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【感想のお部屋】『アンドロイドは下ネタの夢を見るか?』 その5 〜「触れられない手」から「服を直す手」へ――非論理の一言がほどく ふたりの距離〜




※※ はじめに ※※ (定期)

この小部屋を見つけてくださって、ありがとうございます。
こちらは、わたしがkou様の作品を読ませていただいたときの、感想などを綴っているお部屋です。今回はこちらの作品です。

『アンドロイドは下ネタの夢を見るか?』
https://kakuyomu.jp/works/16818792439688648232

※※ 以下、ネタバレを含みます ※※

(この感想を書いている時点の最新話は
 『第30話 今のは……“誘って”いらっしゃるのですね?』です)







  「ナナ……。この僕を飢えさせる気か?」

出だしから、前29話から続く、いきなりの不穏でドキドキした一言でした…。
そして、そこからのナナさんの論理シミュレーションが、久しぶりにナナってくれる今話。

ナナさんの論理シミュレーションも、健司さんの“伸ばす手と心”も
ギリギリのところまで攻める展開なのに、読み終わった後にはちゃんと笑ってしまう。
kou 様らしい、スリリングさとユーモアの同居したお話だと感じました。



⚫︎ 暴君マスターと悲劇のヒロイン(※シミュレーションです)

前半は、完全に「暴君マスター vs 悲劇のヒロイン」という図でしたね。

「貞操を守るか、スクラップになるか。選べ」という“暴君健司さん”に
一粒の涙をこぼしながら肩紐を落とすナナさん。
その儚げな姿を、ビスクドールのような白い肩の描写で描く美しさ。

文字だけで読むと、かなりギリギリなシチュエーションなのに、
それが「ナナさんの一人芝居=論理シミュレーション」であることがわかった瞬間、
緊張の糸がプツンと切れて、思わず笑ってしまいました。
ナナさんの“ひとり高速回転”を呆気に取られて、見守るしかない健司さん。

ナナさんの側は本気で、
マスターを“暴走”から守るために最悪のケースまで想定しておく

という、マスターのための“お仕事”をしているはずなのに、
読者視点から見ると、「やりすぎ」で「飛躍しすぎ」で、なのに最後は無防備な“キョトン顔”。
そこがまた、かわいくてたまらない…。

マスターへの忠誠心と、AIゆえの“変な方向への真面目さ”が爆発しているシーンでした。



⚫︎ 「触れられない手」から「服を直す手」へ

今話で一番胸に残ったのは、シミュレーションから戻った後の場面です。

エプロンの肩紐が落ちたままで、ブラウスもはだけていて、
ストラップと白い人工皮膚のコントラストは美しいし、
ナナさん本人は自覚なし、という無防備さ

あまりにも扇情的な光景なのに、
そこで健司さんが取った行動は、とても象徴的でした。



  「何か、じゃない! そ、その格好! はしたないぞ! 見えてるぞ……。いろいろと」



か、かわいい……。
第26話では、まどかさん、うららさん、ミルキーさんとの別れをあんなに悲しみ、
第27話では、2つの“コードネーム”の、安全かつ継続的な保持に全集中していたのに。
ドギマギしながらも、ずり落ちたブラウスを紳士的に直してあげている…。




☆ここで、少し振り返ってみましょう。



第8話 『新しい日常の始まり』
ナナさんをシロネコさんが運んできてくれて、まだ目覚めていない調整ポッドの中のナナさんに健司さんは

そっと手を伸ばしかけて、数mm手前で止めて
「触れては、いけない」と、自分に言い聞かせていました。

そんな健司さんが

第30話 『今のは……“誘って”いらっしゃるのですね?』では、
“相手を守るために、必要最低限だけ触る”側に立っている。

この2つの違いが、とても大きなものに感じられました。

触れないことで“境界線を守ろうとしていた人”(8話)が、
今度は、そっと服を直すために触れてしまう。(30話)
それでもなお、その直後に


  「! 異常があるのは、僕の心臓と倫理観だ!」


という、健司さんの“自分へのツッコミ”を入れてしまうところに、
健司さんの照れと、誠実さと、迷いが全部詰まっているようで、
読んでいて胸がきゅっとしました。
その後もヤケクソ気味に“優しい手つき”で、エプロンの肩紐まで直してあげているんですよね🤭



何より素敵だったのは、

 
  その滑らかな肩のラインの上を、一本の細いストラップが走っていた。





から始まる、描写です。

肩から見える細いストラップを、ここまで美しく表現できるなんて。

中学生男子が、同級生の女子の背中にうっすら見える下着のラインにドキドキしているような、それでいて“聖域”を描いているような、とても素敵なシーンでした。


ナナさんは特別美しいから、というのもありますが、
『女性の美しさ』そのものを、肩とストラップという小さなパーツを通して描かれているようで、思わず息を呑む描写でした。


