“銀細工”のように ――先を歩む 美しいひとびと

金時まめ

〜“銀細工”のように ――先を歩む 美しいひとびと〜





以前、素敵な喫茶店でくつろいでいたとき、

年配のお姉さま方がお三人で入っていらっしゃいました。


白髪はくはつの素敵なマダムたち。

わたしは、いつか自分もあのように歳を重ねたいと、

その素敵な年齢の越し方に、密やかに羨望の眼差しを向けていました。


年齢に限らず。

女性が集うと、つい後ろ向きな話題になることも多いように思います。

しかし、その白髪はくはつのマダムたちにはそんな雰囲気は全くなく、

おともだちと素敵な喫茶店を訪れたその姿は、とても楽しそうな佇まいでした。


ふと、耳に届いた言葉がありました。

それは、まるで未来からの囁きのようで――。



「何事も前向きに考えなきゃだめよ。いつまでも“少女のような心”が大事なのよ。」



その言葉に、思わず小さく「ほう」と心の中でつぶやきました。

わたしは席をご一緒していたわけではないけれど、

なんだか、“後を行く“わたしに 励ましの言葉をいただいたようで、

胸がじーんとなってしまいました。


帰り際、「どうかいつまでもお健やかに…」と、

お一人おひとりにハグしたい気持ちをグッと堪え、

心でそれを願って喫茶店をあとにしました。

(知らない人から突然ハグされたら、驚かれちゃいますよね)


いつの日か。もう一度、そのマダムたちにお会いできたとしても、

もうお顔も覚えていないけれど。


『前向きに・少女のような心で』と三人で楽しそうに話す

“銀の糸をまとった美しい方々”の姿は、

わたしに、とても温かいものを授けてくださいました。

その言葉は偶然にも、近くの席に座っていたひとりの人間であるわたしを、

静かに、幸せで、前向きな気持ちへと運んでくれたのです。


これからも人生を歩むうえでの、大切な灯のひとつとして。

胸に灯していきたいです。


前を歩く先輩たちの素敵な姿を見て、わたしもそうありたいな、と思い

迷ったり悩んだりしながらも、楽しく日々を暮らしています。



大好きな作家さんが作品の中で

『白いもの=重ねた歳月がもたらした、落ち着いた銀細工』

と表現されていて、まさにその通りだなぁと改めて感じた出来事でした。


喫茶店で過ごした小さなひとときが、未来の自分への灯火になるなんて。

出会いって、本当に不思議ですね。



喫茶店では美味しいコーヒーと一緒に “キャロットケーキ” もいただきました。

自分が作る“にんじんケーキ”と、どんな違いがあるのかと興味津々で選びました。

今度、家で作るときは、お店に倣って“胡桃を刻んだもの”を入れてみようと思います。


あのマダムたちの言葉を思い出しながら、

胡桃の香ばしさを噛みしめるたび、 今日も少しだけ前を向ける気がします。






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