第4話
翌日の早朝。セカンドフォールズ署の警察官が、どうやら急いで機関車を動かしたようで、小さな町へと流れ込んできた。それは、昨日の内にジャックが血塗れのネイルハンマーやソリ、湖面の下に死体があるかもしれないという状況を説明していたからに他ならない。湖面の氷を破るための道具の持ち込みや、例外的ではあるが法医学者と死体の回収班、そして、現場に残された証拠を集める鑑識などが集められていた。
その中にはジャックの直属の上司であるハワード・ソケット警部の姿もあった。ハワードは全身を黒一色の帽子とコートを羽織っており、コートの内側に白いマフラーを首周りに巻いている。頭にすっぽりと帽子をかぶっていた。碧玉の瞳が連れてきた警察たちを見ては、時折何かを見つけて指示を飛ばしていた。
ジャックは、そんな様子のハワードの姿を目に留め、タイミングを測りながら声をかけた。
「ハワード警部。おはようございます。」
「ジャックか。災難だったな。休暇中に。」
「本当に。」
「現場はまだ氷の中か?」
「そうです。」
「では、先に話を聞くが、今の状況は?」
「まとめています。鑑識を一人読んでもらえますか。」
ジャックの言葉にハワードは、近くにいた鑑識を呼びつけジャックの後に続いた。
管理者の家の二階にハワードと鑑識を案内したジャックは、残された映像と入出記録ノートを見せ、昨日にジャックと交番員が映像と記録の照合をしたことを明かした。そこに不一致はなく、彼らが時系列的にまとめるたものは次のようになった。
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十一月二十六日 午前 ハリソン・シェリ 愛犬ジャッキー 入山
同日 午後 ハリソン・シェリ 愛犬ジャッキー 下山
十一月二十八日 午前 スティーブ・コリンズ および チャールズ・ビレッジ 入山
同日 午後 スティーブ・コリンズ および チャールズ・ビレッジ 下山
十一月二十九日 午前 エドワード・ライアン 入山
同日 午後 エドワード・ライアン 下山
十一月三十日 午前 スティーブ・コリンズ および チャールズ・ビレッジ 入山
同日 午後 スティーブ・コリンズ および チャールズ・ビレッジ 下山
十二月四日 午前 ハリソン・シェリ 愛犬ジャッキー 入山
十二月五日 午前 スティーブ・コリンズ および チャールズ・ビレッジ 入山
同日 午前 スティーブ・コリンズ および チャールズ・ビレッジ 下山
十二月十日 午前 マリア・モーリス および メアリー・ノートン 入山
同日 午後 マリア・モーリス および メアリー・ノートン 下山
十二月十四日 午前 ハリソン・シェリ 愛犬ジャッキー 下山
同日 午後 ハリソン・シェリ 愛犬ジャッキー 入山
十二月十五日 午前 マリア・モーリス 入山
同日 午後 マリア・モーリス 下山
十二月十七日 午前 スティーブ・コリンズ および チャールズ・ビレッジ 入山
同日 午後 スティーブ・コリンズ および チャールズ・ビレッジ 下山
十二月二十七日 午前 スティーブ・コリンズ および チャールズ・ビレッジ 入山
同日 午前 スティーブ・コリンズ および チャールズ・ビレッジ 下山
十二月三十日 午前 スティーブ・コリンズ および チャールズ・ビレッジ 入山
同日 夜 スティーブ・コリンズ および チャールズ・ビレッジ 下山
以降の記録は、ジャックと公平が来るまで誰も立ち入っていない。
映像の記録としては、朝の間にスコットやパトリックが除雪作業を行なっているのが映る以外、誰かが入山したものはなかった。
ハワードはジャックたちがまとめた情報を受け取り、映像テープと入出記録ノートを鑑識に渡した。鑑識がそれを持って部屋を出るのと同時に、別の警察官が「湖が割れて……見つかりました。」と告げる。
ハワードはジャックへ視線を向け「内容はわかった。我々も現場に行こう。」と伝えた。
****
ハワードとジャックを呼んだ警察が先頭を進み湖へと向かう。
現場には鑑識や遺体回収班が周辺を捜索していた。遺体はソリの近くに引き上げられており、近づくに連れてその実態が判明していく。首から下は外に出るには肌寒いだろう程度の防寒着であり、恰幅の良い年齢を経た男性のものだった。頭部を集中的に、恐らくーーネイルハンマーで滅多撃ちされており、顔にも殴打の跡があった。
二人は遺体を前に、弔うように黙祷を捧げた。それが終わるのを見て、帯同していた法医学者がハワードとジャックに遺体を見ながら説明を始める。
「セカンドフォールズに持ち帰って、司法解剖してみないことには詳細は分かりませんが、後頭部に二度ほど鈍器を振り下ろされた後があり、二度目のものが致命傷になっていると思われます。」
「顔面は、その後に?」
「分かりません。ただ、死後も殴られていた可能性は否定できないかと。それと、恐らく殺害はソリの上で行われたと思われます。」
「中に入っていた白い破片は?」
「憶測になりますが……歯が欠けたものではないかと。」
法医学者が言いにくそうに回答した。
「警部。」とジャックがハワードを見る。
「間違いなく、殺人事件だ。ジャック。貴重な休暇が台無しになるが、それでもいいか?」
「構いません。関わらせてください。」
「わかった。まずは広く情報をとることが優先されるが、まとめてもらっていた中にある、この、十二月十五日のマリア・モーリス、そして、何度も入山と下山を繰り返しているスティーブ・コリンズ、チャールズ・ビレッジに話を聞きに行こう。他の警察官にも、何か変わったことがないか、町の人たちにも聞き込みするよう伝えておく。」
「分かりました。では、先に戻ってノートン兄弟に彼らの話を聞いてみます。」
「頼んだ。」
ハワードの了承を得て、ジャックは山を下山した。
****
公平がだいぶ元気を取り戻した犬をバスルームで洗い終えた直後、ほぼ同時にジャックが家に戻ってきた。ジャックは公平の方へ進み「遺体が見つかった。」と告げる。
「ハリソンさん?」
「恐らくそうだが、まだ確定はしていない。」
「その……ジャッキーに合わせられないか?」
「ジャッキー?」
「この犬の名前だ。ずっと湖を気にしていたんだ。多分、主人が居る方向を見てたんじゃないかと。」
「そうか。でも……難しい。少なくとも、一人亡くなった事件だ。」
「わかった。ジャックはこのまま事件に参加するのか?」
「ああ。だから、君の選択肢は、先に帰るか……事件が終わるまで待つか。だ。」
「事件の終わりってのは、犯人が逮捕されたら? それとも裁判の判決が出たら?」
「逮捕されたら、だな。」
「なら、事件が終わるまで待とうか。この事件は、そんなに難しい話じゃなさそうだ。」
「それは何故?」
「場所はクローズドだろ? 山の中に入った人の中にしか犯人はいない。割と早く解決すると見てるよ。それに、ジャッキーは主人を殺された訳だ。逮捕されないと報われない。」
公平がジャッキーを見ると、ジャッキーも公平を見て何かを察したのか、肯定するように吠えた。
「そうだな。そこの……ジャッキーは犬だが。まあ、気持ちはわからなくはない。」
ジャックはジャッキーを見て小さく笑った。
煙の街 名残雪の殺人事件 佳芳 春花 @odgerel
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