『四弦奏者のための、孤独の奏法。』

 遥の情熱と「好き」という気持ちに触れ、バンドの世界に飛び込める作品。
 「音」という普遍的なテーマを扱いつつ、物語の展開の仕方は遥が感じている緊張感や興奮に合わせ、丁寧に進行されている印象です。
 そのお陰で楽器を演奏した経験のない人(私のことです)でも楽しめる構造が完成されていたのではないかと思います。

 特に自宅で独りベースを練習する場面は特に印象的で、彼女の感じている喜びや楽しさを追体験できたように思います。
 この追体験にこそ、カタルシスがあったように私は感じました。すなわち遥の心情に共感でき、その情熱を共有できたように感じられたということです。
 楽器を演奏する喜びを、こうして小説という媒体を通じて体験できることは、本当に有難いことだと私は思います(しみじみとそのようなことを思いました)。

 物語はバンドのメンバーが顔を合わせる場面で止まっていますが、「早く続きを見たい!」、そう思えるほどに懐かしさと馴染みやすさのある作品だと思いました。