ほら、ナナさん。

あなたの肩に乗る、その肩紐一本をここまで健司さんは、美しいものとして見てくださっていますよ。

ミルキーさんへ嫉妬しなくても良かったのに。



⚫︎ 「カゼをひくぞ」 ――非論理な一言が、ふたりの距離を測る

そしてラストの「カゼをひくぞ」。

アンドロイド相手に、
恒温機能付きのボディに向かって、
論理的にはまったく意味をなさないはずの一言。

それなのに、それがすごくあたたかく響くのが不思議です。

人間だったら、自然と口から出てしまう「気遣いの言葉」を
アンドロイドであるナナさんに対しても、
思わずそれを言ってしまうくらいには、
ナナさんのことを“人間のように案じてしまっている”ことの証明
ですよね。

合理的ではない。
けれど、感情としてはものすごく正しい。

そのズレを、ナナさんの側はナナさんの側で


  『非論理的な発言』
  『男女間のコミュニケーション』
  『体調を気遣う言葉の裏に隠された真意』


…とデータベースを総動員して分析した結果、

  
  「……マスター。もしかして、今のは……“誘って”いらっしゃるのですね?」


という、とんでもない結論に到達してしまうのがまたおかしくて。
健司さんの


  「……は?」


で、完全に時間が止まった感じになりました。

このすれ違いぶりが、
ふたりの「心の距離の近さ」と「認識のズレ」の両方を
コミカルに、でもちゃんと愛おしく見せてくれているなぁと感じました。



⚫︎ おわりに

“倫理”と“ときめき”のあいだで、ギリギリのラインを歩きつつ、
最終的にはちゃんと「境界線は越えない」第30話。

久々のナナさんの暴走気味なシミュレーションを見られたし、
それを見てしまった読者側のヒヤヒヤしっぱなしだし、
でもそこからコメディに着地させてくれつつ
健司さんもかわいらしさも見せてくれるという、
『お楽しみ箱』満載な回でした。

そして、8話から積み重ねてきた
「触れたいけれど、触れてはいけない」というテーマ。
それが「触れないことで守る距離」から、
「そっと整え直すために触れる距離」へと、
少しだけ形を変えて見えてきた回でもありました。

最後に合言葉のように置かれた「カゼをひくぞ」が、
これからのふたりにとって、どんな意味を持つ言葉になっていくのか。
“平穏な日常に、新たな嵐を呼び込むキーワード”と予告されているだけに、
次話以降がますます楽しみです。

今回も、ニマニマとヒヤヒヤと、ちょっぴり切なさをありがとうございました。



※引用のセリフは、第8話と第30話から引用させていただきました。


では、また『感想のお部屋』でお会いいたしましょう👋
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。









kou 様へ

第30話、ギリギリの綱渡りのようなシーンなのに、
最後にはちゃんと「笑い」と「温度」に着地させてくださって、
読者としてとても楽しく、そして少し胸がきゅっとする回でした。

8話で「触れられなかった手」が、
30話で“服を直す手”になっていることに気づいたとき、
健司さんとナナさんの関係が、確かに一歩進んだように感じました。

そして、「カゼをひくぞ」という非論理な一言を、
これから物語の中でどのように見せていただけるのか…。
“合言葉”としての今後の使われ方も含めて、続きがとても楽しみです。
毎回、ナナさんの“人間くささ”と、健司さんの“揺れながらも誠実であろうとする姿”に、
ほっとしたり、ドキドキしたりしながら読ませていただいています。


それにしても。
ナナさんの『外気温-30℃の環境まで、内部温度を誤差なく36.5℃に維持する恒温設計がなされています。』を読んで。

あぁ、そんな体。いいですねぇ。

寒いんですよ、ほんと最近。 雪国に住んでいるもので。
PCへ向かうときは特に
着る毛布が手放せないんです。
“まるでこたつ”靴下も履いています。
ナナさんの恒温機能が、本当にうらやましいです。


そういえば、直人くんがおすすめしてくれていた(?)“ふたりソロキャンプ”を配信で見始めています。
うっかり夜中に見始めてしまい、必ず出てくる“食事シーン” にわたしのお腹からは
「お腹すいた〜」と言う呻き声…。
いけないとわかっているのに、夜中に冷蔵庫を開けてしまいました。……。


メスティン料理も引き続き楽しんでいます。
炊飯では、もう何年も食べていなかった“おこげ”を食べました。
炊飯器以外でもステンレス鍋で炊飯もしたりしますが、その際もおこげはできないので、久々のおこげを食べながら、またもや直人くんに感謝をしました。


『息埋めの庭』の連載、本当にお疲れ様でした。
いろんなタッチの作品をお描きになりますよねぇ。

同じ作家さんとは思えないような作品群で、改めてkou様のお力に感服いたしました。





寒い時期ですので、どうかお風邪をひかれませんように。

(今後『カゼをひくぞ』がナナさんによってどう転ぶがわからないので、
 
  ここで言っても大丈夫なのかしら? 笑)

