ギガントシャーク KAIJU EVOLUTION

亀井惺司

第1話 恐怖の怪獣遊園地



 20xx年代ー

怪獣災害が現実となってから1年が過ぎた。

守護怪獣と怪獣対策機構は今日も世界中を調査し、研究と対策を進めている。


守護怪獣ギガントシャークと研究員ミスティ、見習い調査員のブレットとマークは太平洋、宮城県沖に浮かぶ鶴光島に向かっていた。この島には元々、人家と役場、一つの商店以外には何もなかった。娯楽施設は一切なし。人口は数百人。船は一日2回。コンビニエンスストアすらない。自然は豊かで島の役場には貴重な郷土資料もあり、決して無価値な島ではないが、わざわざ来たいと考える観光客はほとんどいない。大学の民俗学者が稀に民俗採訪にやってくるが、それ以外の来島者はゼロに等しく、観光産業は壊滅的だった。若者は島を出ていってしまい、島は過疎化の一途を辿っている。この島に目をつけたのが、世界的アミューズメント会社の社長、ロン•ファーマーである。幅広い分野の事業を展開し、慈善活動にも熱心な実業家ロジャー•ファーマーの息子である。父はその地域の特色、魅力を生かした観光開発を行い、必ずしも見た目上の派手さを重要視しない。しかし彼は見た目のインパクトと派手さを至上のものとし、とにかく客引きが出来ればいいと考えており、父のやり方も地味でダサいと嫌っている。そのために捨てるほどにある金を湯水のように使い、とにかく豪華なものを作る。今彼が作り上げたのは巨大な遊園地「カイジュウランド」である。と、言っても彼の性格上アトラクションに地域の特色は出ておらず、アメリカにあるシックス•フラッグスのような絶叫マシン中心の遊園地だ。彼はとにかく「巨大」にこだわっておりジェットコースター「ケツァルコアトル」は全長3000m、所要時間5分、不気味なクリーチャーが蠢く巨大怪獣の死体の内部を探索するという設定のSFホラーお化け屋敷「怪獣体内迷宮」は所要時間120分、コーヒーカップですら巨大で、一つのカップに20人乗れる。観覧車だけはスペースの関係で高さ60mと観覧車としては決して巨大とは言えないサイズになったが、この観覧車が問題だった。シャークたちはこの観覧車に関する重大な問題について調査するため、鶴禿島に向かっていた。この島を代表する伝説の一つに「龍鴉」がある。龍鴉という妖怪が島の集落を脅かし、島にやってきた侍がこれを封印したという物語だ。ある特殊な力を持った侍が全国の離島で妖怪退治をして回ったという記録物語「島嶼妖退治伝」の一幕だ。江戸時代に書かれたもので、鏡島のミズハメ退治もこの物語の中で語られている。この侍はカイジュー族の末裔ではないかとされており、同じく彼が残したと見られる「日本妖大全」と共に日本における怪獣研究の最重要資料とされている。物語の中で龍鴉は倒されておらず、封印されている。つまり龍鴉と呼ばれる怪獣は鶴光島でまだ眠っている可能性が高い。上空から調べたところ、Kエナジー濃度が高くなっている地面がある。そしてロンが観覧車を建てた場所はその地面とぴったり重なるのだ。これがどういうことなのか、ロン本人に聞くためにシャーク一行は島に向かった。

「ここまでぴったり重なる位置に観覧車を建てるなんて、知っててやったとしたら正気を疑うわ。」

ミスティがそう言う。

「フィジーで会ったおっさんの息子だよな、ロンって。」

「何考えてんだか‥」

ブレットとマークはそう話していた。

「アノシマ マズイゾ。」

「ヒジョーニマズイ。」

2頭のヨシキリザメがそう会話するのをシャークが聞いた。

「どうマズイんだ?」

「ニンゲンノ アソビバガウゴケバ カイジュウメザメル。」

「やはり‥」

シャークたちは急いで島に向かった。島に着くと、巨大なジェットコースターや怪獣の死体を模したお化け屋敷が見えた。観覧車はジェットコースターの下にある。その前に白いスーツを着込み、髪をワックスで固めた若い男が立っていた。ロンだ。

