


 ですが未だに覚えていることもあります。

 私の役は「フック船長」でした。言わずと知れた『ピーターパン』における悪役ですね。


 いやね、本当はピーターパンをやりたかったんですよ。男の子は誰だってヒーローに憧れますからね。私も例外ではありません。

 配役を決める際、どのようにして決めたのかは覚えておりません。クジ引きだったか、立候補制だったか、ジャンケンだったか……。ジャンケンに負けたかな?

 とにかく私はフック船長をやることになってしまいました。


 ちなみに「ピーターパンが3人」「ウェンディも3人」「ティンカーベルが2人」いたのは覚えています。

 もう一度言いますが「ピーターパンが3人」「ウェンディも3人」「ティンカーベルが2人」ですっwww


 園児の数に対して、役が少なかったんですねぇ。

 おかげでトンチキな『ピーターパン』を演じることになりましたw


 え? 「フック船長の人数」ですか?

 1人ですよ、決まってるじゃないですか。部下は2人いましたけどねw


 役が決まって、演技の練習と小道具の作成が始まりました。

 ハッキリ言って、ここもほとんど覚えていないのですが……フック船長のトレードマークである「カギ爪」ができた時、感動したのを覚えています。


 ピーターパンは3人います。もちろん衣装もお揃いで、武器のサーベルも同じのを3本作りました。

 でもフック船長は1人だけです。みんなで協力して、私のためだけに作った、ただ1つの武器なんです。3つもある量産品とは違うんです!


 そして劇の本番、進行はつつがなく進み(劇の内容も覚えてませんが)、いよいよクライマックスへと突入しました。

 5人のヒロイン(w)から声援を受けた3人のピーターパンの前にはなすすべもなく、部下は1人、また1人と倒れてゆき……とうとうフック船長1人だけとなりました。


 追い詰められてもフック船長は諦めず、必死に悪役を演じます。

 セリフなども覚えていませんが、「それっぽい悪役セリフ」だったと思います。


 そして3人のピーターパンの攻撃で、フック船長は船(舞台)から落ち、ワニに食べられてしまいます。

 その時、フック船長(私)が何を思ったか分かりますか?


 勝 て る わ け な い や ろ っ!!


 ……そりゃそうですねw

 お話の都合というのもありますが、悪役1人に対してヒーローが複数人がかりなんてあんまりですww


 しかし待てよ……。どこかで同じようなシチュエーションが……。

 そう「スーパー戦〇シリーズ」ですね。未だに続いているこのシリーズですが、私はこの経験からか、あまり好きではありませんでしたねぇw


 「強大な敵に対して、仲間と力を合わせて立ち向かう」というシチュエーションは良いと思うのですが、「基本的に1話完結」「毎回新たな敵を出す」というルールがありますので、中には「まるでヒーローが弱い者イジメをしているような回」もありましたし……。

 そういえばアニメ・漫画・特撮などを見て、初めて「敵がかわいそう」と感じたのは「スーパー戦〇シリーズ」だったと思います。(ジャ〇ラとか初代ラ〇ダーとかは世代じゃないですしw)


 子供の頃は意識していませんでしたが、成長するにつれて「悪役のカッコよさ」に気が付くようになると、それは次第に「悪役へのあこがれ」にもなっていきましたね。


 全ての悪役に共通するわけではありませんが、多くはたった1人で目的のために、犠牲をいとわずリスクもかえりみずに突き進みます。仲間がいることもありますが、高確率で「心許せる仲間」などではなく打算の関係だったり、あるいは「物語の途中で仲間は退場」してしまいます。

 そして最後の戦いを、たった1人で迎えるのが定番ですね。


 物語のラスボスはただ1人となっても己の勝利を信じて疑わず、これまで積み重ねた敗北も些事と吐き捨て、強大な力でヒーローを追い詰めます。たとえ、ヒーローにどれだけの仲間がいようとも関係ありません。


 カッコイイと思いませんか? 思うでしょう?

 そう、カッコイイんです。


 え? 「カッコよくない悪役もいる」ですって? それは悪役ではありません。「悪役のフリをした何か」です。

 「悪役はカッコイイ」これは不変の事実であり真理なんです。わかりましたか?


 しかしいくらカッコよくても、悪役は最後には散る定めです。

 ヒーローの、あるいは仲間の、機転・隠された力・根性で……。最終的に悪役は敗北します。

 これは「物語のルール」です。悪役と言えども……いえ、悪役だからこそ抗うことはできません。


 しかし最後の時……その瞬間に、悪役は最後の役割を果たします。

 それは「素顔を見せる」ということですね。


 退場の間際、悪役は「悪役の仮面」を外して「ただ1人のキャラとしての素顔」を晒します。

 それは「怒り」「恐怖」「後悔」「諦観」など……あるいは「安堵」「希望」「感謝」「愛」などかもしれません。仮面を外したら善人だったかもしれませんし、仮面の下も変わらず悪人かもしれません。


 しかしいずれにせよ、この時こそが「悪役が最も輝く瞬間」だと思いますね。

 本音を晒した時、悪役の正体が視聴者・読者の前に暴かれ、彼(彼女)の真価が判明するのですから。




 私はヒーローになりたいと思っておりました。

 勝利や成功をこの手に収めたいと思っていましたし、今も思っています。


 ですが誰もがヒーローになることは不可能です。勝者の陰には敗者がいますし、成功の裏には数多くの失敗の山があります。

 私がヒーローになることは難しいのでしょう。


 ならば、私は悪役になりたいと願います。

 敗者となり失敗することが確定している未来だとしても、それでも己の勝利を疑わず目的に向かって邁進まいしんし、「仮面」をつけて生きていきたいと思います。

 私の本心は「最後のその時」まで取っておくことにしましょう。


 だって、その方がカッコイイですからねwww

 まだ終わってないのに「もうムリだ」「勝てるわけない」なんて言うのはカッコ悪いです。


 皆さまも「カッコイイ悪役」を目指して生きてみませんか?w

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