南極の夜は寒い

秋犬

南極の冬はずっと暗い

 異様にムシャクシャしている。読み物としてはこういうときに書いてそのまま出したもののほうがウケがいい気がするので、そういうものを書いてみる。きちんとプロット組んでいろいろ作り込んだ話を読むのは大変だけど、こうやってポっと出た感情をちょいとつまみ食いするのはみんな楽しいのだと思う。自分もそうだし。


 まあ何にムカついているかというと、突き詰めたところ「読まれない」ってところだと思う。自分が読まれないっていうのもそうだけど、カクヨムコンのせいか「読まれない読まれない」って怨嗟が溢れかえっている。うるせえそんなのいつものことだぞ、って思う。


 読まれないなんて当たり前だろボケ、お前知らない奴が「小説書いたんですよ、読んでみてくださいデュッフッフ」とか言って「ぼくのかんがえたさいきょうのおはなし」を持ってこられても「お、おう」ってなるじゃん。知らない奴でなくても、家族や友人でも「お、おう」ってなる人のほうが多いじゃん。じゃあ自分のだってそう見られてるわけじゃん。お、おう。


 じゃあ誰のために書いているのかって言えば、もう自分のためじゃん。自分のために書かないと誰のために書いてるかわからないじゃん。でもその「自分」っていうのはどこにいるのか、って想定して書かないとあっという間に空中分解する。よく「読者を想定しましょう」っていうけど、見知らぬ他人を想定するのは難しいからまずは自分を「読者」として想定したほうがいいと思う。自分はどういう作品が好きで、どういう物語を読んでいきたいか。それに尽きるって話じゃないのか?


 つまり専門用語を交えると「コンセプト」や「テーマ」っていうのはそういうのを明確にするってこと。自分が作品を読むときに一番大事にしているのは「この作者は何が言いたいのか、何が書きたいのか」ってところね。このシーンがやりたかったんだな、とかこの展開超熱いよね、とかそういうのが見たい。そういうところからじんわり作者の肌の質感が感じられるのが、なんかいい。自分が好きなのは、大体そういう話。


 で、ね。ムシャクシャしていることの理由のひとつに「カクヨムコンの攻略情報」みたいなのがあって「3話までにこのことを書いておきましょう」「主人公はどうたら」「ヒロインはどうの」みたいなのがバーッと書いてあるわけよ。そんで「こう書いたら読んでもらえるよ」って言うの。


 ふざけんなっ!


 いやね、「こういうのは嫌がられるよ」っていうのはわかるの。冒頭からダラダラ世界の説明垂れ流しとか、群像劇と称したよく知らんキャラの掛け合い漫才とか、そういうのはちょっと、というのはとってもよくわかるの。でもさあ、「こう書け」っていうのは、なんか違くねえか? それで読まれる保証なんてどっこにもないんだよ。信じてそう書いたのに読まれなかったら、アンタ責任とれんのか? ってなるよ。


 さっきも書いたけど、知らねえ奴が「読んで」って持ってきてアンタ読むのか? 読まねえだろ。「おお頑張って書いたんだ、偉いね」ってしか言わないじゃん。そんで「書いただけでも偉いね、よしよし」とか言うんだよ。知らねえよ何が肯定ペンギンだよ。あいつら自分の卵が壊れると他人の卵奪おうとするんだぞ。それで卵が壊れるの。そういう野生動物だぞ、あいつら。


 話を戻すと、「こう書け」っていうのはもうそれって権威主義ですよね、って思うわけよ。個人的に出版社の出す単行本と違う企画の小説を誰でも発表できるのがwebのいいところだったと思うんだよ。すっごいドぎついエロとかホラーとか、話が長い長い一代記ものとか、逆に詩みたいな奴とか。それがなんだ? 3話までうんたら? ヒロインはこういうの? テンプレがどうだ? ヘイト管理? 知らねえよヘイトなんか勝手にしてろや。作者はそれが書きたいんじゃないのか? お前が知らない奴らのためにお前の癖を任せるな。


 だってさあ、メガネっ子ヒロインが大好きな人が一生懸命メガネっ子書いたところで「メガネは今ブームじゃないからポニテお姉さんにしたほうがいいと思います」っておかしいじゃん。「こう書け」っていうのはズバリそういうことだと思ってる。いやもちろん商業的に成功したくて商業作品の脚本の勉強とかしている人はそういうの気にした方がいいんだけど、それにしても最初は「自分のために」何かを書いた方がいいと思うんだ。小説っていうのは、もっと自由であるべきだもの。


 そういう脚本術なんかは何本も小説を書いてもっと読まれるには、っていう段階の人が気にする話であって、文章もおぼつかないで初めて小説を書いた人がどうこうっていうもんじゃあないと思うんだよね。「とりあえず書け」って言って書いたけど誰も読んでくれない。そういう冷たい世界なんだよ、案外ここは。コウテイペンギンはモフモフしてあったかそうだけどさ、あいつらマイナス60度の世界で生きてるんだ。あったかい輪の中に入れないとあっという間に冷凍ペンギンなの。そういうシビアな連中なの、あいつら。