「島民の皆さん!この僕の財力で、このクソ田舎‥失礼、この美しい島に、新たな名所が完成しました!」

ロンは高らかに言う。

「それでは今から乗り物を動かし、営業を開始します!」

ロンはスイッチを押そうとする。

「ちょっと待ちなさい!」

「何ですか‥島民の方ではなさそうですが。」

ロンは苛立ったそぶりを見せながら言う。

「怪獣対策機構のミスティです。ロン•ファーマーさん。あなたの観覧車の真下に怪獣が眠ってるんだけど、どう言うこと?」

「そのことならご心配なく。この僕が観覧車を建てて二度と目覚められないようにしたから。」

「あなた‥本当に知っててやったの?」

「あぁ。知っていたとも。だから塞いだのさ。地面をコンクリートでガチガチに固めて、さらに上に観覧車を建てた。僕に賞を贈ってくれてもいいんだよ?」

「塞いだですって?コンクリート如きで怪獣を封じ込められるとでも?遊園地の営業が始まって、客でごった返している時に怪獣が目覚めたらどうするつもり?」

「心配いらない。そんな時のために、地元猟友会の皆様方に特殊ライフルを持たせた。これで心臓を打ち抜けば、流石の怪獣もひとたまりもないさ。」 

「ライフルで倒せると?」

「あぁ。どんなにデカくても、生き物なんだから弱点さえ撃てば死ぬだろ?」

「あんた怪獣舐めてるの!?」

ミスティがかつてなく声を荒らげながらロンに詰め寄る。

「怪獣はね、普通の生き物とは根本から違うの。分類に新しい界が必要になるくらいにね!弱点は決まってないし、心臓や脳が胸や頭にあるとは限らない。一般の猟師の方には絶対に勝てないの!」

「あんた、怪獣と戦った経験はあるのか?」

ブレットが猟友会の代表の壮年の男に尋ねる。

「あぁ。あるだよ。畑を荒らす鹿や猪をよく狩っとるからな。」

男は得意げにそう言った。

「害獣と勘違いしてる‥」

「違うんか?」

「いや‥同じとも言えるけど‥被害の規模が違うぞ‥」

「今すぐ営業を停止しなさい!」

「嫌だね!せっかく作った遊園地だ!皆さん!心配することはありません!開園記念に今日はただで遊び放題ですよ!」

ロンはスイッチを押すと、遊園地内に光が灯り、花火が上がり、陽気な音楽がかかる。島民たちは近くにあった観覧車に乗る。観覧車が回り始める。遊園地など行ったこともない島の人々たちは観覧車に乗って始めてみる高所からの景色に大喜びしている。

「どうなっても知らないわよ。」

ミスティがロンを睨む。

「心配するなって、絶対安全だから。」

観覧車がゆっくりと回り始め、一周したその時、地面が大きく揺らいだ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ‥!

コンクリートにひびが入り、地面を突き破って巨大な生物が現れる。

ガガガガァァァァァーッ!

二足歩行に長い尻尾の怪獣らしい体型で全身を緑がかった黒色の羽毛と鱗に覆われている。顔はカラスに似て嘴があり、目は赤く、目つきは鋭い。頭頂部にはギザギザとした鶏冠がある。

「出たぁ!」

「バカな‥こ、こんなに早く!」

「だから言ったでしょう!」

怪獣はジェットコースターに鳥のような鋭い爪を立て、レールをバリバリと破壊し始める。人々は慌てて逃げ出す。レールに嘴を突き立て、コースターを咥え上げる怪獣。尻尾の一振りで大きなメリーゴーランドとゴーカート場がまとめて破壊される。怪獣は尚もジェットコースターのレールを楽しそうに破壊する。

「何をしてる!早く撃て!」

ロンの一声で猟友会の男たちがライフルを一斉に発砲するが、鎧の如く硬い鱗と羽毛の前に、銃弾は何の意味もなさない。それどころか怪獣を逆上させてしまった。

ガガガガァァーーーッ!

怪獣はこちらに向かって進撃してくる。あまりの気迫に男たちは尻尾を巻いて逃げてしまう。ロンも慌てて逃げ出す。ブレット、マーク、ミスティは電磁レーザー銃を向け、怪獣を攻撃するが、効果は薄い。このままでは勝てない。しかし、人類には彼がついている。

「待ってたぜぇ!」

地面を破り、我らが守護怪獣ギガントシャークが姿を表す。

ガガガガァァーッ!

孤島の巨大遊園地で怪獣同士の決戦が始まった。シャークが怪獣の羽毛を掴み、そのまま背負い投げを行う。

「シャーク背負い投げ!」

これによりジェットコースターは完全に破壊された。怒った怪獣は鋭い爪でシャークに連続攻撃を見舞った後、嘴で腕に噛み付く。

「ぐっ!」

シャークが呻く。

「シャークスパーク!」

鋭い嘴で指を食いちぎられそうになったシャークは素早く放電し、怪獣を引き離す。

ガガァァッ!ガガァァッ!

怪獣は頭をキツツキのように降り、嘴で連続突き攻撃を見舞う。シャークはこれを軽々とかわし、鳩尾に電撃パンチを打ち込む。

「シャークエナジーパンチ!」

ガァッ!