これからの展開も楽しみにしています。
ありがとうございました。

1件のコメント

  •  金時まめさんへ

     ご感想、ありがとうございます。
     ナナが昼過ぎにシロネコ便で届けられ、なんやかんやとありつつ、夕方になりました。
     よし、ナナの手による初めての料理のシーンを書こう。
     ということを考えていたのですが、夕食を作る時間を考えていなかったことはナナのミスであり、生活支援A.I.C.S.としての本分を失念していた。これは、危機的状況であるならナナは必ず、これから起こりうる状況を思考する。という名の論理シュミレーションに入る。ということから、この流れになりました。
     そこに至るまでに、ナナが夕食の件を忘れていた時の謝罪する時のナナの美しさに健司が、ドキリとする場面はミスリードになるようにしておき、『爆乳天国』が廃棄されただけに、健司の復讐と思わせてみました。
     緊張感のあるシーンからのの脱力感。その緩急を味わっていただきたいと思って書いたシーンでしたので、「思わず笑ってしまいました」とのお言葉は嬉しいです。
     健司のために良かれと思って、常に全力で真面目なナナ。
     でも、その方向が致命的にズレている…。下ネタ方向に向かう。そんなナナの可愛らしさを感じ取っていただけて、本当に嬉しいです。

     そして、今回のお話で一番描きたかった部分は、健司がナナに自ら触れること。金時さんのおっしゃるように、健司は起動前のナナに触れようとして、思うところがあって止めました。
     でも、今回はナナのはだけた姿に目のやり場に困っての行動です。健司はナナを欲望の対象としていない、自身の自堕落な生活を立て直して貰うため、ともに生活をして貰うパートナー。
     それでいて、健司の中でゆっくりと、しかし確実に育っているナナへの特別な感情の表れとしてみました。二人の距離の変化を描きたかった部分です。
     「僕の心臓と倫理観だ!」という彼の悲鳴に、照れと誠実さと迷いを感じ取って頂けて、書き手として、本当に、本当に本望です。
     肩紐の描写もお褒めいただき、恐縮です。
     ナナは生活支援型A.I.C.S.を考えて装飾のない下着が妥当と思い、肩紐は簡素なストラップにしました。健司の視点を通して、彼がナナを単なるアンドロイドではなく、生身の人間以上に、一人の「女性」として意識してしまっている、そのどうしようもないドキドキ感を表現したかったので、そのように感じていただけたなら、これ以上ない喜びです。
     ラストの「カゼをひくぞ」という、あまりにも非論理的で、人間的な一言。
     これも、金時さんの考察の通りです。
     合理性では測れない、でも感情としては正しい。健司の中でナナをロボットではなく同じ人ととしてみているだけでなく、大きな存在になっているかの証明として、このセリフを書きました。
     ごく普通のA.I.C.S.だったら、非論理的なことを指摘して終わりだったのでしょうが、ノークレーム・ノーリターンで売りに出されていたナナは違います。
     その優しさが、ナナのAIによってとんでもない「お誘いの合言葉」という下ネタに変換されてしまう……。このどうしようもないすれ違いこそが、この物語の核だと思っています。
     頂いたご感想のすべてが、作品の答え合わせをして頂いているかのようで、書き手として大きな勇気と自信をいただきました。一つ一つの言葉を、大切にお守りのようにして、これからの執筆の糧にさせて頂きます。
     こちらの返信を書いている現在、「カゼをひくぞ」という言葉が、また騒動を起こした結果をご高覧頂いた後と思います。次回は、生活支援型としての食事の支度にしたいです。
     ナナの恒温設計の設定は、生活支援型という設定を考えていて必要な機能と考えました。(いずれ、どこかで書ければと思います)
     私の住む地方も寒いですね。おまけに私の部屋も寒い。
     PCを触る時は、ひざ掛け毛布に、はんてんを着込んでの作業です。寒さは厳しい。
     カゼを引いて良いことはないので、お互いカゼには気をつけましょう。

     ふたりソロキャンプを視聴されているのですね。私もです。原作を読んでのファンですので、私も楽しみに見ています。
     醍醐味は、やはり食事シーンですね。アウトドアで食べるご飯は、3割増しぐらい美味く感じるそうですが、それに見合ったリアクションにお腹が減る気持ちが分かります。

     『息埋めの庭』ご購読ありがとうございます。10000字くらいで収まるかなと思っていたのですが、28000字程になりました。
     現代を舞台にした怪奇が好きな私としては、こちらの方が本来の作風なのですが、『アンドロイドは下ネタ』の方が連載になっていて、私も不思議に思っています(^^ゞ

     寒い季節、世間ではインフルエンザの流行も耳にします。
     金時さんも体調には、お気をつけ下さい。
     この度は、本当に宝物のような素敵なご感想を、ありがとうございました。
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