阿蘇の高原の冴えた空気の片隅で、梅雨の時期にひっそりと咲く薄紫の花がある。
冷たい雨粒に打たれながらも、薄い花びらを閉じることなく、必死に開こうとするその姿。
決して派手ではなく、むしろ見落とされがちな存在でありながら、そこに確かに在る。
それは、強さを誇示しないまま生き延びてきた、ハナシノブという花の姿だ。
読み進めるほどに浮かび上がってくるのは、壊れやすさではなく、むしろ感情の粘り強さである。
否定されることを恐れながらも、それでも言葉を残そうとする人々。
簡単には折れない思いが、花の名を借りて静かに語られていく。
夢のような比喩に包まれながらも、この物語が見つめているのは現実だ。
誰にも気づかれない場所で、それでも咲こうとする意志。
その確かな存在感こそが、この作品の真髄である。
「司書」という言葉に、こんなにも残酷さと美しさが同居する物語があるのかと驚かされました。
他者の記憶を抱え続けることで、自分の輪郭が少しずつ削れていく少女。その傍らで、彼女を一人の人間として見ようとする少年の必死さが、静かに胸に残ります。
魅力は、独創的な設定だけではありません。
季節の移ろいや花言葉が、二人の心の揺れをそっと照らしていて、読んでいるこちらまで息を潜めてしまうような繊細さがあります。
「削稿」という逃れようのない仕組みの前で、言葉が、そして小さな約束がどんな形を結ぶのか。
最終話で描かれるハナツメクサの色彩に触れたとき、きっと誰もが立ち止まると思います。