悪夢のような場所

 心理描写がとても繊細で、丁寧で、そして示唆に富むものでした。
 特に描くべき心情の構造を的確に捉え、小説に昇華している印象を受けました!

 衝撃的な成層圏ダイブから始まり、いっきにSFの世界へと放り込まれる。
 ロボットや荒廃した都市、宇宙戦争という言葉が相応しいその光景を写実的に描き切る。
 この時点で、我々は物語の世界に引き込まれるのだと思いました。

 そして冒頭の印象的な場面を説明すべく、物語は次の場面へと変わりました。
 主人公のボスが彼に昇進の話を持ち掛けますが、彼は断ります。

 なぜ断るのか?

 そのような問いを言葉なしに投げかける技巧により、読者は想像力を働かせる必要があり、加速度的に物語へと引き込まれる。
 つまり彼らは、素数なのでしょう。何者にも比類させず、何者にも隷属しない。そして世界そのものを構成する要素に自らなろうとする。
 それがこの物語の主人公であり、厳しい世界を生きる者の矜持なのだろう。
 そう思いました。