怪獣がえずく。怒った怪獣はシャークに怒涛の連続攻撃を見舞う。軍鶏やヒクイドリのような蹴り、ボクシングスタイルのパンチと爪攻撃でシャークを押していく。

シャークは遊園地の端の方に追い詰められる。怪獣は飛び上がり、腕をバタバタと動かしながら空を飛ぶ。ニワトリ程度の飛行能力があるらしい。怯んだシャークに上空からの急降下する形で嘴を突き刺す。

「ぎゃぁぁっ!」

強靭な嘴によって成される啄み攻撃。これが痛いことこの上ない。しかも執拗に続く。怪獣はシャークを踏みつけて飛び跳ねる。シャークは攻撃に耐えながら電気を溜め、一気に放電する。

「シャークスパーク・マキシマム!」

ガガガガァァーーーッ!

衝撃波を伴う電撃。怪獣は吹っ飛ばされ、お化け屋敷を完全に破壊して倒れる。怪獣はしばらくじたばたとのたうち回っていたが、完全に動かなくなった。シャークは倒せたかと思い、そっと近づき、死んだかどうかを確かめようとする。シャークの手が怪獣に触れようとした瞬間、

ガガガガァァーーッ!

怪獣が息を吹き返し、シャークに襲いかかり、押し倒す。擬死を行っていたのだ。怪獣はシャークに覆い被さった状態で突き、引っ掻き、噛みつきを連発。シャークは放電で怪獣を引き剥がそうとするが、もはやそれには慣れてしまっているようで剥がれない。シャークはひたすらに電撃を放ち、痺れさせることしかできない。怪獣は口からシャークの顔にドロリとした液体を垂らす。酸性の嘔吐物らしい。シャークの顔から湯気が立つ。そして長い放電の末、ついに怪獣が離れる。シャークも立ち上がる。怪獣は再びボクシング式のパンチ攻撃を繰り出してくる。シャークは避けた後、地面にあった巨大コーヒーカップを引き抜き、怪獣の頭に被せた。

ガガガガァーーッ!

前が見えなくなった怪獣がふらつく。シャークは落ちていたジェットコースターのレールで怪獣をめった打ちにする。シャークは渾身の力を込めて最後に観覧車を引き抜いた。そして怪獣に向かって投げつける。

グワシャーーーーン!

ガガガガァァーーーッ!

シャークは怪獣の尻尾を掴んで振り回す。

「シャークスイング!」

怪獣はコーヒーカップを頭に被った状態で海に着水。シャークはそれを確認すると、鼻先に水をつけてロレンチーニから放電。

「シャーク・ネットワーク!」

水上に電磁ネットワークを広げ、近海のサメを集める。コーヒーカップを頭に被ったままふらつく怪獣の周囲に、大量のサメが回転するように泳いで巨大な渦潮を作り出す。

「必殺ムラサメ流し!」

ガガガガァァーーーーッ!

怪獣ーこの後「ドラコルヴォー」と名付けられたーはじたばたともがきながら大量のサメに噛まれ、海の底に沈んでいく。

やがて渦潮が消え、海にはわずかな羽毛だけが浮いた。

「ふぅ‥決まったぜぇ‥」

シャークが海から上がると、怒り狂った様子のロンがいた。

「おいサメ!どうしてくれる。開園して1分で僕の遊園地をめちゃくちゃにするなんて!もっと配慮して戦え!」

「それは悪かったが、怪獣との戦いで周りの建物を壊さずになんてのはあまりに無理な話だ。」

「莫大な金をかけたんだぞ!弁償しろ!」

「お前は怪獣がいると分かっててこんなユーエンチを作った。遊びに来る客の命を危険に晒したんだぞ。そんな場所ははっきり言って壊れた方がいい。もう一度やり直せ。壊された命は二度と戻らないが、物なら直せる。」

ミスティたちも頷く。

「そんなんで理解できるわけが‥」

その時、ロンの携帯電話が鳴った。

「ん、なんだ?もしもし‥あっ、父さん‥聞いてくれよ‥えっ‥勘当?ちょっと待ってくれよ!父さん!」

ロンは今回の軽はずみな行為による災害を聞いた父ロジャーから勘当を言い渡された。そして怪獣を舐めている息子に怪獣対策機構の大変さを身をもって知ってもらうためにシャーク一行に同行するよう命令された。ミスティの方にも連絡が来る。ミスティは頷くと、電話を切る。

「ついてきなさい。怪獣と戦うことがどういうことか教えてあげる。」

「よろしくな。お坊ちゃん。」

「言っとくが特別扱いはしないからな。」

ロンは不機嫌そうな顔で3人に着いていく。

彼はこれから怪獣の恐ろしさと計り知れなさ、怪獣時代の世間の厳しさを知ることになるだろう。

その後、ロジャーに島に郷土文化や豊かな自然を生かした場所が作られることになった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ギガントシャーク KAIJU EVOLUTION 亀井惺司 @gigantshark

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