深雪

@aaadd2

深雪

助けは来ない。体全部に冷気が染み込んでいる。飛沫の雪が身体に刺さって痛い。息はもう白くない。痺れた手が布の下でぐしょぐしょに濡れている。ポットのお湯は飲み尽くした。こんなことならもっと持ってくれば良かった。でもそもそもこうやって、持ち堪えていることに意味はないのかもしれない。ぼんやりと温かい頭で、意識を手放したくなる。いけない。眠っちゃいけない。まだ、まだ死にたくはない。だからまだ、楽になっちゃいけない。目を閉じた友達はもう目を覚さない。小さな体をより縮こまらせて、ぐっと端に押し込もっている。嫌だ。まだ大丈夫なはずだ。きっともうじき天候が落ち着いて、きっと人がやって来るはずだ。だから後少しだけ、後少しだけ耐えなきゃならない。


遠くに、影が動く。それは毛まみれの生き物。私を抱き上げて、何処かへ連れていく。友達の石みたいな肢体に触れても、私はどうとも思わない。助かった、それだけだった。この吹雪の中で、驚くほどその胸元は温かい。私は安心して、目を瞑った。


彼は、結果的に信心深い男だった。何にも教えられなかったから、何かを信じてはいなかったけど、模倣することが好きだった。彼の模倣は、病的に真摯で誠実だった。彼の掌は厚く、掘る穴は深い。納められた少女達は雪に埋め立てられ、春になっても眠っている。それだけの幸福がある。奥まで突き刺さった木棒は、時が経っても倒れない。それでも天頂には日が昇り、彼女らの墓所は照らし出される。しかし雪の層は厚く、奥まで光の届くはずはない。


その雪山には、雪男が居ると言われている。


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