 だからさあ、ランキング分析って小説を書く上ですっごいナンセンスだと思うんだよね。何がコンテストだよ。この手のコンテストってもうこれってコンペじゃんっていつも思ってる。小説の巧拙じゃないの。マーケティングの戦略勝負。それで売れた奴が「俺は小説をわかってる」っていう顔をしているのがすっごくムカつくんだと思う。


 まあ何が言いたいのかって言うと、3話でどうのこうのだけが小説じゃねーんだよってこと。小説っていうのはもっともっと自由であるべきなのに、なんでそんなにテンプレに落とし込めたがるのか。その理由もわからなくはないけど、個人的に「まずはテンプレを書け」っていうのはSFやいわゆる紙のラノベが衰退していったところの入り口になりかねないと思う。「こういうのじゃないと読者は読みませんよ」って奴。


 すると読者も「こういうのじゃないと面白くないのか」って学習する。そのループが回るごとに起こるのは大体ジャンル論争、権威主義の発生、異端への魔女狩り。いいことなんてひとつもない。「ラノベには批評家がいなかった」なんてたまに言われるけど、批評家から逃れるために書いてきたのがラノベだったんじゃないのかなって思うんだけどなー。


 その辺の話題でひとつだけ思うのが、カクヨムコンで重視しているのが「女性主人公」ってところで、カクヨム的には女性読者を取りたがってるよなって思う。でもランキングなんかで女性が嫌がるようなどぎつめのエロワードが並んでいるのを見ると、「女は入ってくんな」というホモソーシャル的な圧を感じることもある。まあなろうがあんなこと(異世界恋愛だけ)になってしまったその仕返しみたいなのも感じるけど、単純にあんまり面白くないなあって思う。ランキングって、もっと多様性があっていいもののように感じるけど、そうでもないのかな。


 ランキングの仕組みを知っているとそれは仕方ないって思うけど、基本的にweb小説は動線がないんだよね。だから読まれない。だから動線のひとつである自主企画とか個人主催のお祭りに参加すると「そんなに読んでくれるんだ」って思うこともある。でもそれ以外の作品は「読者どこー?」っていう状況だと思う。仲間がいない。南極で氷漬け。氷漬けは嫌だ。寒いし。


 だから戦略として新人はweb上で友達を作るべきなのだと思う。コミュ障だからとかそういうことを言ってると凍死一直線だから。ペンギンは一匹じゃあ生きていけない。群れていないと承認欲求を食い物にするアザラシに食べられてしまう。「レビュー確約です」「PV売ります」みたいな情報商材屋の養分になる例もあるという。マジで南極なんだよなここは。生存競争の激しい土地。気軽に参加したら心を病んで引き返すしかない場所になりつつある。そこをサバイブしないと小説が書けないなら、そろそろ「web小説は衰退しました」って言葉も出てきてもおかしくないと思う。だってそれが歴史の繰り返しだから。


 それで、この南極をどう乗り切るかと言うといろいろやることはあると思う。最近あったカクヨムの「アプリはログイン必須」というのも「作者に評価を届けやすくする」という意味ではアリかなあと思う。最近ではレビューにインセンティブを設けたり、読者応援企画なんていうのもあっていいと思う。


 ちなみにスコッパーについてはあまり信用していない。有名どころが「俺が面白いと思ったんだから読め」「誰誰さんの言う通り面白いですね!」みたいなのが始まったらもう権威主義だから。自発的に「うは、これ面白!」って話題になるくらいがちょうどいいと思ってる。その点最近の『濁唾濔蓏』の広まり方はよかったなーって思った。みんなでおススメしてシェアできる世界、それがweb小説だと思ってる。


 そういうわけでこの世界は南極です。誰も助けてくれないし、あったかい輪の中に入れなければ厳しいブリザードが待っている。じゃあどうやってあったかい輪を探すのかって言ったら、これもまた難しい。その輪を作る超偉いコウテイペンギンを探して輪の中に入れてもらうか、自分が超偉いペンギンになってみんなを周りに集めるか。後者は信頼のない新人はまず無理だから、とりあえず自分の作品を向き合ってからでも南極に来るのは遅くないよ、って思う。みんなオーロラは見たいけど、近くで見るのは相当寒いぞ。最悪死ぬ。それが南極。


 もともとこの作品ページは「読まれないけどどうしたらいいですか」っていう質問企画に答えるものだったけど、質問内容に「手っ取り早く」「簡単に」というワードが散見されたので「そんなもんはねえ! 地道にやれ!」と回答をぶん投げたところで書いています。そういうと「根性論だ」って言われるけど、基本的にフィジカルに敵うものはないのでね。一番早いのはめちゃくちゃ読んで書くことです。だってここは南極なので。はい、ムシャクシャおわり。


<了>

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